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Lê Ma 小説、批評、音楽、アート

新勅撰和歌集。撰者藤原定家。卷第十一戀歌一。原文。

2020.01.27 23:39


新勅撰和歌集

新勅撰倭謌集。底本『廿一代集第八』是大正十四年五月十三日印刷。同十六日發行。發行所太洋社。已上奧書。又國謌大觀戰前版及江戸期印本『二十一代集』等一部參照ス。



新勅撰和歌集卷第十一

 戀哥一

  題不知

  讀人しらす

ゆめにたにまたみぬひとのこひしきは空にしめゆふ心ちこそすれ

いにしへはありもやしけむ今そしるまた見ぬ人をこふるものとは

かすか山あさゐるくものおほつかなしらぬ人にもこひわたるかな

あしわかの浦にきよするしらなみのしらしな君はわれおもふとも

いはみかたうらみそふかきおきつ波よする玉もにうつもるゝ身は

なには江のこやに夜ふけてあまのたく忍ひにたにもあふよしも哉

あさな〱あまのさほさすうらふかみをよはぬこひも我はするかな

  女につかはしける

  業平朝臣

いへはえにいはねはむねにさはかれてこゝろひとつになけく比哉

  はしめて人につかはしける

  權中納言敦忠

雲井にてくもゐに見ゆるかさゝきのはしをわたるとゆめに見し哉

  返し

  よみ人しらす

ゆめなれ[らイ]は見ゆるなるらんかさゝきは此世のひとのこゆる橋かは

  下臈に侍ける時本院侍從につかはしける

  忠義公

いろにいてゝ今そしらする人しれすおもひわひつるふかきこゝろを

  中將に侍ける時おなし女につかはしける

  中納言朝忠

いはてのみおもふこゝろをしる人はありやなしやとたれにとはまし

  返し

  本院侍從

しる人や空になからんおもふなるこゝろのそこのこゝろならては

  和泉式部につかはしける

  大宰帥敦道親王

うちいてゝもありにしものをなか〱にくるしきまてもなけくけふかな

  返し

  和泉式部

けふのまのこゝろにかへておもひやれなかめつゝのみ過す月日を

  人のむすめと物語し侍けるを女の親聞つけてもろともにゐあかして侍にけるあしたにつかはしける

  藤原髙光

戀やせんわすれやしなんぬともなくねすともなくてあかしつる夜を[哉イ]

