【R18】おもちゃであそぼう
モリアーティ様へ、とだけ書かれた宅配物はそのほとんどが当主であるアルバート宛のものになる。
伯爵である彼には職務で必要になるもの以外にも大なり小なり様々な贈り物が届くのだ。
それは身分に対し媚び諂うためのものであったり、アルバート個人を射止めるためのものであったり、嫌がらせのような趣味の悪いものであったり。
いずれにしろ当の本人は一切の歯牙にもかけていない。
差出人が不明ならばそのまま破棄してしまうのだが、覚えのある紋章が印字されているとなれば話は別だ。
受け取った以上は相応の返礼をしなければならない貴族間の煩わしいやりとりがあるため、未開封のまま放置することも出来ないのだ。
今日も今日とて個人名の書かれていない宅配物が届き、その中身に危険がないことを確認するべくルイスは丁寧に包装紙を開けていった。
「…何でしょうか、これは」
分厚い包装紙は衝撃を和らげるクッションの役割を果たしているのだろう。
何層にも厳重に包まれているその物体を手に、ルイスは首を傾げて訝しげに眉を顰めた。
片手には収まりきらない長さをした、棒状で円形のそれ。
先端には妙な出っ張りが付いていてその先は丸くなっている。
つるりとした感触は何かの皮を貼り付けているらしく、薄桃色をした色と相まって妙に生々しい印象を与えていた。
しかもそれ一つだけではなく、太さと大きさの違うものが合わせて三つも一つの箱に収まっているのだ。
同封されていた小さなカードには「御家族全員でお使いください」というメッセージと、差出人代わりに印字されていた紋章と同じものが描かれている。
「…兄様にそのままお渡しして良いものなのだろうか…」
初めて見るその物体だというのにルイスは本能的に気持ちが悪いと、そう感じてしまった。
三つそれぞれを隅々まで調べてみたが、爆発したり劇薬であったりという危険物ではないことは確かだ。
これが一体何なのか、何のために使用するものなのかは分からない。
だが何となしに、これは趣味の悪い贈り物に含まれるのではないだろうかという懸念が晴れないのだ。
ルイスは一番大きなそれを手に取り、もう一度目の前にかざして本当に危険物ではないのだろうかとまじまじと見つめていた。
そこに現れたのが彼の兄だ。
「ルイス、どうしたんだい?届き物の確認に時間がかかるなんて珍し、い、ね…」
「ウィリアム兄さん」
「…ルイス、何を持っているんだい?」
それを手に持ち思い悩んでいたルイスは幸いとばかりに表情を緩め、兄であるウィリアムの顔を見た。
家族全員で使えと書いてあるが、これの所有権はあくまでもアルバートにある。
だがこれをそのまま彼に渡しても良いのかルイスの本能が警鐘を鳴らしているのだから、ウィリアムに相談してからの方が間違いはないだろう。
ルイスは手に持ったピンク色のそれをウィリアムへ見せるように持ち上げた。
そうして綺麗な緋色が驚きのあまり見開かれていることに、ルイスの方が驚いてしまった。
「兄さん?」
「それはどうしたんだい?」
「アルバート兄様宛の小包に入っていました。これと同じ形をしたサイズ違いのものが合わせて三つ。僕が調べた限り、危険性はないかと思います」
「…そう。誰から届いたのかな?」
「紋章から察するに、キーノッド伯爵家からのようです」
「あぁ、あの家か…なんとも趣味が悪いことだね」
ウィリアムはルイスの手から奪うようにそれを取り上げ、ともに入っていたカードを読んで忌々しげに握り潰してしまった。
乱暴なその様子にルイスはまたも驚くが、ウィリアムの反応から察するにやはりこれはあまり良い贈り物ではないのだろう。
