助けられた子どもに対する認識
Sierksma, J., & Shutts, K. (2020). When Helping Hurts: Children Think Groups That Receive Help Are Less Smart. Child Development.
近年は幼児期から他者を助ける, または助け合うということが確認され, 研究が多くなされている。他者を助けることは, 一般的には良いことだし, 本人がある集団の中で生き残っていく際にも必要となる行動である。しかし, 本研究では, 助けるという行動のポジティブな側面だけでなく, ネガティブな側面に着目している。例えば, 助けてもらった人を見ると, あの人はあれができないんだなあと思われるというようなことである。ただネガティブといっても, 社会的な機能としては当然必要で, 助けてというシグナルを出すことで, 「その人は今困っているんだ、助けなくちゃ」となり, 助ける行動に至る。つまり, 助ける行動に伴う副産物とも側面に着目した研究ともいえる。Graham & Barker (1990) が唯一類似した研究で, 6歳児を対象に, 算数の問題で先生に助けられた男の子と助けを必要としなかった男の子のどちらが賢いか質問すると, 後者の方が賢いと答えることを示している。本研究は, この知見をさらに集団という文脈に敷衍し, より精緻化された方法で再検証しようとしている。
3つの実験を行っているが, どれもpreregistrationをしているようなので, 刺激は以下のリンクからみることができる (https://osf.io/wa ms5 1, 2, 3)。
実験1では, 90名の4~6歳が参加している。手続きとしては, 3つの動画(構成は同じ)を見て, 質問に答えるというシンプルな内容である。動画の内容として, 下の図のように異なる色のTシャツを着ている2つのグループ(4名)に分かれていて, グループごとに何かの活動(工作やパズル)をしている。そして, 中央にはそれらの活動について熟知している人(エキスパートと言っていて, 先生とはいっていない)がおり, 片方のグループにはアドバイスをし, 片方のグループにはアドバイスをしないという内容となっている。動画再生中には, 状況を説明するナレーションがずっと入っている。上記の動画をみた後に, どちらのグループが "smart" または "nice" (どちらを聞くかは参加者間) とを子どもたちに質問している。日本語の場合は, 「賢い」または「素敵な」と訳すのだろうか。
結果, 子どもは助けがいらなかったグループを"smart" と答え, こうした傾向は"nice"では見られなかった。
先行研究でも, あるグループについて学習した内容をグループに新しく入る人にも当てはまるという知見 (Horwitz, Shutts, & Olson, 2014) があるようである。そこで, 次の研究では, こうしたグループへの評価が新しくグループに参入するメンバーの評価にも関係するのかどうかを検討している。
この実験2では72名を対象としている。もともとは45名を予定していたようであるが, それを報告していない理由についてもpreregistrationには書かれている (https://osf. io/wams5)。基本的には, 実験1と同じであるが, ビデオの最後に下図のように各グループに対応するTシャツを着た新しいメンバーが登場する。そして, どちらの子どもの方が"smart"かをまた子どもに質問する。結果, 同じと答えたものが約40%, 助けがいらなかったグループに入るメンバーが"smart"と答えたものが約34%, 助けられたグループに入るメンバーが"smart"と答えたものが約26%であった。検定にかけても, これらの選択間には有意差がなく, 著者らの仮説は支持されなかった。
実験3では, 仮説が支持されかった実験2を受けて, 同じという選択肢を排除している。57名を対象としたこの実験では, 助けがいらなかったグループに入るメンバーが"smart"と答えたものが約69%, 助けられたグループに入るメンバーが"smart"と答えたものが約31%であった。よって, 強制2択にすると, 著者らの仮説は支持されたということである。実験2との違いを説明する考察として, ビデオでは1回のみしか助けられた場面を見せておらず, 1回だけでは子どもが自信をもって新しいメンバーの特性を推論できなかったのではないかと考えている。
結果, 助けがいらなかったグループやそのグループに入ろうとしているメンバーは, より”smart”と判断される傾向にあるという結果が得られた。著者らも付け加えているように, 各グループに対する"nice"は変わらないので, ポジティブ・ネガティブという次元ではないようである。あくまでcompetenceという位置づけなのだろう。個人的には, 2つを比較すると(または同じという選択肢を含めたとしても), どうしても"何か"助言された方を選んでしまう気がする。1~5段階で, 各グループについて聞いてみる方法でも同様の結果が得られるか確かめたいところである。
また, ディスカッションでは, ステレオタイプの形成という観点につなげているのは面白いし, シンプルなアイデアを複数の実験で証明しようとしている点もさすがChild Develomentという印象。特別なことをしているわけではないので, アナログな行動実験をする研究者からするとお手本となる研究といえるだろう。発展のさせ方は, 子どもが助けられるのを嫌がるというような行動と結び付けられるのかや, どの領域に対しても"smart"と考えているのかなど, いろいろと妄想を掻き立てられる研究である。