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Lê Ma 小説、批評、音楽、アート

風雅和歌集。卷第十一戀哥乃二。原文。

2019.12.30 23:24


風雅和歌集

風雅倭謌集。底本『廿一代集第八』是大正十四年八月二十五日印刷。同三十日發行。發行所太洋社。已上奧書。又國謌大觀戰前版及江戸期印本『二十一代集』等一部參照ス。



風雅和謌集卷第十一

 戀哥二

  忍待戀の心を

  永福門院

つゝむ中のかさねてきかぬ契こそまつ物からに賴みかたけれ

  戀の御歌の中に

うれしとも一かたにやはなかめらるゝまつ夜にむかふ夕くれの空

  院冷泉

たのましと思ふ心はこゝろにて暮行空のまたいそかるゝ

  從三位親子

かならすとさしもたのめぬ夕暮を我待かねて我そかなしき

  藤原重能

とはすともさはるとせめてきかすなよ待を賴みの夕暮の空

  待戀を

  新宰相

とへかしと思ふ心のあらましにたのめぬ暮そ空にまたるゝ

  戀歌に

  伏見院新宰相

賴まねとたのめし暮は待いはん哀と思ふ方もありやと

  寄鐘戀の心を

  前大納言尊氏

よしさらはまたしと思ふ夕暮を又おとろかす入あひの鐘

  戀歌とて

  永福門院

暮にけりあまとふ雲のゆきゝにも今夜いかにと傳てしかな

  待戀

  西園寺前内大臣女

をのつから思ひもいてはとはかりの我あらましに待そはかなき

  百首歌の中に

  前大納言爲兼

賴まねはまたぬになしてみる夜はの更行まゝになとか悲しき

  忍待戀の心を

  前權正僧圓伊

宵のまはたれも人めをつゝめはと更るつらさを忘れてそまつ

  光福院前内大臣女

つゝむ中は人めにさはる方やあると更てしもこそ猶またれけれ

  戀歌とて

  永福門院

たのめ捨てとはぬはさこそやすくともまつ心をは思ひやらなん

  契明日戀と云事を

  後伏見院御歌

いくゆふへむなしき空にとふ鳥のあすかならすと又や賴まん

  戀歌の中に

  進子内親王

見るもうしさすかさこそと待暮にあすかならすの人の玉章

  後照念院前關白太政大臣

面影は心のうちにさきたちて契し月の影そふけぬる

  藤原隆方朝臣月のあかゝりける夜下野かつほねに尋まかりたりけるに御まへにいとまいるよし申て侍けるつとめてよしさてもまたれぬ身をは置なから月見ぬ君か名こそおしけれと申つかはしけれは返し

