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壬生忠岑の和歌。忠岑集。原文。全文。據羣書類從

2020.01.10 23:26


壬生忠岑[無位。右衞門府生]ノ家集

已下典據羣書類從卷第二百六十二撿挍保己一集和歌部百十七家集三十五



壬生忠岑[無位。右衞門府生]ノ家集

已下典據羣書類從卷第二百六十二撿挍保己一集和歌部百十七家集三十五

忠峰集

  兵衞佐貞文か家の哥合に

春立といふはかりにやみよしのゝ山も霞みて今朝はみゆらん

  たゝみねおほせありて奉る

春雨のほとふることも時にあへはひもとく花のつまとなりけり

  春日の春のまつりにみける女車の下すだれよりすきてみえけるにつかはしける

春日野の雪まを分ておひ出つる草のはつかにみえし君かな

  春のはしめに右大將の屏風哥

春きぬと人はいへとも鶯のなかぬかきりはあらしとそおもふ

はるのゝはおひぬ物なくみゆれとも思出草はなき世也けり

あつさ弓はるさめことにみ[も歟]ゆるきのめもめつらしき鶯のこゑ

いとゝく[し歟]もうつろひぬるか櫻花あたなる人もみてこりぬへし

夏のよはあふなのみして敷妙のちりはらふまに明そしにける

いたつらにをのか聲かとほとゝきす鳴ては人に恨みらるらむ

から衣行かふ人のさしはへてくる里もあらし山ほとゝきす

  夏夜ほとゝきすをきゝて

くるゝかとみれは明ぬる夏のよをあかすとや鳴山ほとゝきす

哀れてふ人はなくとも空蟬のからに成まてなかむとそ思ふ

  秋の夜月のいみしうあかゝりしに

久かたの月のかつらも秋はなほもみちすれはや照まさるらん

秋のよは人をしつめてつく〱かきなす琴の音にそ明ぬる

山田守あきのかりほにをく露はいなおほせ鳥のなみた也けり

  これさたのみこの哥合に

松のえに風のしらへをまかせては立田姬こそ秋はひくらし

神かひのみむろの山を分行は錦立きるこゝちこそすれ

  中宮の御屏風に

山里は秋こそことにかなしけれ鹿のなくねにめをさましつゝ

風さむみ衣かりかねなくなへに萩の下葉も色つきにけり

もみち葉の流るゝ水のくれなゐに染たる絲をくるかとそみる

  秋の野の女郎花を見て

人のくることやくるしきをみなへし霧の籬に立かくる覧

山さとに秋きり分てなく物は妻まとはせるしかにそ有ける

  ある女につかはしける

あき風にかきなす琴のこゑにさへはかなく人の戀しかるらん

  后宮哥合に

しら雪のふりてつもれる山里はすむ人さへや思ひゆきらむ

  女につかはしける

かきくらしふるしら雪のむら消にきえても物を思ふ比かな

  后宮の哥合に

みよしのゝ山のしら雪ふみ分て入にし人のをとつれもせぬ

  むかしものなといひし女のなくなりしか夢に曉かたにみえて侍りしを

命にもまさりておしく有物はみはてぬ夢のさむるなりけり

我玉を君か心に入かへておもふとたにもいはせてしかな

もろくともいさ白露に身をなして君かあたりの草に消なん

  女に

瀧つせにねさしとゝめぬ萍のうきたる戀も我はするかな[※萍ハうきくさ]

難波なるみつのゝ濱の夢にたにみつとは思はむね覺せらるな

から國のきそのはまへにやく鹽の思ひはるけき我や何なり

うれしくて後うき叓はぬることに我身をはかる夢にそ有ける

鳥ならはあたりの空に隱れゐてほれたる聲になかまし物を

風ふけはみねにわかるゝしら雲のたへてつれなき君か心か

田子の浦君か心をなしてしかふしてふ山も思ひしらせん

駿河なるうつの山へのうつゝにも夢にも君をみてやゝみなん

ゆめにたにつれなき人の面影をたのみもはてしこゝろくたくに

かくしてもあるへきものかゝさゝきの渡せる橋もへたゝらなくに

かせさむみこゑよわりゆく虫よりもいはてもの思ふわれそかなしき

たこの濱すさきの千とりこゝろしてそこの玉もはわれにもしらせよ

よしの山よしよつれなくしのはれよ耳なし山のしらぬかほして

日くるれは山のはいつる夕つきの[下闕][ほしとはみれとはるけきやなそイ]

