母の手術
母は大病らしい大病をしたことが、ありませんでしたが、81歳になったある日に血尿が出たのでした。 痛いとかいう自覚症状はなかったのですが、母はこの現象を甘くは見ませんでした。 血尿が出なくなっても決して油断しませんでした。
そこで国立病院に行って診てもらったのでした。
病院では精密検査をすることになりました。
検査の結果、血尿の原因は泌尿器に腫瘍が出来たためと分かりました。
そこで、早速、細胞の摘出検査が行われました。
その結果、医者の方から家族の方に話があるからということになり、私が伺ったのでした。
医者:細胞の摘出検査の結果、腫瘍は悪性であることが判明しました。
このまま放っておくと命が危なくなります。
100%保証出来るわけではありませんが、手術すれば延命の可能性があります。
ご高齢なので何とも言えませんが、ご相談の上、お決め下さい。
医者はレントゲン写真等を見せながら、説明しました。
母は検査の結果をとても心配して、私に聞きました。
母:お医者さんからどんな話があったの?
私:お母さんにお医者さんから話があったのと同じだよ。
おできが出来たので切った方が良いという話だよ。
私は母にこれ以上心配をかけたくないのでそう言いました。
私:それで手術するかどうかと言うことだけど、お母さんどうします?
母:それは手術を受けるよ。 だって、このままじゃ、どうしようもないでしょ。
私は高齢にもかかわらず、手術を恐れない母の勇気に感心しました。
ベッドが空いたら、病院の方から連絡があるとのことでした。
1ヶ月位たってから病院から連絡があり、手術の日程が決まったのでした。
入院してから改めて手術の前の精密検査が行われることになったのでした、
ところが手術の日が迫るにつれて、母に恐怖心が現れてきたのでした。
検査室に行くだけなのに足がすくんで前に思うように進めないのです。
手術をしたら、もしかしたら死ぬのではないかという恐怖心でした。
検査のときは弟が立ち会いました。
弟:お母さん。 手術じゃないんだから、検査なんだから大丈夫だよ。
母は心配のあまり、検査後は食事がのどに通らない状態でした。
私:食べたくなくても、しっかり食べなくてはだめだよ。
母:だって、食べられないからしょうがないじゃないか。
母は次第にやせてきました。
医者はついに母に言いました。
医者:手術を成功させるためには体力がどうしても必要なんだよ。
高齢だからこそ、良く食べて、運動をしなくてはだめじゃないか!
医者は母を厳しくしかりました。 愛のむちでした。
母はこの言葉によって、目が覚めたのでした。
それからというもの、手術の日まで、無理してでも食事をしっかりとり、病院の階段を上り下りして運動に努めたのでした。
医者はこれを見て、母を今度は励ましたのでした。
医者:良く頑張っているね。 その調子、その調子。
病院内で、他の人に医者は母のことを陰で誉めていたそうです。
しかし、精神的にはまだ死への恐怖感は消えてはいませんでした。
私:お母さん。 恐怖感をもって心配したって、良いことないんだよ。
かえって、身体に悪いんだよ。
母:だって、恐いんだからしょうがないでしょ。
お前は自分のことじゃないから、そんなことが言えるんだよ。
私の身にもなってごらん。
私:手術の前は生きてるんだから、死を恐怖することはないんだよ。
手術の時は麻酔なんだから、わからないんだから、これも心配することなんか
ないんだよ。
無用な恐怖心はかえって、手術に悪い影響を及ぼすから止めようよ。
母:わかったよ。 そうするよ。
いよいよ、手術の日が迫ってきました。
私は母に死への恐怖心をなくすようにと説いたものの、手術でもし母が死んだらどうしようと、とても心配でした。 ただ、心配しても事態が良くなるわけではありません。
もはや私に出来ることは祈ることだと考え、神社で心から母の手術の成功を祈ったのでした。
手術の日となりました。
母と私は落ち着きませんでした。 前の人の手術が少し長引き、その結果、母の手術の時間のスタートが遅れました。
母は担架に乗せられ、看護婦さんに連れられて、手術室に消えていきました。
私にとって、この時ほど時間が遅く感じたことはありませんでした。
ところが、やっと手術終了の予定の時間が過ぎても、母が手術室から出てきません。
大丈夫だろうか? 何か不測の事態が起きたのではないだろうか?
ドッキン
ドッキン
ドッキン
私は心配して、胸の鼓動が高まるばかりでした。
長い時間が経って、やっと手術室から母が担架に乗って現れたときは本当に安心しました。
後で医者からは手術の結果説明と切った部分を見せられました。
医者:ご高齢なので、手術にかなり時間がかかりました。
ただ、相当広く、悪い部分を含めて切ったので他に転移する恐れはないと
思いますよ。
今後とも定期的に検査を怠らなければ、長生きできると思いますよ。
私:本当にどうも有り難うございました。
私は心から感謝申し上げたのでした。
その後、お蔭様で母は本当に長生きをし続けて、今93歳なのであります。
私は少なくても100歳以上、元気で長生きをしてほしいと願っているのであります。