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【鬼滅の刃小説】童磨恋蓮(2)

2020.02.05 04:00

コミックス19巻が発売されましたね!!!


しかし風の噂では、どうも大正コソコソ童琴話があるとやらで、わたくし動転しております…!


どんな内容?!(;゚∀゚)=3ハァハァ


早く読みたいんですが、自分の妄想とどう食い違ってしまうかもハラハラドキドキwww


自分の妄想の方向性が変わらないことを祈りたい。

いやでも原作で先生がどんな風に童磨と琴葉の物語を考えているのかも知りたいです。


ということで、前回の続きの話は原作と関係なく爆走中。



当方、現在コミックス18巻まで読了。本誌は未読の者です。


18巻までのネタバレ、そして19巻は未読なので原作と異なる表現があるやもしれません。


ご注意ください。


「…教祖様。申し訳ありませんが、わたくしでは少し、その、手に余りまして…」


そう言ったのは、よれよれと畏まって頭を下げた老婆だった。

古株の信者であり、逃げ込んできた娘たちのまとめ役をしている者なのだが、最近一層やつれている。

「おやおや、大丈夫かい?」

童磨がそう言うと、口惜しそうに「申し訳ございません」と再びごちる。

「いいさ、お前も歳をとったし、赤子の面倒を見るのも大変だろう」

「…いえ、赤子のことではないのでございますが、その…」

と口を濁す。童磨はなんとなく老婆の言わんとすることは分かってはいたが、あえて口に出さずにこう切り替えした。

「いいからいいから。とにかく二人をこちらへ連れておいで」


そう言われて下がった後、老婆が連れてきたのは、琴葉、そして琴葉の抱えている赤子だった。


「も、申し訳ございません…!」


今にも泣きそうな顔でそう言う琴葉。その琴葉をぎょろりとした瞳で一目して、老婆はその場を後にした。


「まあまあ落ち着いて」


童磨は相変わらずの柔和な笑みをたたえたまま、琴葉を奥に招き入れた。


「聞いてるよ。君も随分つらい思いをしただろう。片目が見えなくなってまだ日も経たない。いつも通り動けるようになるまで、しばらく俺のそばに付いていておくれよ」


すると琴葉は、よよよよよ、と可愛らしい顔をくしゃくしゃにして泣き始めた。

「わたし、いつもいつも愚図でおっちょこちょいで、みんなを困らせてばかりで、片目も見えなくなったから余計失敗ばかりしてしまって…」


童磨はふむふむ、といつものように聞き手に回って琴葉の言葉を聞き続けた。


琴葉はここにきて少しずつ皆と同じように仕事を任されるようになったのだが、事あるごとに失敗しているのだという。

片目が見えなくなってしまったので、以前と同じことが要領良くできないというのもあるのだが、それにしても失敗が多い。


まとめ役の老婆は見かねて仕事から外したものの、赤子の世話すら危なっかしく、周りの者が恐々としているというのだ。


聞けば、豪快にすっ転げて抱えていた赤子を投げ飛ばしたり、川で洗濯すれば赤子を流しそうになったり、包丁を持てばすっぽ抜けて、後ろの赤子の頭を打ち抜きそうになる、など。

幸い、驚異的な生命力と運で赤子は無事だったが、見ていた老婆などは泡を吹いて卒倒するほど恐ろしい場面だったようだ。


なるほど、この娘はこれが原因で追い出されたのだな、と童磨は思う。

家では何をやっても旦那や姑から「愚図、のろま」と罵られたという琴葉だが、このそそっかしさや失敗は、心にゆとりのない者には苛立ちが募ったことだろう。しかし、童磨から見れば、この娘ほど美しく、心の清い存在もいなかった。


琴葉はいつも笑っていた。

不平も言わない。愚痴も言わない。乞いもしない。


それは、童磨にとっては珍しい種類の人間だった。

童磨に会いたがる者は皆、不幸をこれでもかと背負って悲痛な顔をした者ばかり。そして、救ってほしい、と懇願する。そうでなければ、欲にまみれ、色にまみれ、自らの都合しか考えない愚かで醜い人間ばかりだった。