  あひしりて侍ける人の身まかりにけるとき

ぬるかうちに見るをのみやは夢といはんはかなき世をもうつゝとはみす

雨ふれとみなとたち出てぬしら鷺のぬれきぬをたにきせんとそ思ふ

  ある女に物いひたりとさはかれし比

みちのくにありといふなる名取川なきなとりてはくるしかりけり

  ある人のかりのたよりにつけて

かくれぬの底よりおふるねぬ繩のねぬ名はたてしくるな厭ひそ

世の中はいかにくるしとおもふらんこゝらの人に恨みらるれは

  やまかき

露さむみよるやまかきのきりきりす聲ふりたてゝ鳴まさるらん

  かるかや

さく花のはかなかるかや匂ひつゝ人のこゝろをあたになすらむ

天つ風ひろくすゝしきおほとのに野へにならひて聲たてなむし

  かひの國へまかり申とて

君か爲いのちかひへそわれはゆくつるてふこほり千世をうるなり

  ひえ坂本なる音羽の瀧をみて

おち瀧つ瀧のみなかみとしつもり老そしにける黑きすちなし

  右大將の四十賀の屏風に夏

大あらきのもりの下草しけりあひてふかくも夏の成にける哉

秋はきはまつさす葉よりうつろふをを露のこゝろはわくるとなみそ

  七月八日

秋のよの露をは露とをきなからかりの淚やのへをそむらん

  中宮の御屏風に山田ある所

かはつ鳴くゐての山田にまきしたね君まつなへとおひ立ちにけり

  あき人菊の露に袖ぬらして有といひ侍ける

おひきくのしつくをおもみわかゆくにぬれきぬをこそ老の身にきれ

有明のつれなくみえし別れより曉はかりうきものなし

  ある女のいみしう心つらく侍しかは

ひとりして思へはくるしいかにしておなしこゝろに人ををしへん

  女にはしめてあひていみしうあはれにおほえ侍しかはその女に

思ふてふ叓をそねたくふるしける君にのみこそいふへかりけれ

  中宮の御屏風にあまのかつきしたる所

こゝろさしふかく水底かつきつゝむなしくいつなおきるつしまもり

  あひしりたる人のみちの國へすまひのつかひにまかるに

瀨をせけは淵となりてもよとみけり別れをとむるしからみそなき

  仲春中宮の御屏風に

春はなをわれにてしりぬ花さかりこゝろのとけき人はあらしな

  右大將四十賀の屏風に

にこりなき淸たき川の岸なれは底よりさそとみゆる藤なみ

  内侍督の左大將の四十賀にうしろの屏風によませし

千鳥なくさほの川霧立ぬらし山の木の葉も色まさり行

  これさたのみこの哥合に

雨ふれは笠とり山のもみち葉はゆきかふ人の袖かとそみる

  内侍督の左大將の四十賀せさせ給し屏風に

夏草のうへにしけれるぬま水のゆくかたもなき我こゝろ哉

ひとりゐる我敷妙は鹽かまのうきたるなれやよるかたもなし

  女のもとにつかはしけり

月かけに我身をかふるものならはおもはぬ人もあはれとやみん

  友則かうせにける時によめる

おりしもあれ秋やは人の別るへきあるをみるたに戀しきものを

  いみにこもりたる人をとふとて

墨そめの君かころもは雲なれや絕すなみたの雨とふるらん

  あひしりたる人の住吉にまうつると聞て

住よしとあまはいふともなかゐすな人忘草おふといふてふ

  あひしりたる人ひさしうとはすしてまかりたりしにうらみ侍しかは

すみの江の松に立よる志ら波のかゝれる時やねはなかるらん

  三月三日ある所にてかはらけとりて哥合とも

みちとせになるてふもゝはことしより花さく春に成そしにける

  志ほのなかりける夜よめる

鹽たてはなへてもならき世の中にいかてあへたるたゝみ成らん

  國にある所ゝのかたを繪に書てさひえといふ所にかゝむとてよませたる哥

