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Lê Ma 小説、批評、音楽、アート

風雅和歌集。卷第十八釋敎哥。原文。

2020.01.07 23:09


風雅和歌集

風雅倭謌集。底本『廿一代集第八』是大正十四年八月二十五日印刷。同三十日發行。發行所太洋社。已上奧書。又國謌大觀戰前版及江戸期印本『二十一代集』等一部參照ス。



風雅和謌集卷第十八

 釋敎哥

待つかねてなけくとつけよみな人にいつをいつとていそかさるらん

   此の歌は善光寺如来の御歌となん

いそけ人みたの御舟のかよふ世にのりをくれなはいつか渡らん

   かの御歌につきて聖德太子の讀給へるとなん

補陀落の海を渡れる物なれはみるめも更に惜からぬかな

   是は長治の比ある人目しゐたる子をあひくして粉河寺にまうてゝ彼子をひさにすへてなく〱祈り申とて補陀落の海におふなる物なれは子のみるめをはたまへとそ思ふと思ひつゝけてまとろみたりける夢に観音のしめし給けるとなん

  法華經序品の心を

  西行法師

ちりまかふ花の匂ひをさきたてゝ光を法のむしろにそしく

  方便品

  前權少僧都源信

妙法のたゝひとつのみありけれは又二なしまた三もなし

  譬喩品の心をよめる

  權僧正永緣

心をは三の車にかけしかと一つそ法のためしにはひく

  不覺不知不驚不怖の心を

  慶政上人

おとろかてけふもむなしく暮ぬなり哀うき身の入相の空

  信解品

  前參議經盛

年ふれと行衞もしらぬたらちねよこはいかにして尋あひけん

  前大納言尊氏

五十までまよひきにけるはかなさよたゝかり初の草の庵に

  伏見院かくれ給て後人々一品經書侍けるに信解品をかきて奉るとてよめる

  入道二品親王尊圓

我そうき五十あまりの年ふともめくり逢へき別ならねは

  藥草喩品の心を

  法成寺入道前關白太政大臣

法の雨はあまねくそゝく物なれとうるふ草木はをのかしな〱

  權大納言行成

くさ〱の草木のたねと思ひしをうるほす雨は一なりけり

  大僧正行尊

草も木もたねは一をいかなれは二はみつはにめくみそめけん

  前大納言尊氏一品經歌とてすゝめ侍けるに安樂行品若人他家不興小女處女寡女等共語といふ文の心をよめる

  藤原爲明朝臣

名にめてゝまよひもそする女郎花にほふやとをはよきてゆかなん

  壽量品の心を

  祭主輔親

此世にて入ぬと見えし月なれと鷲の山にはすむとこそきけ

  分別功德品を

  正二位隆敎

みな人を渡さんと思ふともつなのなかくもかなや淀の川ふね

  藥王品是眞精進是名眞法供養如來といへる心をよませ給ける

  院御歌

つはめなく軒端の夕日影きえて柳にあをき庭の春風

  妙音品

  赤染衞門

こゝにのみありとやはみるいつくにもたへなる聲に法をこそきけ

  普門品卽得淺處の心を

  平忠度朝臣

おり立て賴むとなれは飛鳥川ふちも瀨になる物とこそきけ

  陀羅尼品

  赤染衞門

法まもるちかひをふかくたてつれは末の世まてもあせしとそ思ふ

  般若經常啼菩薩を

  前大僧正覺資

法のため我身をかへは小車のうき世にめくる道やたえなん

  圓覺經生死涅槃猶如昨夢の心を

  院御歌

誰もみなあたら色香をなかむらし昨日もおなし花鳥の春

  居一切時不起妄念

雁のとふ髙ねの雲の一なひき月いりかゝる山の端の松

  擧足不足皆是道場の心を

  夢窓國師

故鄕とさたむるかたのなき時はいつくに行も家路なりけり

  本覺流轉の心をよめる

  法印實澄

住なれし宿をは花にうかれきてかへるさしらぬ春の旅人

  隨求陀羅尼經の倶縛婆羅門を讀侍ける

  前大納言忠良

朽殘る法のことはのふく風ははかなき苔のしたまてそ行

  但指無明卽是法性といふことを

  慶政上人

すゝめこしゑひの枕の春の夢みしよはやかてうつゝなりけり

  三諦一諦非三非一の心を

  院御歌

窓の外にしたゝる雨を聞なへにかへにそむける夜半の燈

  未得眞覺恒處夢中といふ事をよめる

  寛胤法親王

長夜のやみのうつゝにまよふかな夢をゆめともしらぬ心に

  法印覺懷

さむるをもまつ賴みたになからましなかきねふりのうちときかすは

