筒井順慶の実子に関する伝承
『黄薇古簡集』は、寛政5(1793)年、岡山藩士の斎藤清次右衛門一興が編集した同藩域内の古文書集であり、 本書に収録された文書は、同藩内の家臣・寺社・民家の所蔵する平安時代末期から江戸初頭に至る900余点を含んでいる。この中に、備州小串村塩竈大明神祠官筒井治部が所蔵していた2つの古文書が含まれている。
① 織田信長から筒井順慶宛の書状(後述1つ目の書状)
② 筒井順慶から南石鮹介宛の書状(後述2つ目の書状)
この2つの古文書に共通で出てくる人物は、「筒井順慶」と内衆の「南石鮹介」の2人であり、この「南石鮹介」は、既に当研究会のブログでもご紹介した『順慶陽舜房法印 葬送次第目録』にも、順慶の葬送行列で「三番行器」を務めて「南蛸介」と記載されているので、改めてご確認頂きたい。
この『黄薇古簡集』には、寛政5(1793)年当時の編者である岡山藩士・斎藤一興によって、順慶公と南石鮹介の妹との間に生まれたとされる順慶の実子(筒井新兵衛(幼名多郎四))に関する伝承についても付記されている。
順慶の実子に関する伝承は、この他には、『毛利家文庫』所蔵の筒井家系譜にある筒井順正に関する伝承なども有名である。これらの伝承についても、詳しく調査・研究してみたいものである。
また、既に当研究会のブログでご紹介した「伊賀マリア」は、記録の内容を組み合わせて鑑みると、順慶の実子であったと思われる。
『黄薇古簡集』の翻刻版としては、『岡山県の中世文書 -黄薇古簡集(きびこかんしゅう)-』 昭和46(1971)年8月25日初版発行(岡山県地方史研究連絡協議会)、平成28(2016)年5月10日復刻版発行(戎光祥出版)、輯録:斎藤清次右衛門一興、校訂:藤井駿・水野恭一郎・長光徳和。
「小串村塩竈大明神祠官筒井治部所蔵の織田信長が筒井順慶に宛てた黒印状」
厥后無音之処、芳簡披閲本望候、殊鍚瓶幷提如書中見来祝着候、毎々悃情不知所謝候、就中、貴慮之儀、連年無疎意事候条、弥可及相談候、近日佐和山移城候節ニ期音問、委曲南鮹助申残之通可演説候、恐々謹言、
六月七日 信長(黒印)
筒井順慶御坊
「小串村塩竈大明神祠官筒井治部所蔵の筒井順慶が南石鮹助に宛てた書状」
為御音信帷子一給候、御懇之儀祝着候、猶中音可申候、
恐々謹言、
十一月八日 筒
順慶(花押)
南石
【編者注】(※この注を書いた編者とは、岡山藩士・斎藤清次右衛門一興である。)
「右祠官筒井治部祖父を新兵衛と云、順慶ハ此新兵衛カ父なり、順慶カ妾新兵衛を懐妊して、其兄南石鮹助カ方に行て新兵衛を生り、南石ハ播磨国印南郡魚崎村ニ住居セリと云、」