己の直感は正しかったのだと、彼の手の中にあるそれをもう一度見る。
ふいに、生々しいと感じた理由が頭を過ぎったような気がした。
「…兄さん、それは一体何なのでしょうか?」
「…何だと思う?」
苛立ちを滲ませていたウィリアムだが、ルイスの言葉に気を取り直したのか、普段通り優雅に微笑む。
妖艶さすら感じられるその微笑みに思わず見惚れていると、手に持ったそれを頬に寄せられた。
何故だか気持ち悪く思うけれど、ウィリアムの意思ならばその嫌悪感も薄らいでいく。
ルイスはすぐ間近にあるそれを横目で見て少しだけ思考を巡らせるが、はっきりとした答えは出てこなかった。
「これはね、性器を象った玩具だよ」
ルイスからの返事を期待していなかったのか、ウィリアムは悩む弟の耳に唇を寄せて軽く吸い付きながら答えを教えてあげた。
唇からの刺激と耳に届いたその言葉の意味に、ルイスの肩は跳ねて思わずそれから距離を取る。
取った先がウィリアムの腕の中だったのは、最も安全な場所がそこだと本能的にルイスが認識しているからなのだろう。
ジャケットに皺が寄らない程度にウィリアムの衣服を握りしめ、ルイスは驚愕よりも嫌悪を滲ませた瞳でウィリアムが持つ玩具に目をやった。
「お、おもちゃ…」
「そうだよ。ノーキッド家の人間がそういう目で僕達を見ているとは思わなかったけど、随分と直接的で悪趣味な性分をお持ちのようだ」
「そ、そう、ですね…」
気持ちが悪い、と感じたルイスの直感は正しくその通りだった。
ルイスが知り得る性関連の知識は全てウィリアムとアルバートから仕込まれている。
それはルイスにとって必要になるだろう知識に限局されていて、実際のセックスに関しても基本的にルイスは文字通り二人に猫可愛がりされているだけだ。
セックスにおいて否定的な印象を持つことのないよう、ひたすらに甘やかされて気持ち良くさせてもらうための知識と技術しかルイスは持ち得ていない。
そうあるようにウィリアムがコントロールしてきたのだから、教えていない知識を彼が持つことはないのだ。
ルイスとしてもウィリアムが教えない知識は自分に必要なものではないのだろうと、自ら見聞を広めるような人間でもない。
だからルイスが持つ知識の全てはウィリアム由来のもので、そのウィリアムが教えていないのだから男の性器を象った玩具を知らないのも当然のことだった。
「何故こんなものを我が家に送りつけてきたんでしょうか…」
ノーキッド家へのはっきりとした嫌悪を滲ませ、ルイスはそれを睨みつける。
その表情すらもウィリアムにとっては魅力そのものだ。
淫らに乱れてくれるルイスをこの上なく愛しているが、変わらず彼は無垢なままでいつになってもウィリアムを惹きつけてやまない。
だからこそ透明感あるその横顔が見つめるものを見た瞬間、ウィリアムからは血の気が一気に引いていった。
大事に囲ってきた可愛い弟が卑猥なものを持って佇む姿を見る日が来るなど、さしものウィリアムでさえ予想すらしていなかったのだ。
けれども何を持っているのか分かっていないその表情はとても幼く、言い知れない危うさを秘めていたのも事実だった。
ぞくりとした欲が己の中に芽生えたのを自覚したウィリアムは、ルイスの肩を抱いてそのまま部屋を出るため足を翻す。
手には送りつけられた玩具を持ったままだ。
「に、兄さん。早くそれを捨てた方が良いのでは?」
「そうだね、アルバート兄さんに一度相談してからでも遅くはないよ」
「兄様にこんなものを見せるのですか!?」
「彼宛なんだから当然だろう?」
「で、ですが…」
いざ性器を象っていると理解してしまえば、ウィリアムの手の中にあるそれは確かにそうとしか見えない。
