時間 2020.01.18 11:50 【ショート・エッセイ】木々の葉が紅く黄色く変化している木立のなかを歩いていた。友が「あの紅葉の色って滅びて死んでいくときの色なんだよね……」と、こちらへ聞かすわけでもなく、自分に聞かすかのように呟いていたっけ。いよいよ、その林の中の道を行き交う人も途絶え、自分の足音だけが反響するように思えた。 向こうから男らしい影が一つやってくる。……若くはない。 軽く会釈して、すれ違おうとしたときに、その男が 、「今は何時ですか?」 と尋ねた。 「2時10分前です」 と答える。 「そうですか……。じゃ、時間とは何ですか?」 「!?……」 急に周りの紅葉の色が飛び、風景がぐにゃりと歪んで変質して、どこか異次元の世界へ連れていかれそうになる。 たたらを踏んで……「一度にすべてのことが同時に起こらないために、時間はただ存在するのです」 とアインシュタインの言葉を借りて辛うじて答えた。 それを聞いて、彼はふっ!と片頬だけで微かに笑い、無言のまま踵を返して道なりに曲がって行き、姿が見えなくなった。