年をへてにこりたにせぬさひえには玉もかへりて今そ住へき

  ふるき哥にくはへて奉るなかうた

くれたけの よゝのふること なかりせは いかほの沼の

いかにして おもふこゝろを のはへまし 哀れいにしへ

ありきてふ ひとまろこそは うれしけれ 身は志も乍ら

ことの葉を あまつそらまて きこえあけ すゑのよ迄も

あとゝなし いまもおほせの くたれるは ちりにつけてや

ちりの身の つもれることを とはるらん これをおもへは

けたものゝ 雲にほゆらん  こゝちして ちゝのなけきも

おもほえす こゝろひとつそ ほこらしき かくはあれとも

てるひかり ちかきまもりの 身なりしを たれかは秋の

くるかたに あさむき出て  みかきもり とのへもる身の

みかきもり をさをさしくも おもほえす こゝの重ねの

うちにては あらしの風も  きかさりき いまはの山の

ちかけれは 春はかすみに  たなひかれ 夏はうつせみ

なきくらし 秋はしくれに  袖そほち  冬はしもにそ

せめらるゝ かゝるわひしき 身なからに つもれる叓を

志るせれは いつゝのむつに なりにけり これにそはれる

わたくしの 老の數さへ   せめくれは 身はいやしくて

としたかき ことのくるしさ かくしつゝ なからの橋の

なからへは 難波のうらに  たつなみの 淚のしたにや

おほゝれん さすかにいのち おしけれは こしの國なる

志らやまの かしらは白く  なりぬれは をとはの瀧の

をとにきく 老すしなすの  くすりかも 君か八千世を

わかへつゝみむ

  ふるうためしゝをりにそへて奉る

君か世にあふ坂やまのいは淸水こかくれたりと何おもひけん

梅かゝを櫻の花につけたらは思はすにゆく鳥あらましや

  むかし住し家にて時鳥を聞て

いにしへや今も戀しきほとゝきす故里にしても鳴てきつらん

秋の野の萩のしら露けさみれは玉やしけるとおとろかれつゝ

  あき山をのそむ 大井行幸

秋山の紅葉みしまに日もくれて立田姬にや宿はかるらむ

  人ゝもろともにはまへよりまかりけるに山のもみちを見やりて

いく木ともえこそしられね秋山の紅葉の錦よそにたてれは

  紅葉おつ 大井行幸

色ゝの木のはおちつむ山里は錦にとめるなきな立らん

秋風にくらふの山の女郎花こゝろをおもみあはれとそみる

  菊 大井行幸

霜わけて咲へき花もなきものを色を殘してひとを尋ねる

  たびの鴈 大井行幸

むかしより春立かへり秋はきぬいつこを旅の光といふらん

  ひくらし奉る時のうた

山里にわひくらしゝを九重のみ山いりして我はわするな

  左大將の御賀のうた

鹽かまの磯のいさこをつゝみもて千世の數とも思ふへらなる

  女のもとにはしめてやる

すまの蜑のたれる鹽かまもゆれとも人にしられぬ我戀ならん

秋のゝに妻なき鹿のひとりふしふせとねられぬみこそすへなみ

うしといひて怪しやなとかみをなけん生て有身のよとは增れり

風吹は空にむらちる雲よりもうきて立する人はまされり

佗人の衣のうらにくらふれはふしの山へはしたかこれけり

あひ思はぬ人の心は山なれやいはほよりけにうこかさらなむ

夢のみちとこまとひなる世をへつゝ歎く詠めに世ゝをふること

ひとたひも戀しと思ふくるしさはこゝろそちゝにくたくへらなる

  しのひて女のもとにまかりて侍しにいくはくもなくて明侍しかはまかり歸るとて

夢よりもはかなきものは夏のよの曉かたのわかれなりけり

つくはねのかけを□□□□□□□□□いまはまつ山波なとかめそ[※□缺]

