Ameba Ownd

アプリで簡単、無料ホームページ作成

global-wellbeing's News

🌱 心を安定させるー②書く・記録する

2020.02.05 10:21

嫌なことがあった時、私たちは悶々(もんもん)とそのことを一人で考え続けてしまいます。何が悪かったのか、自分がどう悪かったのか、徐々に徐々に、自分をせめて追い込んでいきます。どんどんとどんどんと自分を外の世界から切り離していくこともあります。辛い時こそ、一人で反省に老けることは危険が伴うものです。


心理療法の中に、認知行動療法がありましす。これは実践的実験的に効果を証明されている(evidence-based)もので、私が受け持つカウンセリングでもよく取り扱っています。

方法や流れはここでは書きませんが、この中に最も重要な宿題として出されるのが、憂鬱な気分からの回復方法として「書く」という作業です。次回のカウンセリングまでの間、相談者がどんなことを行ったのか、どんな気分だったのか、どんなふうに感じ、それはどの程度だったのか、何を気づいたのかなど生活記録を書いていきます。内容は決して難しいものではありません。

なんでこんなことをするんだろう、役に立つのかな、そんな気力もないよ、そう思うかもしれません。でもこの作業は大きな効果が得られることを知っているから、カウンセラーは宿題としてお渡しします。


書くことによる健康へのベネフィット(Health Benefit)

ではなぜ認知行動療法では書く宿題が出るのでしょうか。

もちろん、相談者の相談内容や状態に個々違いがあり、みんな同じ宿題ではありませんから内容から得られる効果はそれぞれに違いがあります。ですが、一つだけ、どの相談者にも共通する効果があるのです。それは「書くことによる健康へのベネフィット(Health Benefit)」です。

書くことが心身の影響に良い効果を生み出すことは、実は多くの過去の研究によって証明されています。

例えば、

・免疫機能を高める:外からのダメージにあっても健康を損ないにくくなる

・健康上の問題を軽減する:症状が軽減する

・より生活への適応を促す:自分を見つめることで行動を変えやすくなる

・もし職を失っても次の雇用先が見つかるのが早い

などです。


どんなことを書くのか

研究では、辛い出来事自体を書くことも、その出来事に前向きな面を見出し書くこともどちらも同じだけの健康へのベネフィットがあることがわかっています(King and Miner 2000)。 これらは、自分自身の内面に目を向けることを手助けしてくれます。そこからどんなことに自分が優先して向き合うべきか、またどんなふうに感情を表現することが適切なのか 自分で自分に洞察力を与えてくれるからだと考えられています。

普段私たちは理性をきかせてしまうので、目の前の人が誰かによって正しいと思う反応や答えを探してしまいます。口に出したり、行動するのも、これらがベースになります。しかし、書くことは極めて個人的で、誰かに応えるものではありません。誰にも咎められず、誰にも建前を感じず、ただ書く。

このため、書くことで自分自身の言葉に驚いたり、本当の気持ちに気がついたりするのでしょうし、心の中のいらないゴミを吐き出すように少しづつ、少しづつ、心が軽くなっていくのです。


最近問題になっているSNSへの他人の行動への炎上する批判は、抱えた怒りを「誰かに向けて」「体裁を作って」書いている間違った方法です。またSNSを使って、自分を大きく見せたりするマウンティング傾向は責められるほどのことではありませんが、自分を外に向けて偽ることが加速し、自分だけでなく周囲にも不快感を与えていくことになります。書くことは、いろいろな状況や関わりが伴いますが、ここでいう幸福度を高め、治癒効果の高い書く作業とはこれらとは異なるものです。


 パーソナリティ・社会心理学者のLaura A King氏が81人の大学生に4日間連続して毎日20分づつ記録作業をしてもらい書くことの健康への利点を調べる実験を行いました。3週間後 それによる主観的な心理的健康(Subjective Psychological Wellbeing)を測りました。結果は、トラウマの出来事を書くこと、また人生の目標を書くことは主観的な心理的健康を高めることに関連することを見出しました。書くことは、怒りを鎮めてくれます。人生の幸福感を高めてくれるのです。そして病気になる機会を軽減することがわかりました。


書くことは心理的ストレスを負った時には大きな効果をもたらします。カウンセリングに来ても来なくても、書くことによる自己治癒効果は得られることができます。ぜひ試してみてください。


Laura A King ”The Health Benefits of Writing about Life Goals” Article  in Personality and Social Psychology Bulletin 27(7):798-807 · July 2001 


執筆  淵上美恵