【動画公開&解説】川上統『越前海月』for 2pianos (2019ver)
2019年11月2日に渋谷・公園通りクラシックスにて開催された「梨本宮里ピアノ・デュオ Contemporary Piano Duo Concert -響鳴-」。そこで世界初演された川上統氏による2台ピアノのための作品「越前海月」(えちぜんくらげ)2019改訂版のライブ映像を公開いたしました。
【越前海月】 -エチゼンクラゲ-
クラゲの仲間。傘の直径は2mにも達するかなり大型の生物。
川上統氏による楽曲解説
この曲を書いた時期は19年も前の事で、大学二年生の始め頃でありました。編成はピアノ二台の楽曲として書かれ、当時「水」や「海」のイメージをピアノに多分に重ねていた私は、ピアノ二台の作品ならば巨大なクラゲのイメージであろうと考え、かなり早い段階でこのタイトルが決まっていた事を記憶しています。
2000年に書いた初版から変わらぬ要素として、次のような幾つかの断片が特徴として挙げられます。
水景のような五連符によるピアノの走句、エチゼンクラゲ本体のような堆積された二台ピアノによる厚めの和音、内部奏法によるクラゲの透明な皮膚の感覚、あるいはクラゲにまとわりつく小魚の鱗の光沢。
どちらかというと、このクラゲを表現する以上に、クラゲを取り巻く海の風景を描写していた、という事を19年経ち改訂作業(主に続きを書く作業になりましたが)をしながら気づく事となりました。今回改めてこの曲を音楽としての生物のように考えた時に、「こうした終わり方をしたら、もう少しこのクラゲらしい茫洋とした生命力を描写できるのではないか」という要素を3ページ程書き足した形として改訂しました。
改めて「生物としての表現を曲として書く」ということの説明をするならば、それは「作りたい音楽自体に生命力の個性というものを発揮させたい」という願いからきているのだとお答え致します。今回の越前海月に関しても、2000年当時描写的であった表現は拙いながらも自分なりの生命力を出そうとしていたのだな、と思い返し、それを弾きたいと願って下さった梨本宮里ピアノデュオのお二人に感謝を申し上げると同時に、その続きを付け加え現在に繋がる音楽の生命力を発揮できるように、改訂版をお二人への私の返答として献呈したいと思います。
文・絵/川上統
川上統 Osamu Kawakami
1979年生まれ。東京生まれ、広島在住。東京音楽大学音楽学部音楽学科作曲専攻卒業、同大学院修了。作曲を湯浅譲二、池辺晋一郎、細川俊夫、久田典子、山本裕之の各氏に師事。
2003年第20回現音新人作曲賞受賞。
2009、2012、2015年に武生国際音楽祭招待作曲家。
2017年、HIROSHIMA HAPPY NEW EAR 23 「次世代の作曲家たちV」にて室内オーケストラ曲「樟木」が広島交響楽団の演奏によって初演される。
2018年秋吉台の夏現代音楽セミナーにて作曲講師を務める。
楽譜はショット・ミュージック株式会社より出版されている。
作品はEnsemble Contemporary α、ROSCO、voxhumana、混声合唱団「空」、東京現音計画、next mushroom promotion、リベルテマンドリンオーケストラなどの様々なアンサンブル、演奏家からの委嘱初演がなされている。
現在、エリザベト音楽大学専任講師、国立音楽大学非常勤講師。Tokyo Ensemnable Factory musical adviser。Ensemble Contemporary α作曲メンバー。
作曲作品は170曲以上にのぼり、曲名は生物の名が多い。チェロやピアノや打楽器を用いた即興も多く行う。