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かほ

人狼をする女たち~疑いの根拠は基本的にパーソナリティ~後編

2019.12.28 12:17

○第3夜


「朝がきました。広場の真ん中ではちかちゃんが死んでいました。」


悔しそうな表情でちかちゃんが立ち上がる。


「やばい。ガードマン死んでるな…」


新熊が状況整理を始める。

私は小さく頷きながら、心の中で150回目のガッツポーズを決めたところだ。


一か八かで選んだ占い師のちかちゃんが死んだ。つまりかなりの確率で運よくガードマンも死んでいる。占いによって暴かれる可能性が消えたのは大きい。まだ勝機はある。


しかし……なんとか狼の濡れ衣を着せられないかと思っていた新熊だが、なかなか状況は厳しい。

新熊はここまでかなり積極的に状況整理をしたり、狼らしき人物の特定を的確にしてきている。

疑いを向けるのは難しい状況だ。

発言の矛盾のなさ…切実さ…何よりも、この伸び伸びとした態度…まぁ間違いなく「モブ村人」であろう。


どんだけただの村人引くねん。

心の中で思い切り舌打ちをする。


新熊になすりつけることが厳しいとなると、村人判定を得ているはるさん以外にまだ生存しているのは、りっこ、ただ一人だ。


りっこは人狼をする中で、最も弱点となる要素を、残念なことに兼ね備えている。


「顔に出る」のだ。


パーソナリティーを守ることが必須となるこの人狼において、最弱の人物と言っても過言ではないだろう。

(現に、私が書いているこのゲームの次に彼女は狂人を引き、初日に「なんか変な顔して黙る」という最悪の戦略を取り、秒で殺されていた。)


そんなりっこに、細かな駆け引きなどは効くはずがない。彼女は真っ直ぐな瞳で「自分は村人だ」と訴えている。嘘が顔に出る人間ほど、嘘をつかなくていい時の晴れやかさには、真実味がある。


くそ。難しいな。

もう私に残された道は「大きな声を出してりっこを萎縮させること」しかなかった。


「いや!まじで村人やねん!!!信じて!!!まじやねんて!!!くまは村人っぽいから、りっこやわ!!私村人やから!!」


とにかく大きな声を出す。

りっこの発言に被せるように。

とにかく大きく。


しかしりっこも当然反論をしてくる。


「いや!うちほんま、村人やから!ただの村人!!え?狼やんな!?」


りっこに指を差され、ほんの一瞬、たじろいでしまう。無理だ。りっこの目には、怪しさの欠片も見受けられない。


「えぇ…りっこ、じゃ、ないん?なら、くまやわ。」


りっこに執着しても分が悪いと悟り、撹乱を狙って、新熊に疑いをかけた。

しかし、これが悪手だった。


「えっ!?佳穂や。もう絶対佳穂や。ブレブレやもん!佳穂やわ!」


新熊が間髪を入れずに突いてくる。

万事休す。

唐突に疑う人物を変えたことで、どちらでもいいから罪を被せたい、という本心が顕になってしまった。


そして時間がきて、ここで多数決をとることになった。

残念だが、ここまでか…。


3人に差されることを覚悟しながら、新熊を指差す。


ん…?

3人から、差され…ていない…?


新熊、りっこは当然のように私を指差している。


しかし、村人判定を受けており、ここまで静観する姿勢をとってきたはるさんが、私ではなく、私と同じように新熊を指差しているのだった。


この会話の流れで、な、何故…?

話聞いてなかった…?


あっー!


「はるさん、狂人か!」


私が気づくのとほぼ同時に新熊が叫んだ。


なるほど、はるさんは私が狼であることを察して、狂人として私に同調しているのか。


「はるさん、狂人か?」


新熊が詰め寄るが、はるさんは何も言わない。

いやここは一応「村人です」とか言おうや。


「はるさん、狂人?」


はるさんは何も言わない。


「はるさん、村人?」



「…………わからない。」



わからない!!!??


なんじゃその返答!?

リアル狂人やん!!


懐の広いはるさん。

みんなの母、はるさん。

嘘をつき、善良な村人を殺そうとしているこの状況に耐えきれなくなっている…。

向いていない。

いい人すぎて、向いていない。


はるさんが、狂人であることをほぼほぼ自供した形になり、場にいる全員が、完璧に現状を把握をしている状態になってしまった。


これは…?


村人、村人、狼、狂人という面子が残った場合、1対3と見ることもできるが、狂人の目的を考えれば、2対2と言えるだろう。狼と村人の数が同数になった時点で狼の勝ち…しかし、この場合は…?


多数決がどう考えても平行線を辿ることを鑑みて、天国チームがスマホを見ながら話し合いを始めていた。

おそらく、この特殊な状態の勝敗を検索してくれているのだろう。


ということは、何にせよ、もう決着はついているのか…。

私は勝利の可能性を信じて、天国チームの動きを待った。もうお互いにできることはない。これまでのプレッシャーを吐き出すように、深く息をついた。


その時。


新熊が身を乗り出して、はるさんにぐっと顔を近づけたかと思うと、囁くように話し始めた。


「なぁ、はるさん。これまでさ、色々あったけど、うちら協力して畑とか、耕してきたやんか。」


なっ…………!!


狂人を、説得する、だと……!!?


「いや、わかる、わかるよ。悪に憧れてしまうっていう気持ちは、誰しも持ってると思う。でもさ、うちらこれまで一緒に困難を乗り越えてきた仲やんか。」


いやいやいや、なんやこれ。

別になんも困難乗り越えてないやろ君たち。


おいおいおい、はるさん軽く頷いてるやん。

響いてるやん。


まさか、狂人に善の心を取り戻させ無理矢理3対1の状況を作ろうとしてくるとは…


恐ろしい奴…。


「ちょっ…」


私が口を挟もうとした、その時。


「はい、話します。」


のんちゃんが天国から語りかけてきた。


「この場合、狂人は狼チームに属するらしく、同数になった時点で、狼チームの勝利でした。」


「いえーい!」


久々に聞くちさの声に、ゲームが終わったことをやっと理解する。


つ、疲れた…。

勝った、勝った?


全くもって勝利の気分を味わうことのできない、なんともぬめっとした勝利。



それでも一応、勝ちは勝ちか。




村人…ひっとん、新熊、りっこ

占い師…ちかちゃん

ガードマン…のんちゃん


狼…私、ちさ

狂人…はるさん



あまりの疲れに体が脱力する。

手の中では、無意識に握っていた「狼」の紙が、汗でぐちゃぐちゃになっていた。


どんだけ、必死やねん。


「もう一回やろう。」


早く殺されて消化不良のメンバーたちが言う。

本当に疲れた。

本当に疲れている。


でも。


「よし。やろか。」



こうして、女たちの人狼は続くのであった。

果たして石川県の温泉旅館に集合する必要は、あったのだろうか…。





またやろうね。おわり。