『審判』著者:けんとん
「それでは裁判を始めます。被告は前に出るように。」
「ママァー!!泡空姫が僕のおもちゃ取ったぁぁぁ!!」
「違うもん、獣光王が先に叩いたんだもん!!」
僕は訳が分からない、なんでこんな場所にいるのか。
早く職場に行って仕事をしなくてはいけないのに。
「やばーい、この椅子めっちゃ映える!」
「絶対、バズるよ!!早く撮ってぇー!」
違う、僕はこんなところにいてはいけない。
だってやるべきことがあるのだから。
「それでは被告、貴方の罪状は暗さという事ですが、これについて色々な方の意見を聞きた
いと思います。」
僕の裁判のはずなのに誰も僕を見ていない。
誰もがそれぞれの中で騒いでいる。
「では、はじめに何かある方。」
「はい、彼の暗さは伝染します。そばにいるだけで不幸な気持ちになります。彼はウイルス
と同じです。いえ、ウイルスは死にますがこの国では死刑は禁止なので彼はウイルスより酷
い存在です。だから彼は終身刑かつ独房行きを望みます。最近彼を見るだけでうちの子供た
ちの元気がなくなるのです。あ、この子が獣光王でこの子が泡空姫です。えっ、名前が変
わってるかって?うーん、この人に比べたらねぇ...。」
「ママァ、ういるすって何?食べ物?」
「ああっー!獣光王がシガニャン食べたぁー!!」
僕を見てないと思っていたのに、いきなり僕を見てくる。
しかも僕が言われたくないことを言ってくる。
無視されたい所は無視されない。
「なるほど。それは非常に危険ですね。もしかすると彼は本当にウイルスかもしれません
ね。こらこら泡空姫ちゃん、こんな所で服を脱いではいけないよ。」
暗い事はそんなにもいけない事なのだろうか。
たしかに人に迷惑をかけてるのだからそうなのだろう。
でも僕は暗い。
「あっ、私もあります。なんかこの前写真撮ってたら彼が写ってたんですよー。でも気づか
なくてインスタあげたらめっちゃ評価低くて...。ネット上でもバズらない神として有名です
よ。だから彼の存在がもういらないと思います。だから死刑のある国で裁判して死刑にした
らいいんじゃないかな。」
「えー、でもバズらない神ってハッシュタグ、最近めっちゃバズってるよ。だから死んでも
らったらそれもそれで困る。私、タピオカと彼の写真あげたら評価低かったけどコメント
めっちゃきたよ」
なんなんだ、人を評価の対象として見やがって。
僕は...僕は...。
「そうですか。それは非常に面白い意見ですね。因みにタピオカと彼の命はどっちが大切で
すか?」
「えっ?考えたことないから分からないです。だれか教えてくれたらいいのに。」
なんだこいつは。
人に意見ばっかり求めやがって、なにも自分の考えなんてないんじゃないか...あ、僕もそう
だったな。
人に任せてばっかりで本当の気持ちを考えないようにしてた...。
「それでは被告の弁護人...はいないので被告、自分自身で弁護をお願いします。
「僕は...いえなんでもないです」
「被告、なにもないならば判決を言い渡します。被告、貴方を...」
「僕は、露出する事が大好きだ!」
僕はこの場に及んでなにを言ってるのか...。
でもすっきりした、これで自分を受け入れらるかもしれない。
「ん?僕も露出マニアだよ。露出最高、特に雨合羽を着て雨の日に全裸で駆け回るのはいい
よね。あれはやめられないよ。」
こいつは一体何を言ってるのだろう。
周りを見渡してもそんなにびっくりした様子はない。
何故だろう、誰も気づいていないのだろうか。
「じゃ、被告の判決だけど、実刑なしでいいよね?もちろん執行猶予もなし」
僕は改めて分からなくなる。
周りは分かってるのに自分が分からない。
でもこれだけは分かる、僕は露出が好きだという事。
あんな状況でこんな事を言ったのだから。
興奮していたのだろうか、下を向いたら下半身裸の自分の性器がそそり立っていた。
(了)