短編ストーリーで覚える不定詞と動名詞
「ふてー野郎だな、あいつ」
隣で親友の奈々美がわざと悪ぶって言った。視線の先には、渡り廊下で女の子と楽しそうに話す長身の男がいる。名前は、山岸巧。うん、あれは確かにモテそうだ。ただ、その甘いマスクとは裏腹に、私の友達の間での評判はあまり良くない。5股をかけているという噂まである。
「あいつ、また女引っかけようとしてんな」
奈々美は引き続きその悪ぶりスタイルのまま言った。もとより正義感の強い子なのだけれど、なぜここまで突っかかるのかといえば、答えは明白だ。昨日、私が彼から告白されたからである。
「一緒にいる未来が見えたんだ」
屋上に呼び出された私に、彼は「あのさ」と前置きをした上でそう言った。ほぼほぼ彼と話したことがなかった私はとにかく驚き、その後の言葉を上の空で聞いた上で、「返事は今じゃなくていいから」という彼の言葉に甘えた。つまり、何も返事をしなかった。断るのもパワーが要るし、私は決断できるほどまだ彼のことをよく知らない。
それにしても、未来かぁ。私には、未来がいいものだとか楽しいものだとか、そこに希望を持ったことなんて、今まで一度もなかったなぁ。どちらかといえば、いつも不安だらけだった。彼が見たという私との未来は、ちゃんと輝いていたのかなぁ。
「おっはよー」
ボーッとしていた私に、元気よく声をかける好青年。山本司。彼は幼馴染で、実はなんと私と同姓同名なのだ。私の過去を一番知っている古くからの友人でもある。私も、彼も、どちらも山本司。子どもの頃、「お前ら結婚したら大変だよなー」と、よくみんなにからかわれた。
今振り返れば、それはそんなに酷いからかいというではなかったのだけれど、それでも、そこから派生して生まれたいろんな言葉で、私の自信が木っ端微塵になるまでにそんなに時間はかからなかった。今も、あの頃のことをたまに思い出す。そのたびに、憂鬱の影が私の未来を覆うのだ。
「私なんか」
いつも何かしようとするたびに、私の中から出てくる言葉。彼、山岸巧に告白された時もそうだ。「私なんか」という言葉が頭をいっぱいにして、話がぜんぜん入ってこなかった。
「未来かぁ…」
学校からの帰り道に、夕焼けを見ながら思わずつぶやいた。その言葉をきっかけに、いつもと同じように暗い影が落ちようとした瞬間、屋上で聞いたあの「ふてー野郎」の言葉を思い出した。
彼は言ったんだ。
「司さんはさ、優しい人だよ」
そう、彼は言った。
「司さんは、俺が色々根も葉もない噂で責められているときも、絶対に俺のことを悪く言ったり、嫌な風な目で見たりはしなかった。いや、もしかしたら、そうした時もあったかもしれないけど、少なくとも俺はそう感じなかった」
彼の言葉を思い出しながら、不思議と、かかっているモヤがすうっと晴れていく感じがした。
「司さんは、すごく優しい人。だから、一緒に未来を過ごせたらと思ったんだ」
「未来…かぁ」
ちょっとは、希望を持っても良いのかなぁ。
未来ってやつを、信じてみてもいいのかなぁ。
なんだか足取りが軽くなる。こんなことは初めてだった。
不定詞と動名詞の説明
不定詞(名詞的用法)と動名詞の使い分け
「不定詞の名詞的用法」と「動名詞」は「○○すること」という同じ日本語の意味になるが、前にある動詞でどちらを使うかが決まってくる場合がある。
不定詞(to+動詞の原形)をとる主な動詞
want need hope decide wish 等
→未来志向(まだ起こっていないことについて使う)
(例文)I want to play tennis. 私はテニス(をすること)をしたい
動名詞(動詞ing)をとる主な動詞
enjoy stop finish 等
→現在や過去志向(既に起こったことや今起こっていることについて使う)
(例文)I enjoyed playing tennis. 私はテニス(をすること)を楽しんだ
詳しくはこちらでも解説しております。
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