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Lê Ma 小説、批評、音楽、アート

風雅和歌集。卷第十三戀哥乃四。原文。

2020.01.02 23:19


風雅和歌集

風雅倭謌集。底本『廿一代集第八』是大正十四年八月二十五日印刷。同三十日發行。發行所太洋社。已上奧書。又國謌大觀戰前版及江戸期印本『二十一代集』等一部參照ス。



風雅和謌集卷第十三

 戀哥四

  日ころ雨のふるに人のもとにつかはしける

  權中納言定賴

つれ〱となかめのみする此比は空も人こそ戀しかるらし

  雨ふる日女のもとより歸りて程へてつかはしける

  左近大將朝光

程ふれは忘れやしぬる春雨のふることのみそ我は戀しき

  返し

  馬内侍

いとゝしくぬれのみまさる衣手に雨ふることをなにゝかくらん

  題しらす

  貫之

歸るかり我ことつてよ草枕たひはいもこそ戀しかりけれ

人のこんとて賴めて見え侍らさりけるつとめてよめる

  和泉式部

水鷄たにたゝく音せは眞木のとを心やりにもあけてみてまし

  題しらす

  讀人しらす

いかにして忘るゝ物そわきもこか[・に(イ)]戀はまされと忘られなくに

大原のふりにし里にいもをゝきて我いねかねつ夢に見えつゝ

わきもこか[・に(イ)]あふよしもなみするかなる富士の髙ねのもえつゝかあらん

  小町

世の中はあすか川にもならはなれ君と我とか中し絕すは

  戀の心を

  永福門院

けふはもし人もや我を思ひ出る我も常より人の戀しき

  戀命

  進子内親王

空の色くさ木をみるもみなかなし命にかくる物を思へは

  寄雲戀

  前大納言爲兼

物思ふ心の色にそめられてめに見る雲も人や戀しき

  院御歌

戀あまるなかめを人はしりもせし我とそめなす雲の夕くれ

  永福門院

いましもあれ人のなかめもかゝらしをきゆるも惜き雲の一村

  戀御歌の中に

  伏見院御歌

それをたに思ひさまさし戀しさのすゝむまゝなる夕暮の空

  同院新宰相

ねられねはたゝつく〱と物を思ふ心にかはるともし火の色

  太上天皇

待すくす月日の程をあちきなみ絕なんとてもたけからし身を

  從一位敎良女

かくやはよおほえしときも覺えけりすへて人にはなれてそ有まし

  前太宰大貮俊兼

今はとてつらきになして見る人のさてもいかにといふしもそうき

  從二位爲子

戀しさも人のつらさもしらさりしむかしなからの我身ともかな

  日増戀といふことを

  院御歌

聞そふる昨日にけふのうきふしにさめぬ哀もあやにくにして

  題しらす

  權大納言公䕃

うらみたらはさこそあらめと思ふかたに思ひむせひて過る比かな

  伏見院御歌

いとゝこそ賴み所もなくならめうきにはしはし思ひさためし

  後伏見院御歌

したふかたのすゝむにつけていとひまさる人と我との中そはるけき

  二品法親王寛尊

定なき人の心のいかなれはうき一かたにかはりゆくらむ

  院戀五首歌合に戀淚を

  儀子内親王

すへてこの淚のひまやいつならんあはれはあはれうきはうしとて

  百首歌奉し時戀歌

  權大納言公䕃

思ひとれはさすか哀もそふ物をつねのうらみの淚とやみる

  戀歌とてよませ給ける

  院御歌

常はたゝ獨なかめておほかたの人にさへこそうとくなりゆけ

  太上天皇

いふきはゝをよはぬうさのそこふかみあまる淚をことのはにして

  永福門院

大かたの世はやすけなし人はうし我身いつくにしはしをかまし

  五十番歌合に漸變戀を

  院御歌

そことなき恨みそ常におほ[・も(イ)]ゝゆるいかにそ人のあらすなる比

  永福門院

かはりたつ人の心の色やなにうらみんとすれはそのふしとなき

  戀歌の中に

