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冬月の幕間閑話⑱-閑話-

2020.01.18 22:00





稀にみる暖冬と囁かれている通り、日本海側では深刻な氷不足となっているそうですね。



今夏の天然かき氷は超高級スイ-ツの仲間入りを果たすとか果たさないとか。





そんな中私はというと「師走っていつ終わんの?」ってくらい多忙な日々を送っております。





ご存知ばーらびの年を越せない漢、日曜の冬月でございます。




自ら忙しくしてしまってる部分もあるんですけど、それはともかく何より家族総出で忙しい。



家族の中で誰かが忙しいと、自然に全員忙しくなる法則ですね。




特に子供の習い事ね、とあるスポ-ツをやってるんです。




友達と同じとこでどうしてもやりたいって本人が言うもんだから、途中で投げ出さない約束でOKしたんですよ。




これが間違いでしたね。よく調べるべきでした。





強豪だった()




なんかすんごいの。。。大会前のスケジュ-ルとか。。。

お月謝とか……




約束した手前「ちょ、ちょっと違う習い事にしようぜ」とは言えず。楽しそうに取り組んでるのでサポ-トせざるを得ない( 'ω')クッ!




当然嫁さんも忙しいし、私も仕事時間を削って日課のジム通いをこなしてる有様(ぇ)




とはいっても、この時期にこうなるのは例年通りといえばそうなんですけどね。今年は特にバタバタしてる気がします。





ということで、ネタがない←





なので今回は、嘘みたいな作り話(?!)をどうぞ。




ト-ラムないよ!



