「ねえ琴葉。何か欲しいものはないかい?」


そう聞いたことがある。

着の身着のままで逃げ込んできた琴葉と赤子。入り用のものもあるだろうに、何も欲しがったことがなかった。すると、琴葉はにこにこと笑ってこう答えた。

「教祖様は何が欲しいですか?」


そう聞き返されてきょとんとした。

ください、と言われることこそあれ、欲しい物は何か、と聞かれたことは一度もなかった。


「…そうだなぁ。なんだろう?」


そう呟いて童磨は腕を組んで考える。

食い物はそこら中に溢れているし、お金だって沢山あるし、贅沢品も山ほどあるし、そもそも何かを欲したこともなかった自分に改めて気づく。


「…なんで俺の欲しい物を聞くんだい?」


童磨が聞き返すと、琴葉は笑って「教祖様が欲しいと思うものが欲しいなって、思ったからですよ」と言うのだった。

「そしたら、私が教祖様にそれをあげることができるから」と。


なんと愚かな娘だろうか。

暴力を振るう旦那や姑に散々痛ぶられ、赤子以外のすべてを失った天涯孤独のこの娘。やるべきことも考えるべきこともたくさんあるだろうに、毎日毎日、幸せそうに笑っている。


指切りげんまん あなたがうまれて この世に生まれて うれしいわ

世の中たくさん 幸せあふれて 嬉しくなったら ねんねして 指切った


不思議な「指切りげんまん」の歌をうたいながら、満ち足りた笑顔で赤子をあやす。


その歌声は花のように鮮やかで汚れがなく、その表情も明るく、くるくると面白いように変わった。

笑ったり、おどけたり、時には豪快に泣くこともあったけれど、今まで見てきた者たちの、行き場のない虚しい泣き方とはまるで違う。

琴葉のそのような様子に惹きつけられて、気がつくと観察するように彼女を眺めて過ごす時間が増えていった。




「…教祖様。お約束のあった在家信者の方がお待ちです」

すっと障子が開いて、下級僧侶が顔を出した。

「はいはい、どうぞどうぞ。」


童磨は毎日のように、様々な信者たちと面会した。


信者と言っても大きくニ種類存在する。一つは全財産を万世極楽教へ譲渡し、衣食住を寺院に依存しながら修行を行い、与えられた仕事に従事する出家信者。もう一つは、俗世で生業を持ちながら定期的に寺院に赴き、修行をしたり説法会に参加する在家信者。後者の中には華族や財界人もおり、極楽教の財源として重要な役割を持つ。



「…であるからして、わたくしどもの営む店に悪質な嫌がらせをするだけでなく、顧客への執拗な勧誘までしている始末…売上が落ちるのはもとより、使用人や、わたくしの家族も脅され、ほとほと困っておりまして…」


床に擦り付けるように頭を下げながら信者の男はそう言った。顔は見えなくとも、その声色は上擦り、滴るほどの汗をかいているのが分かる。


「ふーん。それで?」


童磨は変わらぬ様子で続きを促す。

「は、はい。どうかこのような事がこれ以上続かないように、その…神の、神のお導きがあらんことを…」

そこまで言って、男はびくりと体をこわばらせた。音もなく、教祖が目の前まで降りてきたことを察したからだ。

「顔をあげておくれ」

教祖にそう言われ、ゆるゆると顔をあげると、曇りなく輝く蛋白石(オパール)のような瞳が、なんの感情もない様子でただこちらを見ていた。


「震えているね。己がここへどんな願掛けにやってきているのか、自覚はあるようだ」

そう言われ、男は目に見えてガタガタと震え始めた。

「は、…はいっ。警官に相談してもまったく助けてはくれないのです。もうこれ以上妻や子供たちを危険に晒したくない…!罪深いこととは承知しております、しかし!」

「…それでも、神に願うんだね? その輩に裁きを、と」

教祖がはっきりと言葉にすると、男は再び這いつくばるように頭を下げた。

「も、申し訳ございません!」


しかし、教祖は頷いた。

「まあいいか。嘘は言っていないようだし、奥さんとお子さん、それから使用人たちも可哀相だしね。しかし、願いが叶った暁には、今以上に慈善事業に力を入れて欲しいなぁ。それが、あらゆる人々を苦しみから救済したいと願う、神の思し召しだろうから」



それから男は、下級僧侶に連れられて奥の間に入り、一晩祈りを捧げる儀に入る。

万世極楽教は、すべての生き物を生きる苦しみから救済することを教義とするが、生ある物は絶対に避けて通れない「死」が、善行により「極楽」へと導かれるか、悪行により「地獄」に突き落とされるか、神が「実際に審判を下す」ことが信じられている。


やれやれ、教祖をやるのも楽じゃない。


童磨は、すん、とため息をつきつつも笑顔のまま立ち上がった。


「これも真面目に働く信徒のため、そして教団の慈善活動を継続するため、か。なんの因果もない人間を裁く神様とやらも大変だ。でも、人に恨まれるようなことをしちゃったんだから仕方がない」



後日、評判の悪かった店の店主が、およそ人の所業とも思えない凄惨な殺され方をしていたと話題に上がった。

極楽教の信者は皆口々に「神の裁きだ」と祈りを捧げ、ある者はその裁きにおののきながら、家族らの平安が戻ってきたことに安堵した。