  儀子内親王

これやさはかはるなるらんそのふしと見えぬ物からありしにもにぬ

  五首歌合に戀憂喜といふことを

  院御歌

かはりたつすへて恨のそのうへにうさあはれさはかりのふし〱

  漸變戀

  式部卿恒明親王

とはぬまを忘れすなから程ふるやとをさかるへきはしめ成らん

  昭訓門院權大納言

暮なはと賴むる夜はの更しよりむなしく明るうさそかさなる

  變戀の心を

  覺譽法親王

かはりたつ心とみゆるそのうへのなけのなさけよゝしやいつまて

  永福門院内侍

かはるかと人に心をとめてみれははかなきふしもありしにそにぬ

  前大納言實明女

うさはまして哀と思ふ中にしもかはる心の色はみゆるを

  五十番歌合に寄人戀を

  永福門院右衞門督

一すちにうきよりも猶うかりけりありしにかはる人のなさけは

  五首歌合に戀昨今といふことを

  儀子内親王

かはるてふ人よけにこそかはりけれ昨日見さりしけふにつらさは

  戀歌に

  後伏見院中納言典侍

恨はてん今はよしやと思ふより心よはくそ又あはれなる

  宣光門院新右衞門督

人はうく我のみさめぬあはれにてつゐの契りのはてそゆかしき

  藤原實熈朝臣

せめてわか思ふ程こそかたくともかけよやつねのなさけはかりは

  藤原俊冬

いかにせん常のつらさはつらさにて今一ふしの更にそふ比

  恨戀の心を

  權大納言公宗母

つらしとも猶よのつねのうらみにはいつくにのこる心よはさそ

  戀歌とて

  進子内親王

つらしとも中々なれはいひはせてうらみけりとはいかてしらせん

  儀子内親王

思ひとるたゝ此まゝのつらさにて又はあはれにかへらすもかな

  前太宰大貮俊兼

あはらやのたゝ一かたを思ひにてわひぬるはてはうさもしられす

  院五首歌合に戀憂喜

  冷泉

哀見せし人やはあらぬうきやたれ我はかはらぬもとの身にして

  戀餘波といふことをよませ給ける

  御御歌

人こそあれ我さへしゐて忘れなはなこりなからんそれもかなしき

  康永二年歌合に戀終を

人しれす我のみよはき哀かなこの一ふしそかきりと思ふに

  永福門院右衞門督

我のみはうさをもしゐて忍ふともかはるかうへの人はいつまて

  戀命

  徽安門院

うきにいとふまたおなしよを惜むとて命ひとつを定かねぬる

  伏見院五十番歌合に戀夕を

  延政門院新大納言

いかにせん雲の行かた風のをと待なれし夜ににたるゆふへを

  七月七日讀侍ける

  西宮前左大臣

七夕の契れる秋も來にけるよいつとさためぬ我そわひしき

  戀歌の中に

  つらゆき

稀にあふといふ七夕も天の川わたらぬ年はあらしとそ思ふ

  寄七夕戀といふ事を

  後伏見院御歌

さらにこそ忘れしことのおもほゆれけふ星合の空になかめて

  題しらす

  永福門院

はれすのみ心に物を思ふまに萩の花さく秋もきにけり

  人にたまはせける

  光孝天皇御歌

秋なれは萩の野もせにをく露のひるまにさへも戀しきやなそ

  戀の歌の中に

  貫之

萩の葉の色つく秋をいたつらにあまたかそへて過しつるかな

  讀人しらす

我宿の秋の萩さく夕かけに今も見てしか君かすかたを

  鎌倉右大臣

君にこふうらふれをれは秋風になひく淺茅の露そけぬへき

  思ふこと侍ける比月を見て

  和泉式部

物思ふにあはれなるかと我ならぬ人にこよひの月をとははや

  月の夜久我内大臣もとへつかはしけつ

  小侍從

なかむらんおなし月をは見る物をかはすにかよふ心なりせは

  返し

  久我内大臣

今夜わかとはれましやは月をみてかよふ心の空にしるくは

  戀御歌の中に

  伏見院御歌

思ふ人こよひの月をいかに見るや常にしもあらぬ色にかなしき

  同院新宰相