少年には、母親が二人いる。





一人は実母、もう一人は親友の母。






俯く少年に、もう一人の母は泣きながら微笑んだ。









〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜









「海行こうぜ」





緩慢と思える時間に耐えかねて、一人が口を開く。





反対を吐く奴はいない。なぜなら、揃いも揃ってとにかく暇だからだ。





少年はにべもなく頷く。溶けるような暑さで声を出すのも億劫だった。







少年達は、いわゆる暴走族だ。





時代的には末期だろうか、だが彼らのちっぽけなコミュニティでは大いなるステータスだった。





先輩に従いたくないという理由から新しいチームを立ち上げ、旗を作り、服も揃え、嬉嬉として単車に跨る。





少年は、彼らはどうしようもなく阿呆だった。





「本当は暴走族なんかやりたくなかった。みんなで楽しく遊んでるだけでよかった。」





金髪の彼がそう零す。





仲間内でも、少年と彼は特に仲が良かった。





そんな彼が目の前で初めて口にした不満を、





もっと真剣に聞くべきだったと、少年は止まぬ後悔に濡れ続ける。







〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜







海へ出発したのが深夜0時。





夏の夜更けは潮風すら生温い。





特に何かをするわけでもなく、ひとしきり砂浜を踏みしめた一行は地元の溜まり場へと踵を返す。





そんな帰路の最中、彼らのようなやんちゃ者なら漏れなくそうであろう、忌避の対象と遭遇する。





サイドミラ-に反射する赤いランプ。パトカーだ。






少年は『散るか』と内心呟く。





応援を呼ばれる前にバラバラになって逃げるのが最善だと、彼らは皆経験から知っていた。





集合場所も決まっている。





前方が三叉になっている道へ差し掛かり、誰が合図するわけでもなく皆一斉に三方へ散る。





幸いと言うべきか、赤いランプは少年を照らすことなく別の道へ進んだ。





そのまましばらく往くと、難なく集合場所へ辿り着いた。




同じ道へ逃げた仲間と、揃って一番乗りだ。





しばらくすると一人、また一人と、逃げおおせた仲間が帰ってくる。





15分もしないうちにほぼ集まったのではないだろうか。





そう、『ほぼ』だ。





「あれ?あいつは?」





面々を見渡しつつ、少年が問う。





金髪の彼だけまだ戻ってきていない。





「途中までいっしょだったけど、学校近くの自販機のとこ曲がってったぞ」





一人が答える。





まあもう少し待ってみようかと、誰とはなしに決定する。





そも、いつの間にか自宅に帰っていたなんてことも珍しくない為、戻りが遅かろうが特段誰一人気にはしない。





しかし30分が経ち、1時間が経ち。





電話をかけたところで出るわけでもない。





「もしかして捕まってんじゃねーか?」





そうかもしれないと、少年も薄々感じていた。





仮にそうだとしたら朝方には解放されるだろう、そうすれば連絡もつくはずだ。





一同はそう判断し、朝を待つ事にした。





少年は自宅へ戻り、一抹の不安を抱きながら夢と現の境を払う。








そして、陽が上りきる正午前。






着信音で目覚めた少年は瞼を擦りながら電話をとり、






眼前に広がる見慣れた自室が、ぐにゃりと歪んだ。









〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜









「え?」





電話の主は彼の母親だった。





彼は母子家庭だ。





彼の母とは、面識どころか会えば一緒にゲームでもするかといったフランクな関係である。そんな日々も相まって、電話くらい普段なら気を回すほど珍しいことではない。





しかし、この時ばかりは嫌な予感がした。







「なんて…?」






意味がわからなかった。





後にして思えば、わかりたくもなかった。





だが無情にも、電話の主は同じ応えを繰り返す。





「え…?」





これも後になってみれば、なんてひどいことをしてしまったんだろうと思う。






母に、









息子の死を二度口にさせるなど。







それでもまだ、少年は意味がわからなかった。






死んだ?誰が?





ずっと一緒にいた。

だれが?





昨日もくだらないことで笑い合った。

だれがしんだ?






皆にも伝えて欲しいと、絞り出すようなか細い声が電話から聞こえてくる。





少年は『わかった』と返したんだろう。多分。






その後全員集まったことから察するに、母の頼みは漏れなくこなせたようだから。





通夜に出席した。告別式にも出席した。






初七日も過ぎた。それでもまだ、わけがわからないままだった。






金髪の彼が死んだ。親友だった。





スピード超過でカーブを曲がりきれず、コンクリートの塀に頭から突っ込んだそうだ。





大きな音で不審に思った近隣住民が、惨状を見て救急車を呼んだらしい。





医者が言うには「ヘルメットがあれば死ななかったかもしれない」と。





そうなんだろう。紛れも無く、彼自身の落ち度だ。





けどそうじゃない。少年にとって、そこではなかった






『暴走族なんかやりたくなかった』






彼の訃報を知ってから、数え切れないほど反芻した。





聞くべきだった。もっと親身に、真剣に。





少年の前でしか零さなかった愚痴を、





少年は些末と斬り捨てた。





取り返しのつかない後悔とは、こんなにも無慈悲なものか。





「悪かったな、真剣に聞いてやれなくて」






想っても、呟いても、応えるべき相手はもういない。







〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜








言い出したのは誰だったか。





とにかく、彼が亡くなって二週間ほど経った日のことだ。





「おふくろさんに謝りに行こう」





これには反対意見もあった。少年もその一人だ。





謝りたいというのはわかる。彼の気質を抜きにしても、外道に引き入れたことで皆一様に責任を感じていた。





ただ、彼が亡くなってまだ二週間だ。





告別式で見た彼の母は、憔悴しきった様子だった。





謝るにしても、もっと期間を空けるべきじゃないか。





なにより、





どの面下げて会いに行くというのか。





母にしてみれば、我々が憎むべき対象であろうことは想像に難くない。






結局、どれだけ罵られても頭を下げようということになった。





母の様子も心配だったが、





少年達は謝ることで楽になりたかったんだろう。





行き場のない負い目と悲しみから、どうにかして逃れたかったんだろう。





本当に、どうしようもなく阿呆で、





どうしようもなく子供だった。







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日中は仕事があるはずなので、その日の夜に全員で彼の実家へ向かった。





