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短編 「アウトオブいぬ」

2020.01.27 14:28



 やさしげなうたが聴こえて、いまが夢かほんとかわかんなくなる

夢ならまだねてたいし、ほんとなら朝日でもあびましょうかってくらいの。


頭がぼーっとすると なにもかも秩序がなくなってこまる。今だって、まあるい地球みたいなのに、リボンと 牛の毛皮と、曼荼羅が手をつないでおどっている。きっと夢かな。

 

 そういえば今日はひさしぶりに雨で、大好きなジェラートのお店(週3で街の広場にくる)が休みで、おまけに台風のこどもがわたしの家に居候にきてたいへんだった。


台風のこどもは、おとなになるためにしばらく力を貯めていたいらしい。2年前から飼っている犬がビビって タオルケットから出てこないからこまる。


「犬ちゃん、ほら、こわくないよ

……台風のこどもは、悪さはしないから」


呼んで、ふと、あぁ 名前をつけてなかったと気づく。なるほどわたしは、いつだってもちものに名前をつけようとしない。

現に、もちものとおもっている時点でもうダメなのだ。


すでに紫いろの空はかたこたと不気味に鳴りはじめ、からかさおばけや小豆洗いなんかが空を舞い始める。カーテンをしめる。反動で近くのペットボトルが倒れる。

「ワン」

「……ほら、おいで……」

いつまでも駄々をこねるような犬をみていると、わたしまで泣きたくなってきて、名前をつけてしまうぞというきもちになる。

名前をつけると みんな死ぬからいやなのに。


「ほら……」


 と タオルケットをまくれば、もういなかった。あたりまえのように、そこは完全な無だった。

犬はいなくなった。となりの台風のこどもは、満足そうに息をついた。

まさか……と言いはじめる前に台風は消える。

もうわたしには、なにも残っていなかった。


 すこしして、

かたかたと、あずきが窓をかすめる音がきこえた。

外はあいかわらずの紫いろで、とおくで雨がダンスをする音もしていた。

 

足元にのこる、犬の首輪。

手をのばすと、一応さわれた。

ひとつくらい。と泣きべそをかくと、ちりんといつのまにか、そこにいた猫と目があった。


「名前、ほんとはきめてたの」


でも、こわくてつけられなかったの。

夫婦喧嘩は犬も食わない。わたしの犬も、そういう判断をしていたかしら


大丈夫、わかってる。

後悔もたぶんきっと、犬も食わない。