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京山幸太 2019年振り返り。さらに映画の話も。2019年12月号より

2019.12.28 09:34

目次

1.自身初の忠臣蔵ネタを口演するにあたって

2.2019年を振り返って

3.映画の話

今回が2019年最後の十三浪曲寄席通信です。今年も沢山の方にご覧いただき、誠にありがとうございました。今回は浪曲の話だけでなく、12月公演にちなんで映画の話もお聞きしました。舞台では伝わらない幸太さんの一面も伝わると幸いです。

1.自身初の忠臣蔵ネタを口演するにあたって

―まず独演会についてお話をお聞きします。演目の一つが初の忠臣蔵ネタなので注目しているのですが、何をするのかお聞きしてもよろしいでしょうか。

幸:「吉良邸討ち入り」をやります。

―「吉良邸討ち入り」とは意外です。忠臣蔵にまつわる話は沢山ありますが、その中でこの話を選んだ理由はなぜでしょうか。

幸:まず他の人がお家芸にしてる演目は避けまして、それからネタを掘り起こすか迷ったんですけど、それなら先代がやってるネタを堂々とやろうと思って「吉良邸討ち入り」になりました。先代のやってるネタとなると、他には「大石東下り」か「人間 吉良上野」くらいしかないと思うんですよ。「人間 吉良上野」は吉良寄りなんで播州でやるのはマズいし、「大石東下り」は師匠がよくやってるし、その二つは選択肢になかったので。あと、「吉良邸討ち入り」は四十七士の言い立てがあって、大変なんですけど、お客さんの立場からすると聴きどころにもなるので、それも選んだ理由ですね。

―なるほど。その選び方ですと必然的に「吉良邸討ち入り」が残りますね。実際にお稽古を始めてから感じたことはありますか。

幸:テンポがうちの幸枝若っぽい感じとは違うんで難しいですね。言葉遣いも難しいし。「~でございます」なんかうちのネタでは滅多に言わない。はっきりと重く、内蔵助をやらないといけない。

―啖呵のテンポが違うんですね。いつもの関西弁が使えないのですね。

幸:それが難しいですね。間が違うんで、テンポが難しい。よその家のネタやってる感じで、前に隼人兄さんとの二人会でお家芸の交換した時の感覚を思い出します。

―たしかに堅い台詞を言ってるのはあまり想像がつきません。幸太さんは元々、忠臣蔵自体にあまり興味がない印象があったのですが、今回を機に忠臣蔵に対するイメージが変わった部分はありますか。

幸:あります。討ち入り前にみんなで集まってからのやり取りもグッときますし、浪曲でもそこの節が良いんですよ。その節は師匠にアドバイスをいただいて、鶯童節をちょっと入れてて、それがめちゃくちゃ良くて、ヤクザ物とは違う節付けの勉強にもなりました。

―鶯童節ですか。

幸:幸枝節とは違う泣き方、情の入れ方ができるんです。妻や子を置いて、大石の元に集った人の胸の内を思うと沸いてくる悲しさがありますね。ヤクザの兄弟分とは違う忠義の情が出せるんです。

2.2019年を振り返って

―今年を振り返っての話を聞いていきたいと思います。

幸:振り返りの前に、実はまだ終わってないこともあるんです。12月29日にR-1の一回戦に出場するんです。

―すごいのが残ってますね(笑)。それは是非とも次回の通信で詳細をお聞かせください。

※R-1は一般観覧可能で当日500円で入場可。会場はなんばパークスホール。幸太さんは「きらちゃん」の名前で出場し、13時から14時の間の出番予定。

幸:振り返りをすると、町田康さんと共演した影響が本当に大きくて。町田さんの本も読んだり、他の人の本も読むきっかけになりましたね。

―すごい影響受けてますね。

幸:今、超新作浪曲を書いてるんですけど、それも8月の会で町田さんがイエス・キリスト伝とかコンゴ水滸伝とか提案してくれたことに影響受けてて。話の内容は違うんですけど、あの発想を聞いて、そんだけ攻めてもええんやと思えたからこそ書けるネタです。良くも悪くも意見が出る方がいいから、「そんなん浪曲ちゃうやろ」って批判されるくらいに笑いによったネタを書いてるので次の超新作浪曲は「ギャルサー」よりもっとひどいと思います。

―ひどいって(汗)。ブッ飛んでるということにしておきましょう。ストーリーとしての新しさでしょうか。

幸:演出ですね。ストーリーはみんなが知ってる話です。絶対みんなが知ってる話やけど、脚色しまくってるんで、そんな訳ないやんっていう話になってます。あと、それは浪曲でありなんかっていうことをします。これはハリウッドザコシショウさんの影響受けてますね。

―ハリウッドザコシショウさんは事務所(SMA)の先輩でもありますし、今年の振り返りにも繋がりますね。

幸:今年ハリウッドザコシショウさんのライブを手伝いさせてもらって、やっぱりすごいなと思いました。事務所に入ったことで、ジャンルの違う同世代の芸人さんと話す機会が増えてきて、浪曲を知らない人ばっかりやったり、みんなのどんな形でも良いからウケたい売れたいという気持ちが伝わってきて刺激にもなりましたね。浪曲も大衆の娯楽やから、現代人が共感できるようなことをしていきたいし、そのためにはサラリーマンとかOLを題材に浪曲をするとかではなく、感覚の問題で昔の物でも今に伝わる面白いやり方を考えていかなアカンって思いますね。先代の幸枝若師匠も本来なら固いネタに笑いを入れて、当時の人をウケさせてたので、そういうことをやってたんちゃうかなと思います。それで、伝統を守るというのは古くさせない、新しくすることじゃないかなって最近思うようになりましたね。