  題しらす

  道信朝臣

いつまてとわか世中もしらなくにかさねて[かねてもイ]ものをおもはすも[るイ]かな

  相摸

いかてかはあまつ空にもかすむへきこゝろのうちにはれぬおもひを

  五節の比舞姬のさし櫛をとりて返しつかはすとて

  藤原義孝

ひとしれぬこゝろひとつになけきつゝつけのをくしそさす空もなき

  五節所に侍ける女いみしう見えぬと申けるあしたひかけに付けてつかはしける

  大宰大貮髙遠

日かけさすをとめのすかた見てしよりうわのそらなるものをこそおもへ

  題しらす

  躬恒

やま陰につくるわさ田のみかくれてほにいてぬ戀に身をやつくさむ

  女につかはしける

  業平朝臣

袖ぬれてあまのかりほすわたつみの見るをあふにてやまんとやする

  返し

  よみ人しらす

岩間よりおふるみるめしつれなくはしほひ汐みちかひもありなん

  題しらす

  小町

みなといりの玉つくり江にこく舟のをとこそたてねきみをこふれと

みるめかるあまのゆきゝのみなとちになこその關もわかすへなくに

  讀人しらす

いとへとも猶すみのえのうらにほす網のめしけき戀もするかな

戀わふ[たイ]るころもの袖はしほみちてみるめかつかぬ波そ立ける

  堀河院艶書の哥を人ゝにめして女房のもとにつかはして返哥をめしける時よみ侍ける

  權大納言公實

としふれといはて朽ちぬるむもれ木のおもふこゝろはふりぬ戀哉

  返し

  康資王母

ふかゝらしみなせの河のむもれ木はしたの戀ちに年ふりぬとも

  戀十首哥讀侍けるに

  神祇伯顯仲

戀の山しけきを篠のつゆわけていりそむるよりぬるゝ袖かな

  久安百首哥奉りけるに

  待賢門院堀河

かくとたにいはぬにしけき亂れあしのいかなるふしにしらせそめまし

袖ぬるゝ山井のし水いかてかは人めもらさてかけをみるへき

  皇太后宮大夫俊成

ちらはちれいはせのもりのこからしにつたへやせましおもふことのは

なみた川そてのみわたにわきかへりゆくかたもなきものをこそおもへ

  淸輔朝臣

をのつからゆきあひのわせをかりそめに見し人ゆへやいねかてにせん

我こひをいはてしらするよしも哉もらさはなへてよにもこそちれ

  二條院御時戀の哥めしけるに

  權大納言宗家

ひとめをはつゝむとおもふをせきかねて袖にあまるはなみたなりけり

  百首哥よみ侍けるに忍戀の心を

  前大納言資賢

おもひやるかたこそなけれをさふれとつゝむ人めにあまる淚は

  家に百首哥よみ侍けるに

  後法性寺入道前關白太政大臣

くれなゐのなみたを袖にせきかねてけふそおもひの色に出ぬる

  皇嘉門院別當

おもひ河いはまによとむ水くきをかきなかすにもそてはぬれけり

  宜秋門院丹後

そてのうへの淚そいまはつらからぬ人にしらるゝはしめとおもへは

  戀哥よみ侍けるに

  皇太后宮大夫俊成

みしめひき卯月のいみをさす日よりこゝろにかゝるあふひくさかな

  刑部卿賴輔哥合し侍けるに讀てつかはしける忍戀

いかにしてしるへなくともたつねみんしのふの山のおくのかよひち

  題不知

  西行法師

あつま路やしのふのさとにやすらひて名こその關をこえそわつらふ

  正三位家隆

ひとしれすしのふの浦にやくしほのわかなはまたきたつけふりかな

  百首哥奉りける戀哥

  宜秋門院丹後

いはぬまはこゝろひとつにさはかれてけふりも波もむねにこそたて

  源師光

我こゝろいかなるいろにいてぬらんまた見ぬ人をおもひそめつゝ

  權中納言定家

まつかねをいそ邊のなみのうつたへにあらはれぬへき袖のうへ哉

  堀河院に百首哥奉りける時忍戀

  前中納言匡房

春くれはゆきのした草したにのみもえいつるこひをしる人そ[のイ]なき

  藤原仲實朝臣

あふ叓のかた野ゝをのゝしのすゝきほにいてぬ戀はくるしかりけり

  基俊

なみまよりあかしの浦にこく舩のほにはいてすもこひわたるかな

  久安百首哥奉りけるに戀の哥

  淸輔朝臣

としふれとしるしもみえぬわかこひやときはのやまのしくれ成らん

  題しらす

  大納言通具

人しれすおもひそめつとしらせはや秋のこの葉のつゆはかりたに

  寂蓮法師

くれなゐの千しほもあかすみむろ山いろにいつへきことのはもかな

  參議雅經

まさきちる山のあられの玉かつらかけしこゝろやいろにいつらん

  右衞門督爲家

おくやまのひかけの露のたまかつら人こそしらねかけてこふれと

  うへのおのこともに[にイニナシ]未見戀といへる心をつかうまつりける次[※ついて]に

  御製

やまのはをわけいつる月のはつかにも見てこそひとは人をこふなれ

  戀哥よみ侍けるに

  大納言實家

ふみそむる戀路のすゑにあるものはひとのこゝろのいは木なりけり

  正三位經家

つくは山はやましけ山たつねみん戀にまされるなけきありやと

  入道二品親王家に五十首哥よみ侍けるに寄煙戀

  入道前太政大臣

ふしのねのそらにや今はまかへましわか身にけたぬむなしけふりを

  百首哥よみ侍けるに忍戀

  前關白

わかこひのもえて空にもまかひなはふしのけふりといつれたり[かイ]けん

  關白左大臣

わか戀はなみたを袖にせきとめてまくらのほかにしる人もなし

  題しらす

  八條院六條

わかとこの枕もいかにおもふらんなみたかゝらぬ夜はしなけれは

  千五百番哥合に

  二條院讚岐

かはつなく神なひかはにさくはなのいはぬ色をも人のとへかし

  戀哥よみ侍けるに

  殷富門院大輔

うち忍ひおつるなみたのしら玉のもれこほれてもちりぬへき哉

  權大納言家良

しのひかね淚のたまのをゝたえて戀のみたれそ袖に見えゆく

  前關白家哥合に寄糸戀

  正三位家隆

たかために人のかた絲よりかけてわか玉のをのたえむとすらん

  家哥合に

  後京極攝政前太政大臣

よしの川はやきなかれをせくいはのつれなきなかに身をくたくらん

  戀哥あまたよみ侍けるに

  藤原賴氏朝臣

つれなさのためしはありとよしのかはいはとかしはをあらふしら波

  前參議經盛哥合し侍けるに

  藤原盛方朝臣

すみた河せきりにむせふ水のあは[イの入]あはれなにしにおもひそめけん

  左京大夫顯輔家哥合に

  法性寺入道前關白家參河

人しれすねをのみなけはころも河そてのしからみせかぬ日そなき

  平經正朝臣哥合し侍ける戀哥

  源有房朝臣

なみた川そてのしからみかけとめてあはぬうき名をなかさすも哉

  道因法師

つらきにもうきにもおつる淚かはいつれのかたかふちせなるらん

  題しらす

  平重時

こかれゆくおもひをけたぬなみたかはいかなる波の袖ぬらすらん

  百首哥奉りける戀哥

  如願法師

山かはの岩まのみつのうすこほりわれのみしたにむせふ比かな

  建保六年内裏哥合に戀哥

  權大納言忠信

卷向のあなしのかはのかは風になひくたまものみたれてそ思

  題しらす

  侍從具定母

なかれての名をさへしのふ思ひかはあはてもきえねせゝのうたかた

  正三位家隆

おもひ河身をはやなからみつのあはのきえてもあはむ浪のまも哉

  戀の心をよみ侍ける

  權中納言長方

おち瀧つはやせのかはも[のイ]いはふれてしはしはよとむ淚ともかな

  皇太后宮大夫俊成

よとゝもにたえすもおつる淚哉ひとはあはれもかけぬたもとに