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九州大学 らくちんラボ

シリーズ第5回『触知バリアフリー』を開催しました

2020.01.27 07:48

2020年1月25日(土)、『触知バリアフリー』をテーマに、今年度第5回バリアフリーシンポジウムを開催しました。九州大学芸術工学研究院講師の張彦芳氏、ユニバーサルデザインコンサルタント代表の吉住寛之氏を招き、視覚障害者の情報保障にとどまらない触知の可能性に迫りました。

開催の挨拶で、本学の丸野理事・副学長(教育、入試、障害者支援推進担当理事)より、研究者だけでなく当事者の視点からバリアフリーの環境づくりに取組み、かつ、シンポジウムを通して、知に閉じない市民に開かれた場づくりに取り組むことの重要性をお話ししました。

ゲスト講師の話題提供に先んじて、本研究会の羽野特任助教より、触覚と他の五感をつなぎひとの想像力を広げる触知マップの可能性について、海外事例の話題を提供するとともに今回のテーマの趣旨を説明致しました。

芸術工学研究院講師の張彦芳氏から、デザイン思考による触知デザインの実践と題して、自身がデザインに関わった触知マップの先進事例や、木や陶板、布、金属など展示内容に沿った様々な素材でフロアの案内情報を提供する東京国立博物館の触知図の事例を解説いただきました。さらに、手で触るカレンダーのデザイン紹介から、視覚障害者への情報保障だけが目的ではない、全てのひとに楽しさを提供するユニバーサルデザインの思想を解説いただきました。

ユニバーサルデザインコンサルタント代表の吉住寛之氏からは、目を閉じ指先の触覚から情報を入手する点図を通して、視覚と触覚の感覚の違いに気付く体験の機会をつくっていただきました。話題提供として、古来からの芸術における多様な触覚の表現や、質感・実感・情感としてモノやコトの体験をデザインするハプティックデザイン(触覚のデザイン)の話題等を解説いただきました。

吉住さんの話題提供は教育の分野に広がり、盲学校の生物の授業に関する話題を紹介いただきました。動物の骨にじっくりさわり、手がとらえた感触を自分の言葉で表現することを通して、骨に向き合い、目に見えないいのちの多様性を知るこの生物の授業の紹介は、とても印象的な話題でした。

今回は、単なる情報案内インフラとしての触知マップにとどまらず、触覚が持つ本来の可能性にまで考えを及ばせる楽しい場となりました。ゲスト講師の皆様、お越し下さいました皆様、ありがとうございました。


<九州大学バリアフリーシンポジウムシリーズ>

第5回『触知バリアフリー』

日時:令和2年1月25日(土) 13:30~15:00

場所:九州大学伊都キャンパス伊都ゲストハウス 多目的ホール

後援:福岡市、糸島市

1.開催挨拶

  九州大学理事・副学長 丸野 俊一 氏

2.今回の趣旨説明および触知の現状に関する話題提供

  九州大学キャンパスライフ・健康支援センター特任助教 羽野 暁 氏

3.デザイン思考による触知デザインの実践

  九州大学芸術工学研究院講師 張 彦芳 氏 

4.触覚から触感への新地平~皮膚感覚を通じての豊かな触世界の創発~

  ユニバーサルデザインコンサルタント代表 吉住 寛之 氏 

5.クロストーク 「触知バリアフリーの展開」 

  張彦芳 氏、吉住寛之 氏、羽野暁 氏 前掲



丸野理事・副学長による開催挨拶


話題提供1:

触知の現状について(羽野さん)

ドイツのある小高い丘にある触知マップ。これがとっても先進的。川や丘など地形がやわらかく立体的にコンクリートモルタル表現され、エッジの効いた金属で作られた建物が埋め込まれています。モルタル表面のざらざらした感触と、指先に温度が伝わる金属のかたまりが、触覚を刺激します。風のゆらめきや陽のぬくもり、鳥のさえずりなどを感じながら、手から伝わる触感とともに眼前に広がる風景を感じる。すごい触知マップですね!



話題提供2:

デザイン思考による触知デザインの実践(張さん)

真ん中の写真は、東京国立博物館の触知図。これが素晴らしい。UNI DESIGNの齋藤さんがデザインされた触知マップで、木や陶板、布、金属など展示内容に沿った様々な素材でフロアの案内情報を表現しています。例えば、左上のプレート片は彫刻の衣服のひだの一部。右下のプレート片はアイヌに伝わる民族紋様を表現した布地。とても美しいですね!

下段の写真は、触知カレンダー。日にちの情報とともに、月齢が載っています。布地で月の満ち欠けが表現されています。触ってみたい!みんなが使って楽しいカレンダーです。まさにUD!



話題提供3:

触覚から触感への新地平~皮膚感覚を通じての豊かな触世界の創発~(吉住さん)

触覚の可能性をグンと広げる吉住さんのお話。上段の写真は、『貴婦人と一角獣』のタペストリー(クリュニー中世美術館)。15世紀に織られたもので、五感を表現しています。真ん中は、「書は筆蝕の芸術」と表現した石川九楊の作品。書は指でなぞる、触れるものだとおっしゃったそうです。

下段の写真は、ダ・ビンチの『最期の晩餐』のレリーフ(日本点字図書館附属ふれる博物館)。触ることで絵画をみることができます。目で見ると、キリストを中心に横長に並んだ12人の弟子たちを描いた絵ですが、実は触ってみると奥行き方向を広く表現した絵であることが分かります。目で見ると瞬時に情報を入手できますが、じっくり触ってみると、新しい発見に気付きます。見常者(けんじょうしゃ)では分からない発見。みなさん、触常者となって楽しい新しい発見をしましょう!



目を閉じ指先から伝わる印象、感情に集中する点図体験

明かりを落とし、目を閉じて触覚に集中。暗示のように聞こえてくる吉住さんのやわらかく優しい解説のお言葉。これまでにない怪しげで(?)、とても楽しい体験の時間でした。



クロストーク:点図体験を通して参加者が感じた意見


情報保障:ピア・サポーター学生によるノートテイク

表示される文字のフォントは、もちろん今回もUDフォントです



以上、次回のバリアフリーシンポジウムは、第6回『アートとバリアフリー』です。

2020年3月7日(土)開催です。

皆様、どうぞお越し下さい!