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ボレロの初録音

2020.01.29 15:06

ラヴェル作曲「ボレロ」の世界初録音は?これは、多くの方が「ラヴェルの自作自演(コンセール・ラムルー管弦楽団/1930年ポリドール録音/)でしょ?」と答えるかもしれませんね。僕もずっとそう思って来ましたが、実はその数日前、ピエロ・コッポラ指揮、ラヴェル本人の立ち会いのもとでフランス・グラモフォンが録音しています。オーケストラの名前はクレジットがありません。

<ピエロ・コッポラ>

なぜラヴェルが立ち会ったのかというと、当時「ボレロ」はトスカニーニなどが演奏して大好評だったのですが、トスカニーニのテンポはラヴェル自身が考えていたよりかなり速かったようです。たしかに、速いテンポによるボレロは迫力がありますし、早く終ったほうが聴衆も飽きずにすみます(^^)。好きな言葉ではないですが「演奏効果」もあがるわけです。しかし、ラヴェルは恐らくもっとアンニュイなニュアンスが欲しかったのでは? そこで、ラヴェルはこの曲が初めて録音されることを聞き、現場に駆け付けて自分の意図したテンポを要求したというのが真相ではないでしょうか。では、その結果は?

 そうですね、確かにゆったりとしています。しかしSPレコードは片面約4分という制限があり、ボレロの演奏時間がだいたい14~16分ですからレコードは2枚組み(4面)となります。しかし4分おきに演奏を不自然でない場所でストップする必要があります。まさか 、各楽器のソロの途中で演奏を切るわけにはゆきません。冒頭部分からゆったりとしたテンポで始めると、1、2、3面は問題ありません。実にアンニュイです。けだるい空気が漂 い見事なパリの名手たちのソロが次々に披露されます。ラヴェル自演のラムルー管弦楽団よりソリストは一段格が上です。このフルート、僕はモイーズだと思うな~。(実はこれが言いたかった?)ラヴェルもさぞ満足だったでしょう。ところが!ボレロには最後の最後にどんでん返しがあります。あの転調の部分、ラヴェルの面目躍如の必殺技コーナーです。あそこが余計なんだよ~。レコードの4面目にすべての皺寄せが来るんです。たぶん 録音もこの面、1回目は時間オーバーでミステイクとなったのではないでしょうか?で、 どうしたかですって?だって録音終らせなきゃレコード会社の人は帰してくれない...。 そうです、この面だけ突如としてテンポが速くなる。ああ、ラヴェルのがっかりした顔が目に浮かびます。

 それでもラヴェルは録音会場のスコアに「ボレロの世界初録音。私がこれから行なう録音より2分速い」なんてサインしたそうです。よっぽど悔しかったんでしょうね~。

で、その自分の演奏は2分遅かったか....。いえいえ、そんな急に録音技術は進歩しませんよ。コッポラ=15分27秒、ラヴェル=15分20秒で、むしろ少し短かった(笑)。でも、各面のテンポはコッポラのより揃ってるんじゃないでしょうか。

このコッポラの演奏はCD復刻もあります。

PIERO COPPOLA CONDUCTS (SAINT=SAENS,RAVEL,HONEGER)

KOCH HISTRIC No.3-7702-2 H1


(1999年2月1日 室長Kirio)