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須和間の夕日

新春インタビュー 大井川知事 今後の課題 ②東海第二原発再稼動どう判断(2020年1月6日,NHK水戸)

2020.01.08 15:00

1月4日,静岡県の川勝平太知事は,毎日新聞の新春インタビューで,水資源や自然環境への悪影響から県が着工を認めていないリニア中央新幹線静岡工区を巡って次のように語った。

「県民の生命、財産を預かっている立場としては、(トンネル工事が予定されている)南アルプスの保全に尽きる。リニアか南アルプスかどちらを優先するのかとなった時、迷わず南アルプスだ」*。

1月6日,茨城県大井川和彦知事は,NHK水戸による新春インタビューで,東海第二原発の再稼働問題を問われ,その現状と方針を語った。しかし,それは,先の川勝知事の県民に向けた力強いメッセージとはまったく異なるものだった。大井川知事が語ったのは県民多数の願いとは正反対の再稼働だった。

大井川知事はなぜ,「住民の生活と環境か東海第二原発。どちらを優先するかとなった時、迷わず住民の生活と環境だ」と言えないのだろう。知事の言葉を分析した。

以下は,「脱原発2票+にゃんこの組織票 にゃんこらーず」氏がツイッターに載せた大井川知事の発言をつなげたものである **。


インタビュア  県民の命を守るというのは、知事の大切な仕事のひとつだと思うのですけど、続いての東海第二原発についてもお話をお伺いします。

多くの県民の方にとって,本当大切な問題なので気になってる方も多いと思うのですが,再稼働の是非について,大井川さんはこれまで県民の意見を聞いて判断する,というスタンスを取ってこられましたが,これはどういった考えなのでしょう?

大井川知事  やはりですね、東海第二原発の再稼働という問題というのは、県民の皆様の感情としても、福島第一原発の事故以来ですね、やはり、しっかりと、安心、安全な形で再稼働してほしい、というのはどなたもそうだと思うのですよね。

今の段階は、その再稼動の判断、皆様が安心して再稼働を、と言って、賛成できるかどうか、判断の材料となるものを、今、準備している段階だと思います。

例えば安全性、国の規制委員会の判断が出ましたけども、県独自で、更に県民の皆さんの意見を聞きながら、追加でですね、例えばテロ対策であるとか、災害の対策、どこまでが限界なのか、そういういろんなことについての疑問に答えるように今、検討を進めてますし、

それに加えてですね、避難計画も実効性という観点で、どれだけ実効性のある避難計画を作れるのか、今、各市町村、UPZ内の各市町村で作ってますけど、

県としてでもですね、そこができて、これでどうでしょうか?ということが、原案ができない、それを準備しているというのが今の段階で、その準備が終わった段階で、しっかりと、県民の皆さんの判断、ご意見、というのを聞いていって最終的な判断に結びつけるということなのかな?というふうに思っています。


大井川知事の発言を要約すれば,次の5点になる。

① 県民すべての思いは、安心、安全な形で再稼働してほしいということだ

② 今は、再稼働に賛成できるかどうかの判断材料を準備している段階

③ 追加のテロ対策や災害対策について検討を進めている

④ UPZ内の各市町村が,実効性のある避難計画を準備している

⑤ 県は、各市町村が避難計画を策定した段階で、県民の意見を聞いて最終的な判断をする


ひとつひとつ検討していく。

①知事は「県民は,しっかりと、安心、安全な形で再稼働してほしい、というのはどなたもそうだ」と言った。再稼働が県民すべての願いだと断定したのである。これは驚きである。

なぜなら「再稼働してほしい」という県民の意思が確認されたことは一度もないからである。これまでの調査結果や地方議会の意思はいずれも,明らかに再稼働反対なのである。

たとえば,茨城大学教授 渋谷敦司氏が,地元東海村と周辺市の住民に対しておこなった大規模なアンケート調査では,再稼働反対54%,賛成36.9%で,反対が優勢である(2018年12月〜2019年1月)。

2017年8月の茨城県知事選挙でNHKが行った出口調査では,再稼働反対76%,賛成24%である。2019年4月の水戸市長選挙でのNHK出口調査も,反対が約73%だった。地方議会では,県内44市町村議会のうち34議会が反対意見書などを出している(77.3%,2018年11月13日)***。

インタビュアは,県民すべての意思が再稼働だという知事の発言に対して,自社NHKの出口調査結果を取り上げてそのデタラメを質すこともしないまま聞き流した。なぜここで踏ん張って問い質さなかったのか。

一方の知事は,なぜ,平気で,再稼働を県民すべての意思と断言したのか。

このメッセージが県民に向けられたものでないのははっきりしている。上述のように,県民の圧倒的多数は再稼働反対だからである。

知事は県民の多数派意見を知らないはずはない。しかし,テレビの収録だから,県民から質問や反論を受けることがないし,インタビュアから厳しい質問をされないことも見込んでいる。だから,知事は,平気で,根拠のない断言や県民無視の言葉を発することができた。

知事の根拠のない断言は,国や県内の原子力ムラとムラの支持者に気遣ったものだろう。たとえ,そうであっても,県民にも伝えるものがなければならない。それが「安心,安全な形の」再稼働ということなのであろう。

NHKをはじめとするメディアには,市民の方を向いて語るよう,公人の重要なインタビューは密室ではなく公開の場でしてもらいたいと思う。

②③④は現状説明なので,飛ばす。

⑤ 「県は,市町村の実効性ある避難計画が策定されたら,県民の意見を確認して,最終判断をする」。避難計画を準備しているのは14市町村だが,これらの計画策定を待ち,その上で,県民の意見を聞いて最終判断をするという手順のようだ。

しかし,なぜ,そのような手順が必要なのだろう。各自治体の避難計画の策定は,避難の渋滞問題,県外避難先の確保,高齢者・障害者の避難支援をはじめさまざまな問題が山積していて,実効性ある計画などできないのははっきりしている。一方で,県は,独自にテロや災害などへの対策を検討している。ならば,そもそも困難な市町村の避難計画策定など待たずに,独自の検討結果をもとにして判断をすることが可能である。

たとえ避難ができたとして,避難者となった県民は安らかに避難生活が送れるのか。それについて,全町避難を強いられた福島県双葉町井戸川克隆前町長は言う。「次に事故を起こして避難したら必ずいじめに遭う。『再稼働したのはあなたたちだ。われわれは賛成しなかった。今さら助けてくれと言われても知らない』と言って追い出される」****。

再稼働を拒否し廃炉に追い込めば,これほど壮大に無駄な検討や準備をする必要はなく,県民から生活や仕事,環境を奪う避難を強いることもない。県は独自の判断をしないといけない。

もう一度,川勝県知事の言葉に戻ろう。知事は,「県民の生命、財産を預かっている立場としては」と,自身の判断の拠り所をきちんと示して正しい判断をした。大井川知事は,正しい拠り所で正しい判断をしてほしい。


* 「川勝平太・静岡知事『リニアか南アルプスかといえば、迷わず』」毎日新聞,2020年1月4日

** 「脱原発2票+にゃんこの組織票 にゃんこらーず」氏(@nyankolers)のツイッター(2020年1月7日)

*** 「東海第2原発をめぐる反対意見書の現状」,とめよう!東海第二原発 首都圏連絡会,(2018年11月13日)

**** 「東海第二原発 東海村で原子力防災シンポ『事故があれば,避難先で惨めな思い』」東京新聞,2019年12月15日


(原電茨城事務所前抗議行動「星空講義」25,2020年1月10日)