  因明論の似現量の心を

  前大僧正覺實

村雲の絕まの影はいそけとも更るはをそき秋の夜の月

  釋敎御歌の中に

  後宇多院御歌

そのまゝにたえまをしるはまことある三國つたはることはなりけり

  百首歌奉しに雜歌

  入道二品親王法守

我うくる御法はつねのことのはをよはぬうへにとけるなるへし

  大梅山別傳院に御幸侍ける時僧問雲門樹凋落時如何雲門云體露全風といふ因緣を頌せさせ給けるついてに

  院御歌

立田川紅葉々なかる御吉野のよしのゝ山にさくら花さく

  藤原爲基朝臣

見るやいかに山の木の葉は落つきて道にあたれる寅のまたらお

  題しらす

  佛國禪師

夜もすから心の行衞尋ぬれは昨日の空にとふ鳥の跡

  夢窓國師

出るとも入るとも月を思はねは心にかゝる山の端もなし

  眉間寶劔と云ことを

  院御歌

さゆる夜の空たかくすむ月よりもをきそふ霜の色はすさまし

  一華開五葉結菓自然の心を

  永福門院内侍

咲そむる宿の櫻の一本よ春のけしきに秋そしらるゝ

  厭離穢土の歌五十首よみ侍ける中に

  前大僧正慈鎭

うき世かなよし野の花に春の風時雨る空に有明の月

  釋敎の心をよませ給ける

  後宇多院御歌

心さしふかくくみてし廣澤のなかれは末もたえしとそ思ふ

  前大僧正慈鎭

昔より鷲のたかねにすむ月のいらぬにまよふ人そかなしき

  前大僧正道玄

みな人の心のうちはわしの山たかねの月のすみかなりけり

  百首歌の中に

  院御歌

世をてらす光をいかてかゝけましけなはけぬへき法の燈

  如何不求道安可須待老といふ心を

  慶政上人

いたつらに老をまつにそ成ぬへきことしもかくて又暮しつゝ

  雜歌の中に

  前大僧正慈鎭

さりともな光はのこる世なりけり空行月日法のともし火

  前大僧正良覺横川にて如法經書けるに天長のむかしまて思ひやらるゝよし申とて

  前大納言爲家

いにしへのなかれの末をうつしてや横川の杉のしるしをもみる

  かへし

  前大僧正良覺

其まゝに流れの末をうつしても猶いにしへの跡そゆかしき

  光臺寺に住侍けるに二月十五日山本入道前太政大臣もとより櫻のうち枝に鈴をかけてありなからきえぬとしめす佛には雪にもまかふ花を手向よと申て侍ける返事に

  山本入道前太政大臣女

ありなからきえぬとみえてかなしきはけふの手向の花のしら雪

  釋敎歌の中に

  示證上人

しつみこし憂身はいつかうかふへきちかひの舟の法にあはすは

  觀勝寺にて理趣三昧をこなひける道場に花籠より紅葉の散たりけれはよみ侍ける

  從二位爲子

法の庭にちらす紅葉は山姬のそむるもふかきえとやなるらん

  式乾門院十三年の法事に法華山寺にて唐本の一切經供養せられける時空に音樂のきこえけれはよみ侍ける

  慶政上人

法の庭空に樂こそきこゆなれ雲のあなたに花やちるらん

  極樂六時讚を歌によみけるに晨朝を

  皇太后宮大夫俊成

朝またき露けき花を折程は玉しく庭に玉そちりける

  女人往生願

  後光明照院前關白左大臣

こと浦にくちて捨たるあまを舟我方に引なみもありけり

  不淨觀の心をよめる

  前參議敎長

和田津海をみなかたふけてあらふとも我身のうちをいかて淸めん

  雪山成道の心をよみて前大納言爲兼もとにつかはしける

  法源禪師

ふりにける雪の深山は跡もなしたれふみ分て道をしるらん

  返し

  前大納言爲兼

しるへする雪の深山のけふにあひてふるき哀の色をそへぬる

  釋敎歌の中に

  如空上人

西を思ふ心もおなし夢なれと長きねふりはさめぬへきかな

  從三位親子

心をはかねて西にそをくりぬる我身をさそへ山の端の月

  經をひらきて淚をのこひ侍ける時花[・を(イ)]見てよみ侍ける

  慶政上人

にほへともしる人もなき櫻花たゝひとりみて哀とそ思ふ

  百首御歌の中に

  伏見院御歌

ふかくそめし心のにほひ捨てかねぬまとひのまへの色と見なから

  法成寺にまいりてよみ侍ける

  かたのゝ尼

くもりなくみかける玉のうてなには塵もゐかたき物にそ有ける

  釋敎歌の中に

  前大僧正慈鎭

般若臺におさめをきてし法花經もゆめとのよりそうつゝにはこし