そんなものを持つウィリアムの姿は彼の美貌も相まって倒錯的だが、正直に言ってしまえばルイスとしては不満しかなかった。
まるで兄が穢されているような気さえして、早く捨てるべきだと主張してものらりくらりと躱されてしまう。
先程の苛立ちはどこに行ったのか、今のウィリアムはそれこそ面白いおもちゃを手に入れたような愉しげな雰囲気を滲ませている。
ウィリアムの意図がよく分からず、ルイスはそれから目を逸らしたまま足を進めていった。
「なるほど…これは相応の返礼を考えなければならないな」
「えぇ。あの家はあまり良い噂も聞きませんし、これを機にしっかりと調査を進めるのも良いでしょう」
「そうするとしようか」
「…」
アルバートの私室に備え付けられたソファに座り、ルイスの兄は二人とも真剣かつ怒りを抱えた様子で会話をしている。
個人掛けのソファに腰掛けているアルバートの手にはウィリアムから手渡された生々しいそれがあった。
手遊びするように長い指でなぞる様子は実に艶かしく、けれども拭いきれない嫌悪感がルイスを襲う。
高貴なアルバートには相応しくないだろうに、どこか絵になるような不思議な魅力すら感じられることが嫌だった。
淫猥な雰囲気はアルバートには相応しくないしウィリアムにも相応しくない。
出来るならば塵一つ残さず燃やしてしまいたい。
ルイスは兄達の会話に混ざることはせず、忌々しげにアルバートの手元を睨みつけていた。
どういった意図でそれを使うのか、説明されなくとも分かってしまう。
男性器を象っているというのなら、要は慰みものの役割を果たすのだろう。
アルバートとウィリアムをそんな目で見るような人間がこの世にいることすらルイスには受け入れがたいというのに、直接的にこんなものを寄越してくるだなんて相当な悪趣味と言っていい。
自分も対象になっているのだということは頭から抜け落ちたまま、ルイスは然るべき返礼の際には率先して始末を申し出ようと拳を握りしめた。
「それで、どうする?」
「せっかくなので使ってみるのも面白いかと」
「なるほど…まぁこれきりだと思えば経験しておくのも悪くないか」
「…?」
アルバートは手元の玩具を弄んだまま、ウィリアムの提案に同意する。
どう後始末をつけてやろうかと思案を巡らせていたルイスは二人の間の会話に付いていけていなかったが、ふと自分にとってあまり良くないことが起きるのではないかと直感的に悟ってしまった。
俯いていた顔を上げてまずは隣に座っているウィリアムの顔を見ると、恭しく眼鏡を外される。
そのまま近付いてきたその顔に抵抗することなく瞳を閉じれば、睫毛に唇を落とされる気配がした。
触れるか触れないか、くすぐったいような淡い触れ合いは荒んでいたルイスの心を癒してくれる。
長い睫毛を存分に堪能したウィリアムは薄く染まった頬にもキスをして、昔からずっと細身の体を抱きしめた。
「ん、に…兄さん?」
反射的に抱きしめ返してからウィリアムを見ればあまりにも美しく、かつ妖艶に微笑む彼と目が合った。
全てを見透かすような綺麗な緋色を見つめていると、気付いたときには反発力のあるソファに倒されてしまう。
大きく幅のあるソファはルイスが寝そべって尚、かなりの余裕がある。
天井のランプを背景にしたウィリアムを見上げているとすぐ近くにアルバートも来ていたようで、ルイスは二人に見下ろされた状態で大きな瞳を見開いた。
この状況だけならばさほど驚くこともないが、先程聞こえてきた不穏な会話が頭を離れない。