  みつねとよみかはせる

待ほとはたのみも深し夜をこめておきて別るゝことはまされり

かひの國にまかりたりしほとにたのみたりし女の人に名立と聞侍りしを歸まうてきて

忘るれは又も渡らぬうき叓の忘れすのみもおもほゆる哉

二葉よりわかなてしこを哀れなるいくその秋にあはむとすらん

あきはかり淚かたくも成にしか物をかなしとふかくおもはし

秋霧は立ぬをりありはれもせてふりなん名をはいかゝ咎めん

  いとまにてこもりゐて侍るに人のとはねは

おほあらきの森の草とや成にけん狩にきてとふ人もなきみは

藤衣はつるゝいとはわひ人のなみたの玉のをとそなりぬる

  みつねとよみかはしける

身をしれは出る淚もあはれなり春のなかめはつねにふること

  同哥

秋はつることは哀もまさりなん入ぬる月はよのまはかりを

  同哥

思ひやる心のほとははてもなし風のいたらぬくまはおほかり

  伊せのみちのすゝ河にて

名にはいへとたかにもすへの鈴鹿河せゝの波こそさやけかりけれ

  からさきといふ題を

いかて人たれからさきにわたりけむ水の面にあともつかぬに

  大井の行幸

年ふかくねさし入江の松なれは老のつもるは波やしるらん

  同題

水かけをえにける松はいとゝしく波の上にやおひまさる覧

  かしの木

あら玉の年こそまされ秋ことにむかしの霧や今も立らん

  躬恒とよみかはせる

鳥の子はかさねてしはし有ぬとも人を賴まんことのはかなさ

  鶴すにたてり 大井行幸

まな鶴をたちゐなかせるかたのすに千年の跡を殘さゝらめや

  鷹

山深みすかけせしより心ありてまもりかへけるやかたをの鷹

  かもめなれたり 大井行幸

白波のこせともたゝすむれゐつゝ人になつかてみなれたる哉

  うつせみといふ題をありはらのしけはる返し

袂より離れて玉をつゝまめやこれなんそれとうつせみむかし

  陽成院の御つかひにしてかひの國にまかりたりしほとにたのみたりし女の人に名立と聞てかへりまうて來て遣はしける

こそのこそ とつきのゆはり 有しとき  さきのすめらの

おほせにて 白雲まなる   かひかねに さしつかはしゝ

時にわか  いひしこと葉も よひことに ちきりしことは

和田のはら ふかきみとりに ありそ海の あた波立なと

いふことは おり返しつゝ  いひおきて 時雨とゝもに

ふり出にし まなこはちりに 立かへり  あつまの道も

みえさりき 心のやみに   まとひつゝ あふさか山を

こえ出し  しけきおもひを 山しろの  山をうしろに

うらみつゝ うしろめたしと 思ひしに  わか身はせたの

橋にわたり いかにせましと うちなかめ あふみの海を

みやりしに やむことなみの 立しかは  はるかにみえし

たてしまの からき別を   するかなる 富士のみ山と

みゆれとも つゐにとまらぬ みちなれは 手向の神を

うちねきて さて行衞に   いたりにき 殘れる冬は

志かならて 草のまくらに  わひくらし 年たにたゝは[※志ハ假名]

春かすみ  立かへりなん  ともし火に わかなすかとの

しつはたに みたれてならす ありしかは 立とゝまりて

ゆくほとに せみの初聲   なきしなつ 都よりくる

みやことり 空に鳴ねを   聞しかは  君まつ山は

もみちして 波さへこゆと  きゝしかは 雲のうかへる

ことなれは よるもあらしの かせ吹て  晴たる空を

うちなかめ いつしか山を  立のほり  まつ山ことに

うつろひし 有とみんとそ  いそきこし 何かはさらに

さりけれは 色のみとりも  さしなから 心ねさへそ

かれにける さりとも水の  あはこゝろ すみもしぬへく

おほえしに にこりそめにし あさきりは 時雨とゝもに

朝きりに  いていりしけき にほとりの 底さはかする

いけ水に  身を浮草の   かくせとも かくしもあへす

難波かた  なにはに生ふる あしのねの あしたゆふへに

あらはれて 聞ゆる叓を   くるしみて もえ出てほかに

うつる成けり

  右忠峯集以肥後守經亮本挍合了


妋ノ尾雅寫