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松浦信孝の読書帳

13冊目 しずけさとユーモアを 下町のちいさな出版社 センジュ出版

2020.01.23 22:38

しずけさとユーモアの奥には、深いやさしさがありました。

作家に文体がある如く、編集者にも作る本にある種の香りがあることを、吉満さんがセンジュ出版の本を通して教えてくれた。



やさしい本を作る出版社、センジュ出版。



その編集者にして社長でもある、吉満明子さんが、初めて書いた本。



本との出会い、敏腕編集者になるまで、震災と出産を契機に、180°反転した価値観。人の本棚に長く残る本を生み出す出版社を作るまで。作ってからのあれこれ、最後まで目が離せない。本を出した後の「いま」が気になる本なんて反則だ。



「しずけさとユーモア」を旗印に、数十年後まで残る本を生み出す事を目指す出版社、センジュ出版は生まれた。



ぼくの第二の師匠、清水店長がいる本屋「読書のすすめ」では時代を超えて真理を解く本を読む事を「縦糸の読書」と言って奨励している。



センジュ出版の本は、紛れもなくこの縦糸の系譜に連なる本である。書いているのは今という時代である。でもきっと古びない。そこには人間の「ほんとう」が描かれている。



センジュ出版の本たちは、単に消費される本を逸脱し、長く本棚に残り、所有者の背中を押し、迷った時には優しく寄り添ってくれる。その願いから生まれてきた本たちは、言葉にできない部分のやさしさを蘇らせてくれる、今まであって欲しかったけれど現代には無かった、特殊な本たちになった。



自分は今まで、知恵をつけて武装し、社会を一人で変えていくための本を読んできた。その事は間違ってなかったと思っている。ただ、読んだ後で、現代にどう適用すれば良いのか、自分には考えが浮かばなかった。



吉満さんの本は、真理を解きつつ、頭ごなしには現代を否定しない。その中に確かにある本物にスポットライトを当てて、真理につないでくれる。

吉満さんは真理に片手で触れつつ、もう片方の手で世の中を手放さない。



読んで思った。この時代、このタイミングにこの本は産み落とされねばならなかった。



大企業から提供されるものを頭ごなしに飲み込む時代は終わった。



愛すべきもの、残って欲しいものに、「購入」という一票を投じる事で、未来に継承すべき本物を残せるかどうかの戦いが始まる。庶民の時代が幕を開けたのだとひしひしと感じる。



支援するかどうかを決めるのは自分。

そのためには、センジュ出版の今までの本を読み、これから出す本を真摯に見極めなければいけない。



この人だから全幅の信頼をおける、というのも愛かもしれないが、そんな人でも間違い得ると思って目を光らせて読むのも愛だと思う。人は皆間違い、道を踏み外しうるというのは易経から学んだ知恵だ。



信じているからこそ、ちゃんと読む。調子が悪そうだなと思うと、声をかける。いつぞや忘れてしまった、人間らしい営みを取り戻す起点になりうる本。



弱い人のために本はある。



本の力を信じている。



吉満さんは、そう言った。



自分も同感だ。



弱いからこそ、本を読んで飽くなきところまで学び続けられる。



本を信じているからこそ、学びたいと思った時、本の知恵を借りようと思う。人に言えない悩みも、本なら黙って寄り添ってくれる。



本という、能動的にならなければ何一つ獲得できない媒体には、ロマンがある。



今はとにかく進もう。

ロマンの先に、より良き時代が訪れる事を信じて。



この本はセンジュ出版社長の吉満明子さんの本ですが、出版社自体は枻出版社になります。気になったら他のセンジュ出版の本も読んでいただきたい。




記念すべきセンジュ出版第1冊目 ゆめの はいたつにん


カンボジアの子供達に夢を届けるため、映画を贈ることを決めたある女性の物語。

先日テレビ番組「セブンルール」で取り上げられたちょっと情けなくて、でもだからこそみんなが応援したくなる不思議なリーダーのお話です。




センジュ出版3冊目 こどもたちの光るこえ

本当にあった、先生と生徒たちの物語。

読んだら涙が止まらない。とても優しく勇気をもらえる物語たち。



センジュ出版4冊目 千住クレイジーボーイズ

こんなに丁寧で愛のこもったドラマのノベライズを自分は他に知らない。

読み終えたらきっと思う。「ああ、千住に住みたい」と。




センジュ出版5冊目 ハイツひなげし


ハイツひなげし、というアパートの各部屋の住人達が織りなす物語集

弱さとやさしさ。

やさしい。ってどういうことなのか。

寄り添う。ってどうすることなのか。

小田島さんは教えてくれる。

小田島さんは救ってくれる。


センジュ出版6冊目 あの日ののぞみ246号


「頼まれごとは試されごと」や「あなたの期待、上回ります」など高校時代の僕にいくつかの名言と思考の転換点を与えてくれた中村文昭さんの小説

青春のみずみずしさの中に、人と人との温かい関わり合いが見えてくる。


センジュ出版7冊目 ぼくとわたしと本のこと


ある大学でゼミの先生から唐突に投げかけられた課題、先生とゼミ生全員22名で作家デビュー

学生ながらも、真摯な気持で自分と向き合う学生達(と先生)が自らの人生の中から掘り出した本の思い出や家族、友人達との向き合い方。本ブログでも前回記事で紹介しました。まっすぐな本です。



どれでも、お好みの本から読んでみて下さい。



追記

一番大事なリンクを貼り忘れた事に気づいた