無意識に怯えた表情を浮かべるルイスを安心させるようにウィリアムは何度も何度もその頬にキスをして、アルバートは柔らかく舞っていた髪の毛を整えるように優しく手櫛で撫でていく。
「ルイス、試しに使ってみようか」
「つ、かう?…使うとは、」
「この玩具を、だよ」
アルバートは手に持っていたその玩具に唇を寄せ、それをそのままルイスの唇に寄せていく。
皮を貼り付けたそれは触れるとどこかひんやりしていて、触れたままでいると段々と熱が移っていく。
戸惑ったようにつるりとした感触のそれに唇を寄せるルイスを見て、ウィリアムは僅かばかりの苛立ちを、アルバートはほんの少しの嫌悪を、そして二人はそれ以上の快感を覚えた。
無垢で可愛い弟が性的な玩具を携えているという状況が何とも言えず心を刺激する。
言うなれば、無垢でありながら性を感じさせるそのアンバランスさが魅力なのだ。
大きな瞳で二人を見上げるルイスは両手をそれぞれの肩に添えていく。
「ど、どうやって…」
「ふふ、分かっているだろう?」
「ふっ、んん、ぅん」
「ルイス、腰を上げて」
恐る恐る尋ねる様子が可愛らしくて、ウィリアムは添えられている玩具を唇で端に寄せてから、現れ出た形の良い唇にキスをした。
薄くも弾力のある唇は甘い。
すぐに隙間から舌を潜り込ませ、互いの舌を絡ませあえば吐息混じりの甘ったるい声が漏れてくる。
ちゅ、ちゅく、ちゅう、と静かな空間でも響く水音はとても厭らしく、その分だけ気持ちが高揚していくのが分かる。
気持ちの良いキスを交わして親密な様子を感じさせる弟達の戯れを見て、アルバートの快感も徐々に増していった。
可愛い弟達の濃厚なキスは見ているだけで唆られる。
思わず漏れ出た吐息を隠さず、アルバートは腰を上げさせたルイスから下着含めて下半身の衣服全てを剥ぎ取った。
ふるん、と揺れる性器は形が良く見目が良い。
ウィリアムとのキスで感じていたのか少しだけ上向いているそれを愛おしげに眺めてから、アルバートはキスに夢中になっている弟達を横目につつくように触れていった。
「んっ、ふ…ぁ、んん、ぅ」
「ん…ぁ、んむ」
「ウィル、先にイかせてあげて構わないかい?」
アルバートは温かく熱を持つルイスの性器を優しく握りしめ、直後に震えたルイスの腰には二人ともの兄が気付く。
その反応にそっと心で笑ってからアルバートは指を動かし、もどかしげに動く白い太腿を外へ開かせるように固定しては赤い跡を残すために軽く吸い付いた。
兄の愛撫を堪えようにも堪えきれずに快感を表に出すルイスへ口付け、その反応を間近で楽しむウィリアムはアルバートの提案に同意を返すため視線だけで合図をする。
それだけで十分伝わったらしく、アルバートはウィリアムにキスをされているままのルイスの耳元へ息を吹きかけた。
「…ルイス、この部屋には潤滑油を置いていない。君の精液を使わせてもらうよ」
「ん、ぁ…む、ぅんっ…」
ピクリと肩が震えて、閉じていた瞳を開けてアルバートの顔を見ようとルイスが視線を横に向ける。
合った視線の先ではとてもこれからセックスをするとは思えないほど高潔な顔をしたアルバートがいた。
だがそんな彼の手には己の性器が握られていて、その言葉の意味も厭らしいことこの上ないのだ。
そんなギャップにルイスは心を乱され、胸の奥がぞくぞくと疼いてしまう。
滲んでくる精液からルイスの心境はアルバートに知れていて、白い体液をもっと滲ませるように先端を親指でぐりりと刺激してあげれば、肩を掴んでいたルイスの腕に力が入る。
キスだけで十分感じられるほど敏感なルイスなのだから、同時に手淫されてしまえば我慢できないほどの快感に満たされるはずだ。
ウィリアムは可愛らしく鳴くその声を聞こうと、絡めていた舌を引き寄せて己の歯で優しく噛みついた。
