12冊目 父 吉田茂
敗戦後の日本を背負った首相の、知られざる姿
吉田茂の懐刀、白洲次郎に関しての本は昔、ハマったことがあり何冊か読んだことがある。
一方その親分、吉田茂については恥ずかしながらまだよく知らなかった。
吉田茂を知る、その1冊目が実の娘にしてファーストレディを務めた傑物、麻生和子の手によるものであるのは、バイアスがかかっているかもしれないが、吉田茂自体評価が分かれていたり、誤解されている点も多い人のようなので、このくらいの依怙贔屓は容赦してほしい。
元々は外交官で、政治家から総理大臣になった人物ではないというのも興味深い。
戦後GHQによる難癖を唯一逃れた白木の神輿、それが吉田茂だった。
バカヤロー解散の人、くらいしか義務教育の歴史で習わないのは嘆かわしい。肚の座った魅力的な明治の男である。茶目っ気と負けん気を備え、世のために自分が何をできるかを考える。そういう公共精神があったから心折れずに長く続けられたのではないか。
その豪胆は見事に娘にも受け継がれている。著者は麻生太郎氏の母親である。海外育ちでも、随所に愛国心が滲み出る。父親の意地の張りどころも理解している。男親としてこういう娘を持つと幸せだろうなと思う。
吉田茂と好みが一致し、政治の裏方を支えた麻生家の人々も懐が深い。世の中のためになることに、保身を持ち込まなかった。
しかし、この本を読んで今の政治はどうだ、今の日本はどうだ、と世の中の批判に持ち込むのでは勿体ない。
「良い生き方」という一つの物差しとして、一人の男の生き様を眺める。そのための本だと思う。
世の中に出て、自分にできることで公共に利する。
それが仕事なのではないか。
趣味のために仕事をするのではなく、趣味のように仕事をしつつ、誰かの役に立つ。幸せって、そういう事ではなかったか。
重大な決断がもたらす、苦悩が、責任が、人間を魅力的にする。
今こそ真剣に生きなければならない、過去の人物たちのためにも、未来を生きる人たちのためにも。