  四條太皇太后宮下野

契らぬに人まつ名こそおしからめ月はかりをは見ぬ夜はそなき

  寶治百首歌中に寄月戀

  藤原隆祐朝臣

更にける眞木の板戶のやすらひに月こそ出れ人はつれなし

  おなし心を

  源和氏

忘れすは夜よしと人につけすとも月見るたひに待としらなん

  權大納言公宗

深ぬとも誰にかいはん人しれす待夜の月の宵過る影

  忍待戀の心を

  永福門院

まきの戶を風のならすもあちきなし人しれぬ夜のやゝ更るほと

  契待戀

  從三位客子

人はいさあたし契のことの葉をまことかほにや待ふけぬらん

  戀の歌あまたよませ給ける中に

  伏見院御歌

思ひとり恨みはてゝもかひそなき賴むれは又またれのみして

  歷夜待戀と云事を

  永福門院

我も人も哀つれなきよな〱よ[・は(イ)]賴めもやます待もよはえあす

  題しらす

  宣光門院新右衞門督

更ぬれとさはるときかぬ今夜をは賴みの中に待もはかなし

  夜戀を

  院御歌

深ぬなり又とはれてとむかふ夜の淚ににほふともし火の陰

  戀御歌の中に

  橡御門院御歌

いもまつと山のしつくに立ぬれてそほちにけらしいわかこひ衣

  待戀の心を

  伏見院新宰相

更はてぬ賴めしをさへ忘れてやさはるとたにも音つれもなき

  二品法親王尊胤

さらにこそあすの契りも賴まれぬすゝまぬ方のさはりと思へは

  進子内親王家春日

さのみやと我さへはてはつれなきに今夜は人に待としられし

  從二位爲子

さはりあれは後かならすのなくさめよいく度聞ていく夜侍らん

  憑戀を

  前大納言經顯

しゐて猶賴みやせまし僞りの契りもさすか限りありやと

  戀歌の中に

  權大納言資明

僞りのある世と誰もしりなから契りしまゝを賴むはかなさ

  忍契戀

  左近大將經敎

たまさかの人めのひまを待えても思ふはかりは契りやはする

  百首歌奉りし時戀歌

  權大納言公宗母

つもりける程をも人にみゆはかり待夜の床の塵ははらはし

  進子内親王

思ひやるねさめもいかゝやすからん賴めし夜はのあらぬ契りは

  戀御歌の中に

  伏見院御歌

とはすなる今よりかくやへたてゆかん今夜はかりはさてあかすとも

  待空戀と云事を

  永福門院

いひしまゝのこひたかはぬ今夜にて又あすならはうれしからまし

  題しらす

此暮の心もしらていたつらによそにもあるか我おもふ人

  戀雨を

  同院内侍

けふの雨よはるもわひしふるもうしさはりならひし人を待とて

  戀歌の中に

  從三位親子

我方のさはりをしゐてうらみねは淺かりけりとつらくこそなれ

  院卅首歌めされし時戀月

  前太宰大貮俊兼

賴めぬはこぬをうしとはかこたねとかゝる月夜を獨見よとや

  契不來戀といふ事を

  前右近中將資盛

伏見院御時六帖題にて人々に歌よませさせ給けるに一夜へたてたるといふ事を

  前大納言爲兼

夜かれそむるまちの月のつらさより廿日の影も又やへたてん

  二夜へたてたる

  從二位爲子

むなしくて又あけぬるよ一夜こそけにもさはりのあるかとも思へ

  おなし心を

  西園寺前内大臣女

さりともとけふを待しは昨日こそ夜かれになれぬ心なりけれ

  曉戀を

  賀茂重保

さりともと猶まつ物を今はとて心とはくそ鳥はなくなり

  戀歌の中に

  進子内親王

むなしくて明つる夜はのをこたりをけふやと待に又音もなし

  待戀の心を

  永福門院

何となく今夜さへこそまたれけれあはぬ昨日の心ならひに

  戀歌とて

とはぬかなとふへき物をいかにあれは昨日もけふもまたすきぬらん

  堀川院百首歌に初逢戀を

  修理大夫顯季

はりまかたうらみてのみそ過しかと今夜とまりぬあふの松原

  逢戀

  源兼氏朝臣

今更にくるしさまさる逢坂を關こえなはと何思ひけん

  ある女にはしめて物こしに申かたらひて歸りて朝につかはしける

  從三位賴政

逢もせすあはすもあらぬけふさやはこと有かほになかめくらさん

  大内にて月のあかかりける夜思ひかけすあひたりける女の行衞を問侍けれともいはさりけるに

  讀人しらす

行衞なき月も心しかよひなは雲のよそにも哀とはみん

  初逢戀を

  太宰大貮重家

逢事に身をはかへんといひしかとさてしも惜き命なりけり

  忍遇戀と云ことを

  從二位爲子