そうして元の場所へと送り出し、溢れた唾液は全てルイスの口腔内へと流していく。
こくりと飲み込んだのを確認してから名残惜しげに唇を離し、荒く呼吸をしているルイスを堪能するべく見下ろした。
火照った頬で隠しきれない快感を滲ませ、とろりと潤む赤い瞳は何度見ても心揺さぶられる。
「んっ、あ、あっ…ゃ、に、ぃさま、ん、んん」
アルバートからの愛撫に悶えながら、ルイスは自分を押し倒しているウィリアムの首を抱き寄せては縋り付く。
ウィリアムも抵抗なくそのまま抱き寄せられ、耳元に添えられた唇からの声を聞く。
兄様、にいさま、とアルバートを想い快感を露わに乱れるルイスはとても可愛らしく、愛おしくて仕方がない。
安心したように自分へと縋り付き、アルバートの愛撫に全身で感じ入っているルイスはウィリアムにとって最も尊ぶべき弟だ。
いつでも彼にとっての安心を与えられる存在でありたいとウィリアムは願っている。
「ルイス、そろそろイかせてあげようか?」
「ん、ん…ぁ、あぅ」
「ルイス、アルバート兄さんがイかせてくれるって。どうする?」
「…ん〜…ぅ、あ…」
アルバートは先端から下全ての部分を優しく撫でては擦りあげ、時折揉み込むように快感だけを与える愛撫を施してあげれば、じわじわと精液が滲んでは指を伝いこぼれていく。
手を加えれば加えた分だけ素直に反応するルイスの体に思うがまま触れることは、確かにアルバートの欲を満たしてくれるのだ。
蕩けた表情でウィリアムに縋り付いておきながら、その隣で自分を見下ろすアルバートを見て、ルイスは懇願するように瞳を潤ませる。
滴を垂らしながらしっかりと勃ちあがって硬くなる性器はそろそろ限界だろう。
「ん…イきたい、です…にいさま…」
ウィリアムと散々キスを交わしていたおかげで普段よりもふっくらと血色の良い唇を、アルバートは食べてしまうように己の唇で覆っていった。
そうしてしばらくウィリアムの背中越しにキスを交わしてから了解の意を込め、細い金髪がかかる額にもう一度キスをしてあげる。
嬉しそうに口元を緩ませるルイスを見ながら、アルバートは触れていた性器に一際強い刺激を与えた。
次の瞬間にはドクンと手の中で跳ねる性器を感じ、溢れ出た精液はこぼさないよう長い指で全てを受け止める。
とろんとしていた瞳は達する快感で閉じられてしまい、その代わりに何とも魅力的で性感を突く甲高い声が聞こえてきた。
思わず聞き入ってしまうほど愛おしい声はアルバートだけでなく、ウィリアムの快感をも引き出している。
ウィリアムは達したばかりで震えているルイスの体をもう一度強く抱きしめて、アルバートはその背中越しにぼんやりとした表情を浮かべるルイスの髪を優しく撫でた。
「ルイス、足を開けるかい?」
「ん…はぃ…」
アルバートの指示通り、ルイスはちゃんと足を開く。
性器に触れていた指をそのまま奥に持っていき、まだ固く閉じているその蕾にルイスが吐き出した欲望を塗りたくるように指を動かしていった。
ルイスに少しの痛みすら与えないよう、アルバートは至極丁寧に優しくその体を拓いていく。
あまり量のないルイスの精液を無駄にしないよう、じっくりと時間をかけて彼の体内へ馴染ませるように指を挿入していけば、拒むことなく心地よく受け入れてくれた。
「ルイス、兄さんがほぐしてくれている間に僕達も準備しようか」
「…準備?なにを…」
「このままだと痛いだろうからね」
「ん、ぁ」
内側に入ってくるアルバートの指に幸福を感じていると、ウィリアムは側に落ちていたあの玩具を手に取り微笑んでいた。
