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撮影

2019.12.30 02:45

Photo by William Bayreuther on Unsplash




今日はモデルとしての撮影の日だった。



普段の自分とは違う自分になる仕事。



それなのに自分の中味が出る仕事だから不思議だ。



撮影データをもらうたびに、「私じゃない」という思いと、「私だ」という思いが同時にわいてくる。



この日はおとぎ話の登場人物に扮した撮影。



「詩織ちゃんなら表現できる」



事前にカメラマンからはそう励まされていた。



当日スタジオに行く。



「この衣装を着てください」



ここに来るまでに着ていたセーターを脱ぐ。



衣装に袖を通す。



メイクは衣装に合わせたもの。



普段のものとは全く違う。



スタジオに入り、撮影が始まる。



ストロボの強い光が私に当てられた。



シャッターを切る音が響く。



シャッターの音が響くたびに、私は少しずつポーズを変える。



口元に当てていた手を頰に持っていき。



少し手首を下ろして首元に触れる。



右脚を少し曲げ、左脚を伸ばす。



そして今度は右のつま先をのばす。



腰をひねって、肩を落として。



口角をほんの少しあげたら、今度は真顔になる……。



一回シャッター音が鳴ったら、体の一箇所をほんの少し動かす。



「いいね」



私のモチベーションを維持するために、カメラマンは時折声をかけてくれる。



心の中ではカメラマンが言う通りの「おとぎ話の主人公」を思い描く。



一枚、また一枚と写真が撮影されていく。



「すごくいいよ」



カメラマンは一旦手を休めて、私に画面を見せてくれた。



そこにはおとぎ話の主人公になった私がいた。



本来の私ではない私。



演じている私。



なのに私らしさが強く出た私。



「すごくいい雰囲気」



誇らしげにカメラマンは言う。



「詩織ちゃんに頼んで正解だった」



普段の自分とは違う自分になる仕事。



それなのに私らしさがにじみ出るのは、カメラマンが私を見ているからだろう。



「ありがとうございます」



私は少し照れながら、カメラマンに礼を言う。



引き続き撮影が行われる。



端から見たら間違い探しのような動きを繰り返す。



撮影を終えて、衣装を着替える。



ここに来るまでに着てきた服。



これもまた、「自分に似合う」と思って選んだ服。



さっきの衣装も「私」になり、この服もまた「私」になれる。



演じているのはどっちの私か。



「今日はありがとう」



カメラマンはにこやかに挨拶をしてきた。



「こちらこそ、ありがとうございます」



私はそう言ってスタジオを後にした。








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