―今の人が楽しめる娯楽であることはすごく大切なことだと思います。幸枝若師匠が幸太さんの活動を前向きに捉えてくれてるのも大きいですね。

幸:師匠からは「お前見てたら羨ましいわ」ってよう言われます。「真面目なことは歳取ってもできるから、今、浪曲ファンにだけウケるようなことやってたら、お前が歳取った時にお客さんついてきてくれへんぞ。食べていけへんし、芸人としても大きくなられへんから、今のファンを納得させることは当然目指しつつ、そこだけを見てたらアカン。今の世間や世相を考えろ」って言われます。自分自身も正直迷ってた時期があって、自分が世間にウケるような人になれるんかって思って、真面目に浪曲だけやって、そこそこうまい浪曲師でええんちゃうかなって思ってしまった時があったんです。そういう時に師匠がたまたまかわからないですけど「もっと大きい芸で大看板にならなアカン。玄人だけにウケる浪曲師には絶対になるな」って言われたので、そういう師匠の考えが影響していますね。それがなかったら、自分の今の浪曲がうまくなることで満足してたかもしれないです。なんの話でしたっけ?(笑)

―なんでしたかね…。今年の振り返りだったかな(笑)。最後に今年を振り返って漢字一文字で答えてください。

幸:今年の漢字ですか。浪曲に関しては妹弟子ができたことも影響してると思うんですけど、師匠からは「実力もついてきたし、そろそろ文化庁受けてみたらどうや」って言われてて。浪曲以外ではお客さんからトークを褒めてもらえるようになってきたり、お笑いも先々月は物凄いスベったんですけど、先月はそれを修正したらすごく良くなったりしてて、そんなこともあって、今年は来年に向けての種が蒔けたということで「種」でどうでしょうか。

―最後キレイにまとまりましたね。

幸:はい。まだ結果が出てないので来年に向けて「種」でお願いします。

―まだまだ満足せず、来年への意気込みが感じられます。

幸:今年はちゃんと自分の進みたい方向性が定まってきた気もします。過去の十三浪曲寄席通信を読み返すと、回答が定まってない時があるんですよ。自分自身迷ってたんですよね。それが夏くらいに浪曲はしっかりやって、その上でお笑いも頑張ったらええんちゃうかなって吹っ切れたというか。

―たしかにインタビューでも回答のキレが良くなった気がします。

幸:前にインタビューで「どうしたいのか」と聞かれて、すごく長考してしまったことがあったんですけど、そういうのはなくなりましたね。売れるかどうかは運もあるし、わからへんけど、今頑張ってることは企画力やったりトーク力として最終的には浪曲にも還元されるやろうし、それでいいんちゃうかなと思っています。

3.映画の話

―最後に12月公演のゲストが活動写真弁士と楽士の方なので、それにちなんで映画について聞かせてください。

幸:そうですね。映画に詳しいわけではなくて、一番最近に見た映画は「クレヨンしんちゃん」です。

―そうきましたか!

幸:何となく見たくなって、焼き肉ロードとヘンダーランドと。アニメ好きというほどではないんですけど、クレヨンしんちゃんは時々見たくなります。むちゃくちゃ面白いいですよ。お決まりのボケが連発で。

※正式タイトル「嵐を呼ぶ 栄光のヤキニクロード」と「ヘンダーランドの大冒険」気になる人はぜひ見てみてください。

―予想してない作品きました。

幸:あと、ポケモンのピカチュウとの出会いを描いた映画。そんなんしか観てないんですけど、こんなんで大丈夫でしょうか(笑)。

※「劇場版ポケットモンスター キミにきめた!」

―大丈夫です。普段のインタビューでは浪曲の側面が多いので、逆に興味深いです。

幸:「おそ松さん」も好きですし、ギャグアニメが好きなんですよね。あと、有名どころの漫画も好きで「NARUTO -ナルト-」とか「ハンターハンター」も一気読みしたりします。 あっ!あと、クイーンの「ボヘミアンラプソディ」はめちゃくちゃ観ました。10回映画館行きました。

―10回も!

幸:めちゃくちゃ良かったですね。筋も良かったし、肝心の曲が良いですし。

あまりマニアックなのは見ないんですけど、話題作は観ないといけないと思ってて、今月は「カツベン」とか「決算忠臣蔵」観とかなアカンなって思ってます。それでも、俳優ではやっぱり高倉健さんが一番好きです。

―そうなんですか。この話の流れからけっこう意外な方向。

幸:鼻唄でも「昭和残侠伝」とか「網走番外地」を口ずさみます。そしたら、初月姉さんに「やめて!健さん以外で聴きたくない!」って言われるんです。

―初月さんが健さん好きっていうのは想像できます。幸太さんも健さんの映画を観てましたか。

幸:めちゃくちゃ観てます。晩年の作品から入ったんですけど、それから昔の作品も掘り起こして観ていってます。

―演技が好きなんですか。それともお人柄でしょうか。

幸:カッコいいんですよ。健さんは演技がうまいというよりは、どの役をやっても健さんらしい。健さんにしかできない雰囲気を持ってる。そこがスターなんですよね。これは浪曲にも通ずるところがあって、師匠が言ってるように「お前にしかできへん大きい芸をしなアカン」って言われるし、過去の名人と言われる人たちも聴いたらすぐに「この人や」ってわかる芸なんですよ。

―なるほど。健さんの魅力と浪曲がここで繋がってくるのですね。