うき中のそれを情にありし夜の嫁よみきとも人にかたるな

  女と夜もすから物かたりしてあしたにいひつかはしける

  前大納言爲家

いきて世の忘れかたみと成やせん夢はかりたにぬともなきよは

  返し

  安嘉門院四條

あかさりしやみのうつゝを限にて又も見さらん夢そはかなき

  戀歌とてよめる

  永福門院内侍

逢みつる今夜の哀夢なれな覺ては物を思はさるへく

  從二位爲子

夢とてやかたりもせまし人しれす思ふもあかぬ夜はのなこりを

  夢中遇戀といふ事を

  藤原爲基朝臣

うつゝにもあははかくこそと思ひねの夢はさめてもうれしかりけり

  女のもとにあからさまにまかりて物かたりなとして立かへりて申つかはしける

  前大納言爲家

玉しゐはうつゝの夢にあくかれてみよしも見えし思ひわかれす

  題しらす

  法印長舜

ぬるかうちに逢とみつるも賴まれす心のかよふ夢路ならねは

  女のもとへ近き程にあるよしをとつれて侍けれはこよひなん夢にみえつるは鹽かまのしるしなりけりとて申て侍けるにつかはしける

  前大納言爲家

聞てたに身こそこかるれかよふなる夢のたゝちのちかの鹽竈

  返し

  安嘉門院四條

身をこかす契はかりかいたつらに思はぬ中のちかのしほかま

  忍逢戀

  徽安門院一條

つゝむ中はまれの逢夜も深はてぬ人のしつまる程を待まに

  建治百首歌の中に

  後西園寺入道前太政大臣

かきみたすねくたれかみのまゆすみもうつりにけりなさよの手枕

  題しらす

  讀人しらす

あひかたき君にあへるよ郭公こと時よりはいまこそなかめ

からあゐのやしほの衣あさな〱なれはすれともいやめつらしみ[・き(イ)]

  戀歌の中に

  章義門院

むかふ中のつらくしもなき氣色にそ日比のうさもいはす成ぬる

  百首歌奉し時

  徽安門院一條

我ためにふかき方にはいひなせとたかさはる夜のすさひ成らん

  忍遇戀

  新室町院御匣

哀なりかゝる人まの時のまも又いかならんよにかと思へは

  安嘉門院四條

人にたに忍ふる中のあかつきをたれしらせてか鳥の鳴らん

  戀歌に

  徽安門院

たま〱のこよひ一夜は夢にして又いく月日こひんとすらん

  別戀の心をよませ給ける

  後伏見院御歌

別路をいそかす[・ぬ(イ)]鳥の聲よりもまた空たかき月そうれしき

  おなし心を

  權大納言公宗

うかりける人こそあらめ曉の雲さへ峯になとわかるらん

  入道二品親王法守

深てとふ夜半の殘りはすくなきを又歸るさに猶いそくらん

  左近中將忠季

さても又いつそとたにもいひかねてむせふ淚におき別ぬる

  戀曉といふことを

  永福門院

きぬ〱をいそく別は夜ふかくて又寢久しきあかつきのとこ

  從三位客子

曉をうき物とたにしらさりき枕さためぬゆめのちりきも[・は(イ)]

  百首歌の中に

  太上天皇

たまさかの夜をさへわくる方のあれや鳥の音をたにきかぬ別ち

  進子内親王

出かてに又立かへりおしむまにわかれの戶くち明過ぬなり

  戀歌とてよめる

  從三位親子

明ぬるか又はいつかの鳥の音に人のたのめをきくまてもなし

  句のかみに文字をゝきてよみ侍ける歌の中に

  前中納言定家

手に結ふ程たにあかぬ山の井のかけはなれ行袖のしら玉

  戀歌に

  從三位賴政

明ぬとてなく〱かへる道しはの露は我をく物にそ有ける

  別戀の心を

  後伏見院御歌

又やみんまたや見さらんとはかりに面影くるゝけさの別路

我ならぬ人もや忍ふかへるさの夜ふかき道にあへる小車

  戀歌の中に

  前大納言爲家

八聲なくかけのたれおのをのれのみなかくや人に思ひみたれん

  進子内親王

名殘をはさすかにかくる玉章に又此暮もなとか賴めぬ

  後朝戀を

  永福門院

そのまゝの夢の名殘のさめぬまに又おなしくはあひみてしかな

  從三位親子

いつとまつ日數はしはしなくさむをけさ別ぬるけふそわひしき

  永福門院内侍

稀にみる夢のなこりはさめかたみ今朝しもまさる物をこそ思へ

  九月はかり曉歸ける人のもとに

  和泉式部

人はゆき露はまかきに立とまりさも中空になかめつるかな

  題しらす

  讀人しらす

玉ゆらに昨日のゆふへ見し物を今日のあしたはこふへき物か

  藤原元眞

今朝こそは別れてきつれいつのまにおほつかなくも思ふなるらん