何を言われても頭を下げよう。いっそ殺されても文句は言えないとすら思っていた。





彼の実家に到着すると、庭に見慣れた車が停まっている。母は在宅のようだ。





インターホンを押して数秒後、玄関の灯りが点く。





少年はごくりと喉を鳴らした。






『ガチャ』





玄関が開くと、彼の母が姿を見せた。会うのは告別式以来だが、少し痩せたように思う。





「あら、みんなでどうしたの?」





母が問うてくる。






「…………謝りに来ました」





前もって考えていた言葉など、彼の母を目の前にした途端吹き飛んだ。





いや、用意していた文言も適切ではなかっただろう。




そも、どんなに考えたところでなんと言えばいいのか、皆目見当もつかなかった。





自分達が顔を出す、その時点で母の傷を抉ってしまっている。




そこから発する言葉など、どれだけ飾っても醜悪さは拭えない。






「……すいませんでした!!」






『何を抜かしてるんだこのガキ共は』、少年が母の立場ならそう思っただろう。





なんてみっともない謝罪だろうか。





何について謝っているのか、それすら述べていない。





少年は頭を下げながら自分の愚かさを呪った。





もっと伝えたいことがたくさんあった。





彼の話も、彼への思いもたくさんあった。





衝いて出た言葉が『すいません』の一言。





滑稽だろう。あまりにも。





自分達は一体何をしに来たのか、これでは本当に母を苦しませただけではないのか。





何度も繰り返される自責の最中、ふと気付く。






……返事がない。





陳腐な謝罪からどれだけ経ったのかわからないが、母からの応答がない。





『帰れ』と言われるか、もしくは罵られるかと思っていたので、想定外の沈黙にどうしていいかわからない。






「顔をあげなさい」





どうしたものかと考えていた矢先だった。





言われた通り、ゆっくりと顔を上げる。





視線の先で、彼の母は泣いていた。





心臓が痛い。泣かせたのは疑いようもなく自分達だ。





やはり来るべきではなかった。少なくとも、まだ早すぎたのだ。





少年達は、母の言葉を待った。





こちらから弁じてはいけない。何を言っても刃になると、少年達は悟っていた。






母が、ゆっくりと少年達を見渡す。





次の瞬間、





母が発した言葉に少年達は、





少なくとも少年は、天地がひっくり返ったような衝撃を受けた。








「お前達は、死ぬな」








言葉を失った。





まただ。わけがわからない。





死ぬな?どうして?





なんでそれを、よりによって自分達に?





憎んで然るべきじゃないのか。自分達は。





どういうことか、狼狽えていた自分達の様子を感じ取ったかのように、泣き顔の母が再度口を開く。





「死ぬのはうちの息子だけで充分。お前達は生きてくれ。頼むから、もう誰も死なないでくれ」







そんなことがあるか?






いっそ罵ってくれたらどんなに楽だっただろうか。






自分達は、救われた。





息子を亡くして間もない人に、息子が亡くなった原因の一端が。救われてしまった。





そんなことがあっていいのか?






『生きてくれ』と、母は言った。





どんな気持ちでそう言ったのか、その後何年経ってもわからないままだ。






けれども確かにその時、少年達はこの上なく救われた。






そしてその日から、彼の母は少年達のおふくろになった。







〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜









十数年が過ぎた。





当時の仲間は皆それぞれの日々を送っている。





かつて少年だった自分も、皆と会うことは滅多にない。





それでも彼の命日の深夜には、必ず集まって墓参りをする。






もちろん、おふくろも一緒だ。





結婚が決まった時は、実母より先に報告へ行った。





自分のことのように喜んでくれた。





子供も見せに行った。あんたの孫だ、と。






何はなくとも盆と暮れには毎年家族で顔を出す。





「今になってあの日のおふくろの気持ちがちったぁわかるよ」と言ったら、





「それならやっとこさ半人前だね」と、手をひらひらさせておふくろが言う。





その後は毎回飽きもせず、同じ彼の話で盛り上がる。











どんな声だったか、どんな喋り方だったか、もう段々思い出せなくなってしまったけれど、





笑った顔だけは、おふくろそっくりだったように思う。









〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜








青年には、母親が二人いる。






一人は実母、もう一人は親友の母。






語らう青年に、もう一人の母は優しく微笑んだ。














おしまい.