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【木村秋則インタビュー】すべての畑を発酵の楽園へ。農業から変えていく環境。

2020.02.06 01:30
 全国600カ所で上映された『いただきます みそをつくるこどもたち』のオオタヴィンの監督の新作『いただきます ここは、発酵の楽園』。豊かな畑でつくられた美味しい野菜を食べている子どもたち。その豊かな畑にいたのが微生物たち。土の発酵を熟知したオーガニックファーマーのひとりとして、この映画に出演しているのが、絶対に不可能と言われた無農薬リンゴの栽培に成功した「奇跡のリンゴ」の木村秋則さん。食物をつくる土、健康を育む食の大切さを教えてくれる。

–––– どういうきっかけで農薬を使わなずにリンゴをつくるようになったのですか。

 女房がすごく農薬に弱くて。弱いっていうよりも過敏で、漆に弱い方のようにかぶれてくるんですよ。これを解消するには、農薬をやめるしかないだろう。そう思って、何の知識もなく農薬を使わないようにしたっていうだけなんですよ。それが地獄のはじまりであったわけですよ(笑)。

–––– 自然栽培でリンゴを育てるにあたって、何が一番大切だったと思いますか。

 土です。それから植物に対しての想いですね。

–––– それでは土つくりにとって、一番大事なことはなんですか。

 栄養を与えない。肥料などは与えないほうがいいです。時間はかかるんですよ。短くて4年5年はかかるんですけど、雑草が土をつくってくれます。雑草は邪魔なものなんですけど、邪魔とは思わず、いい土をつくっているんだからって考えればいいと私は思っています。

–––– 土が大切だと気づいたきっかけとはどういうものだったのですか。

 未来を諦めて自分で死のうと思った時があったんです。その時に土の匂いを嗅いだ。畑と野山では土の匂いが全然違うんですよね。鼻にツーンとくる匂い。もしも可能なら、都会の中では無理だけどよ、畑じゃなくて畦や道端の雑草を抜いて土の匂いを嗅いでみたらいい。そこには必ず土の匂いがあります。けどよ、畑にはその土の匂いがないのよ。

–––– そこから木にリンゴの実がなったのは10年かかった?

 土が変わるのに6年。それから数年かかってリンゴの実が7個なりました。5個は虫に食べられてしまったのですけど。

–––– そのリンゴを食べた時、どう感じましたか。

 ピンポン球よりも小さな2個のリンゴ。それを7人家族で分けて食べたの。リンゴを切るでしょ。したら切ったはずのリンゴがないのよ(笑)。半分がナイフにくっ付いてしまって。小さな2個のリンゴが私のスタートになったわけです。

–––– 今は何種類のリンゴをつくっていらっしゃるのですか。

 7種類です。

–––– いつくらいから土のなかにいる微生物を意識したのですか。

木村 山に行くと様々な雑草があるじゃないですか。菌にもどんな雑草がいいのかっていう好みがあると思うんです。大根の根、人参の根。菌にも好みがあって、集まっている菌の数が多いとバランスが取れていくんじゃないのかなと。

–––– 今、木村さんが持っていらっしゃる夢を教えてください。

 世界の農業を変えることです。そして異常気象を少しでもやわらげていきたいと思っています。

–––– 『いただきます』では豊かな土の大切さが描かれています。

 大人はいいんだけど、これからの日本を背負う、世界を背負う、今はまだ小さな命の人たちに病気や障害を持ってもらいたくないんですよ。自然に近いものを食べてこそ、それができるんじゃないのかなって思っております。小さな命をもっと大切にしていきたい。毎日食べる食のことを考えて欲しいし、何よりも次の世代に明るい未来があって欲しい。そう思っております。

–––– 木村さんにとってのオーガニックの意味を教えてもらえませんか。

 オーガニックちゅうのは、環境も含めたことなんですよ。今は漁業も泣いているんですよ。魚が捕れないと。漁師の人たちもすごく困っています。陸の農業が変われば、海の自然も変わる。陸の水が海まで流れていっていますから。陸と海の人たちが、ひとつになって取り組んでいったら、もっともっと幸せな世界が生まれてくるのではないか。

–––– 映画についてのコメントをいただけますか。

木村 この映画を全国各地で上映して欲しいです。小さな命がいかに大事か。コンクリートジャングルがどんどん広まっていくなかで、もっともっと野山を駆け回る子どもたちとか、泥んこにまみれる子どもたちとか。それが本当の健康じゃないかなって。身体ばかりじゃなくて、心も伴って真の健康だと思うんですよ。映画で描かれている子どもたちの姿を、日本全国だけではなく海外の方にも見てもらいたいんです。日本の文化が、映画のなかでよく描かれていると思うんです。

–––– 木村さんにとって、リンゴとはどんな存在ですか。

木村 神からのプレゼントかな。ミロのビーナスがあるでしょ。ビーナスに腕がないけれど、あの手にはリンゴを持っていたんじゃないのかなって言われているんです。本当かどうかはわからないよ(笑)。

『いただきます ここは、発酵の楽園』

プロデューサー・監督・撮影・編集:オオタヴィン 

ナレーション:小雪

エンディングテーマ:坂本美雨 with CANTUS

出演:吉田俊道、木村秋則、菊地良一、日原瑞枝(みいづ保育園)、小倉ヒラク(発酵デザイナー)、山本太郎(長崎大学)、杉山修一(弘前大学)、他

※1月24日よりUPLINK吉祥寺で公開。2月8日に寺田本家の寺田優さん、2月9日には映画にも出演している小倉ヒラクさんのトークショーも予定されている。

名演小劇場(愛知県)、佐久アムシネマ(長野県)、横浜シネマ・ジャック&ベティ(神奈川)などでも自主上映会や公開が予定されている。