紀友則の和歌。友則集。原文。全文。據國哥大觀
紀友則の和歌。古今集撰者。古今完成前に沒。家集全文。
據戰前版國哥大觀
友則集
春立つ日
みつのおもにあや吹亂るはるかせやいけのこをりをけさはとくらん
寛平の御時の哥合初春
はなの馨をかせのたよりにたくへてそうくひすさそふしるへにはやる
梅の花折りて人にやるとて
きみならてたれにかみせんむめの花いろをもかをもしるひとそしる
櫻の花のもとにて年の老いぬる叓を思ひて
いろも香もおなしむかしにさくらめとゝしふるひとそあらたまりける
寛平の御時きさいの宮の哥合
みよしのゝやまへにさけるさくらはなゆきかとのみそあやまたれける
ひさかたのひかりのとけきはるのひにしつこゝろなくはなのちるらん
雪の降れるを見て詠める
ゆきふれは木ことにはなそさきにけるいつれを梅とわきてをらまし
音羽山を越ける時時鳥聞きてよめる
おとはやまけさこえくれはほとゝきすこすゑはるかにいまそなくなる
屏風の哥左大將の四十賀の料
めつらしき聲ならなくにほとゝきすこゝらのとしをあかすもある哉
寛平の御時中宮の哥合
さみたれにものおもひをれはほとゝきすよ深く鳴きていつちゆく覧
夜やくらき道やまとへるほとゝきす我やとにしもすきかてになく
ゆふされは螢よりけにもゆれともひかり見ねはやひとのつれなき
けふよりはあまのかはなみあせなゝむ浮瀨ともなくたゝわたりなん
あまのかはなかれてこふるたなはたのなみたなるらし秋のしらつゆ
あまのかは瀨ゝのしらなみたかけれとたゝわたりきぬまつにくるしみ
あまのかはこひしきときそわたりぬるたきつなみたに袖はぬれつゝ
寛平の御時殿上の人ゝ哥よみけるに人に代りて詠める
あまの河あさ瀨しらなみたとりつゝわたりはぬにあけそしにける
こゑたてゝなきそしぬへきあき霧にともまとはせる鹿にはあらねと
誰聞けとこゑたかさこにさをしかのなかなかしよをひとりなくらん
うちはへてかけとそたのむ峯のまつ色とるあきのかせにうつるな
ゆふされは佐保のかはらのかは霧にともまとはせるちとり鳴也
惟貞の親王の哥合に
秋かせにはつかりかねそきこゆなるたかたまつさをかけてきつらん
大和國に下りけるに佐保山に霧の立けるを見て
たかためのにしきなれはかあきゝりのさほのやま邊をたち隱らん
寛平の御時繪に菊の花のもとに人立てるを書きたるを見て
はな見つゝひとまつ時はしろたへのそてかとのみそあやまたれける
惟貞のみこの哥合に
つゆなからをりてかさゝむきくのはなおいせぬあきのひさしかるへく
立田山を越えて詠める
かくはかりもみつる色のこけれはやにしきたつたのやまといふらん
みるからにあきにもある哉たつたひめもみちそむとやゝま邊しるらむ
はつしくれふれはやまへそおもほゆるいつれのかたかまつも見つらん
からころもたつたのやまの紅葉ゝはものおもふひとの袂なりけり
大澤の池のかたを作りて菊を植ゑたるに
ひともとゝおもひし菊をおほさはのいけのそこ迄たれかうゑけん
はるかすみたなひくやまのさくらはなみれともあかぬきみにもある哉
わか戀をしのひかねてはあしひきのやまたちはなのいろに出ぬへし
よひのまもはかなく見ゆるなつむしにまとひまされるこひもするかな
寛平の御時中宮の哥合に
せみの聲きけはかなしな夏ころもうすくやひとのならむとおもへは
くれなゐのいろには出てしかくれぬのしたにかよひてこひはしぬとも
我より髙き女を思ひかけて
たまかつく蜑ならねともわたつうみのそこひもしらす思ひ入るかな
みるもなくめもなきうみの濱にいてゝかへすかへすもうらみつる哉
わかこゝろいつにならひてか見ぬひとのおもひやりつゝ戀しかるらん
我やとのきくのかきねに置く霜のきえかへりてそこひしかりける
おもひてもはかなきものはふく風のをとにもきかぬ戀にそありける
あきかせはみをわけてしもふかねともひとのこゝろのそらになる覧
さゝの葉にをくしもよりもひとりぬるわかころも手そさえまさりける
君てへは見まれ見すまれふしのねのめつらしけなくもゆる我身を
かはの瀨になひくたま藻のみかくれてひとにしられぬ戀もするかな
よひよひにぬきて我ぬるからころもかけておもはぬときの間そなき
あつま路のさやのなか山なかなかになにしかひとをおもひそめけん
しきたへのまくらのしたに海はあれとひとをみるめはおひすそ有ける
としをへてきえぬおもひはありなから夜のたもとはなほこほりつゝ
ことに出ていはぬはかりそみなせ河したにかよひてこひしきものを
いのちかもなにそも露のあたものはあふにしかへはをしからなくに
たちかへりおもひ出つれといそのかみふりにし戀はわすられにけり
したにのみ戀れはくるし玉のをのたえてみたれむひとなとかめそ
みつのあはの消えてうきみとしりなからなかれても猶たのまるゝかな
うきなからきえせぬ泡となりなゝんなかれてとたにたのまれぬ身は
くもゝなくなきたるあさの我なれや厭はれてのみよをはへぬらん
本院の大臣の御前にして四十よになるまて無官にはへるよしをまうして
はるはるのかすはまとはすありなからはなさかぬきをなにゝうゑけん
返し
今まてになとかははなのさかすしてよそとせあまりの年きりをする
人のもとよりとのゐ物おこせたりけるを返すとて
蟬の羽のよるのころもはうすけれとうつり香こくもなりにける哉
筑紫にありける時に通ひて碁なと打ちける人のもとに京へ上りて後にやりける
ふるさとは見し叓もあらす斧のえのくちしところそこひしかりける
物へいく道に來逢ひて物なと云ふ人に別るとて
したの帶みちはかたかたわかるともゆきめくりてもあはんとそおもふ
藤原のたゝゆきか身の沈むよしを歎くをとふらひにやりたる返事に菊の花を折りて
枝も葉もうつろふあきのきくみれは果てはかけなくなりぬへらなり
とありける返事に
雫もてよはひのふてふはなゝれはちよのあきにそかけはみつらん
親のよみたりける哥とも書き集めて惟喬のみこにとらすとて奧に書きたりける
叓ならは言の葉さへもきえなゝむ見れはなみたのたきまさりけり
藤原敏行失せて後にかの家に贈りける
ねてもみゆねてもみえ鳬おほかたはうつせみのよそゆめにはありける
とりもあへぬ年はみつにやなかるてふ老のこゝろのあさくなりゆく
[をみなへし]
しらつゆをたまにぬくとやさゝかにのはなにもはにもいとをみなへし
あさつゆをわけそほちつゝはなみんといまそやまへをみなへしりぬる
をかたまのき
みよしのゝよしのゝたきにうかひ出つるあはをか玉のきゆとみゆらん
きちかうの花
あきちかう野はなりに鳬しらつゆのおけるくさ葉のいろかはりゆく
りうたん
わかやとのはなふみちらす鳥うたむ野はなけれはやこゝにしも鳴
惟貞のみこの哥合に
あきゝりはけさはなたちそ佐保山のはゝそのもみちよそにても見ん
池水やこをりとつらんあしかものよふかくこゑのさはくなるかな