さらさりしその夜は[・の(イ)]月をいかゝ見しむかへは人のうさになり行

  權大納言公䕃

哀いかに思う心のあらさらんなかめは月にいまかよふとも

  前大納言爲兼家にて歌よみ侍けるに寄月戀

見るからに戀しさをのみもよほして人をさそはぬ月もうらめし

  おなし心を

  藤原隆淸朝臣

かはらぬも中々つらしもろともにみし夜の月は同し面かけ

  曉片思と云ことを

  大僧正行尊

思ひつる心や君はなかるらんおなし有明の月をみるとも

  戀歌合の中に

  中院前太政大臣

うき物とうらみても猶かなしきは面影さらぬあり明の月

  千五百番歌合に

  後京極攝政前太政大臣

我とこそなかめなれにし山の端にそれもかたみの有明の月

  題しらす

  讀人しらす

君こふとしなへうらふれ我をれは秋風吹て月かたふきぬ

いもを思ひいのねられぬに暁の朝霧こもり雁そ鳴なる

  伏見院御歌

此暮に我戀をれはさむかりき鳴つゝ行はいもかりかゆく

  永福門院内侍

哀また夢たに見えて明やせんねぬ夜の床は面影にして

  順德院御歌

忘れんと思ふはをのか心にてたかおとろかす淚なるらん

  前中納言定家

うしとても誰にかとはんつれなくてかはる心をさらはをしへよ

  院兵衞督

人にうつる心をたにもをしへをけさらはなくさむ方も有やと

  戀情といふことを

  藤原定宗朝臣

我なから我にかなはぬ心なれや忘れんとすれはしゐて戀しき

  藤原親行朝臣

うきにならふ心か哀たまさかの人のなさけの今はうれしき

  戀歌に

  從二位爲子

我心うらみにむきて恨はてよあはれになれは忍ひかたきを

  左近中將忠季

かくてしも思ひやよはるとはかりにうきかうれしき方も有けり

  戀命を

  前大納言實明御

憂かうへの猶も情のうちにこそ君にいのちをすてゝきかれめ

  題しらす

  伏見院御歌

うき事をいかてなへてに思ひなさんうれしくとてもいく程のよに

  儀子内親王

うきもよしむくひなるらんと思へとも見えぬ世々にはなくさまはこそ

  伏見院新宰相

人よりは身こそうけれと思ひなすそれしも物の悲しき物を

  遇不會戀

  民部卿爲定

同し世にいく度物を思へとてつらきにかへるこゝろなるらん

  戀歌の中に

  祝子内親王

憂ゆへもかくやはと思ふふし〱よ我こそ人を猶賴みけれ

  恨戀の心を

  權大納言公䕃

つらさをも思ふはかりはえそいはぬかこともとむる人のけしきに

  百首歌奉し時

  左兵衞督直義

引きかへてかはるしもうし思ふ色をさのみは人の何かみせけん

  戀の歌に

  院兵衞督

かはかりのうさならさりし比たにもおり〱ませしそこの恨を

  寶治百首歌に寄虫戀

  前大納言爲家

絕ねはと思ふもかなしさゝかにのいとはれなからかゝるちきりは

  六帖題にこと人を思ふといふ事を

  徽安門院

人をひとの思ふかきりを見るにしもくらふとなしに身そ哀なる

  題しらす

  永福門院

すへてたゝ人になれしとこりぬるもいつのためそと哀なる哉

  寄情戀と云事を

  權大納言公宗

佗つゝは人にかませてうらみぬをうきをもしらぬ心とや思ふ

  藤原宗季

猶しはし憂をはうきになしはてしかはる心のかはりもそする

  恨戀の心をよめる

  前大納言尊氏

うき中よ恨のかすはつもれともなさけと思ふ一ふしもなし

  題しらす

  永福門院

今はゝやと思ひしこともいくたへてへたつるはてはことのはもなし

猶しはし此一ふしは恨はてしなしかと思ふなさけもそ見る

  建長三年吹田にて十首歌講せられけるに

  後嵯峨院御歌

うきふしは數にもあらすしつたまきくりかへしては猶そ戀しき

  心やすくもえあはぬ人に

  謙德公

つらかりし君にまさりてうき物はをのか命のなかきなりけり