冥土 後編。
そんなこんなでハンド冥土バイシクル展会場内をウロウロと見て回っておりますと、
展示物は何もハンドメイド自転車(という呼称に覚える違和感常時有り)だけではなく、
材料商社さんのブースも複数あり、並ぶ部材の中には「あ!我が自転車と同じヤツ!」みたいな出会いも御座いましょう。
そんな「あ!我が自転車と同じ!」という同族意識を一切廃した「キノピオ」さんの見た事無い系木製自転車・モックル。
見た目重視のオモシロ自転車では決して無く、キチンした走行性能を備えた製品として完成しているのが凄いですね。
因みに積層構造のトップチューブとシートチューブが撓ると、ステン製シートチューブとの交点がピコピコ上下動するそうな。
此方は日本自転車界のリビングゴッド「アマンダスポーツ」さんの木製車椅子・・・ではなく椅子車?
ニーズに応じて色々出来るという意味においてはナルホドナルホドですが、自分が必要とするのはまだまだ先かと。
対して此方は見るからに速そうで乗っても速いはずだけど、それ故に御縁が無さそうな「Bomber−Pro」のトラックバイク。
メガサイズダウンチューブ&テーパーヘッドのスチールフレームの真ん中にズドンと通ったカーボンシートチューブ。
オートバイでいう所のミニサーキット専用車両みたいな感じで、趣味としてトラックを走る為の一台として、
こういう存在が普通になると世の中もっと面白くなるんでしょうねぇ。
此方も同じくカーボンハイブリッドですが、少し毛色が違って見入ってしまう「エンメ・アッカ」さんのトラックバイク。
ディスクブレーキを装備しているので公道を走ってトラック入りし、現場でブレーキを外してバンクを走る自走派スタイル。
前三角の3本はカーボンで残りはステンレス製との事、乗って楽しく見て美しい贅沢なファンレーサーですな。
一転して此方は超大手「パナソニックサイクルテック」さんのネオクラシカルスポーツスタイル。
「パナの看板と中に居る人間が必ずしもイコールで結ばれる訳じゃねぇんだよ!」という、
企画・製作者の迸る想いがそこかしこに見て取れるある意味とても熱い一台。
最初の方にも少し書きましたが「ハンドメイド自転車」って言葉は変。
マスプロ製品でも一部を除けば世界の何処かで誰かが作っている訳で、そういう意味では殆どがハンドメイドですし。
なので「注文者の意見を制作に反映させる余地があるか否か」、即ちサイズ指定やダボの加減などなどが可能か否か、
そこが実質的なハンドメイドの価値であり存在意義になるのではないかと個人的に思ったりしますが、
決められた範囲内で指定可能なセミオーダーシステムを採用しているパナさんなどはその境界線上に居る感じでしょうか?
やりたい事・できる事は沢山あるのにシステム上勝手な事は出来ない、その想いを開放したらこうなった!みたいな。
話が長いですね。
長いついでに車両が長い大御所「ラバネロ」さんのタンデムレーサー。
タンデム車は既製品もあるにはあるけれど、モノが大きいために輸送費がかさみます。
その点、効率化としてのハンドメイドオーダーというのは非常に意義深し。
今年はパラリンピックもありますから、このタンデムレーサーをテレビで見かける機会があるかもしれませんね。
と、ハンドメイドバイシクル展だけにハンドメイドバイシクルがゴロゴロしている訳ですが、
個人的に気になったのがバイシクルではなく補機である「山音」さんの車両についていたチドリ。
チドリって凄く大事だと思うんですよ、自転車を素敵に仕上げる際に。
でもチドリ単品で「良いですね!」と言えるモノは勿論、そもそもの選択肢が異様に少ないので
こういったいい感じのチドリが存在してくれるというのは非常に非常に有り難い。
さてと・・・チョッと自転車見過ぎて胃もたれして来たから外に出るか。
しかし表は表で駐輪スペースに鎮座する見物者の車両は其々気合入り捲りでもう大変。
そんな綺羅星の如き車両がごった煮状態の中にあって、一際目を引いたのが此方の一台。
オーナーさんも制作者さんも全く存じ上げないので勝手に写真撮ったらダメかもしれませんが何ともいい感じなのでつい。
パッと見は30年くらい前に団地の駐輪場でよく見た様な普通の紳士車ですが、近付いて見ると・・・エラい事になってるんです。
それでいて旧いスタイルながら偽クラシカルに寄せて行っていない所が好感大。
そんなこんなで会場を離れ、乗り方の分からない電車に必死で乗ったり歩いたりして東京観光。
東京の名所と言えば格調高い泥付き自転車を世に送り出されて三十数年の「ワークショップモンキー」さん。
我々自転車店の大先輩であり行く先を示唆してくれるモンキー師の庵はいつ来ても勉強になります。
自転車屋の成功というのは大きな家に住んで高級車に乗る事ではなく、大量の物資に囲まれてプラモを作る事なんですね!
「このウツケが、物資は溜まってしまっただけ、プラモは終業後のヒーリング。」
では自転車屋の成功とは・・・?自転車屋の成功とは恐らく「続けて行ける事」でしょう。
良いと思うモノやサービスを提案して、お客様に受け入れて頂けるからこそ続けて行ける訳で。
暫く前から製作を進めておられる「B-4」は今風に言えばグラベル系になるとは言え、
実際には昔々乗っていたサイクリング車を、今日までの経験と現代の規格で纏め直したモノであり、
人様がどう評価するかは別として、少なくとも提案している側としては「良い」と思って渡せる。
それで数十年やり続けて行けるってのが成功でなくて何が成功でしょう!
(いや、本音は子供に苦労感じさせない程度には稼ぎたいんですけど・・・)
幸いにも自転車というのは車やオートバイと違って、自分の思う理想を形にし易いです。
木やカーボン、勿論アルミでも作る事が出来るってオモシロ過ぎますよ、実際。
そんなハンドメイドサイクルの基本はやはり粘土細工の様に好き放題出来る鉄でしょう。
スチールバイクなんて旧い!と言えるのはスチールをやり切った人だけ。
「もっと此処がこうなら絶対に良いはず!」という妄想を形にして乗れる喜び、それがハンドメイドサイクルなので御座います。