その笑みは少しばかり見覚えのないそれで、ルイスには感じていた幸福が戸惑いに覆われていくような気さえする。
彼はピンク色の玩具を赤い舌で舐め上げ、その舌でルイスの唇を舐めてなぞっていった。
男性器を象っているそれに舌を這わせるその画はとても官能的で、ルイスは思わず目を奪われてしまう。
自分に見惚れるルイスに気付かないわけもないウィリアムは、そのまま玩具をルイスの唇に寄せていった。
「舐められるかい?」
「ぅ…ん、む」
提案ではなくまるで命令のようにその声は響いてきて、ルイスは感じた疑問を気にも留めずに言われるがまま、卑猥な玩具へと舌を這わせていく。
何の味もせず、何の温かみもなく、何の快感すらも見出せない。
けれどもウィリアムを見つめたまま丁寧に舐めていると彼が褒めるように髪を撫でてくれるから、ルイスはただひたすらに舌を動かした。
これがウィリアムかアルバートの性器ならば、きっとルイスは夢中になって懸命に口淫するのだろう。
だが今ルイスが舌を這わせているのはただの無機物、口に含んでいても何の感情も湧いてこない。
早く終われば良いのにと願いながらルイスはウィリアムを見つめ、アルバートからの愛撫を受け入れていた。
「ウィル、そろそろ良さそうだ」
「そうですか。こちらも十分潤いました」
「ぁ、んん」
ルイスの内側をほぐしていた秘部にはアルバートの指が数本入り、十分すぎるほどに柔らかくなった。
挿入すればさぞ気持ちが良いだろう彼の中は、今だけはウィリアムでもアルバートでもないものを挿入される。
そのことをルイスはちゃんと把握していない。
把握する前に事に及んだのだから、ルイスはされるがまま言われるがまま今に至るのだ。
ウィリアムはルイスに覆い被さっていた体を起こし、アルバートとともにソファに寝そべるルイスを見下ろした。
「兄さん…?兄様…?」
自分を見下ろす兄をぼんやりと見て、ルイスは足を開いて誘うように腕を伸ばした。
求められるまま挿入したい気持ちを抑え、趣味の悪い玩具を手にしたウィリアムはルイスの秘部に指を這わせる。
そしてその穴をそのまま左右に広げ、ゆっくりとピンク色の玩具を挿入していった。
ウィリアムのものよりアルバートのものより細身のそれは、つかえることなくすんなりとルイスの中に収まっていく。
その様子をじっと見ていた二人は先程まで熱を持っていたはずの心に冷めた気持ちが浸透していくのを実感する。
気分が悪い。
だがそれを理解するよりもまず、ルイスからの抵抗があった。
「んっ、やっ…!?な、な、なんで…ゃ、いや、いやですっ」
ルイスはもがくように足を動かし、誘うように伸びていた腕は兄の肩を押し返すように突っぱねた。
先程まで快感に蕩けていたはずの顔は恐怖一色で、染まっていた頬は瞬時に青褪めてしまっている。
「ゃ、やだ、抜いて…ぅ、にぃさんっ…にいさまぁ…いや、いやです、ぅう〜…」
挿入しただけ、特に動かすこともない卑猥な玩具は確かにルイスの内側に入ってしまっていて、それはウィリアムでもアルバートでもない。
ただの玩具にすぎないのだ。
それを理解しているルイスはあまりの恐怖に思わず瞳を閉じて唸るように声を出した。
「ゃだ…兄さんと兄様以外じゃ、やだ…ぁ…ぅ、ふぅ、んん」
気持ちの良いキスをされて、気持ち良く射精させてくれて、いつものように丁寧に後ろを準備してくれて、それなのに挿入されたのはひんやりした無機物なのだ。
気持ち悪くて仕方がないし、快感なんて一切感じられない。
ただただ伝わる違和感がルイスの心を蝕んでいく。
基本的にルイスは感じやすくあるようウィリアムに教え込まれている。
性感の中心でもある性器自身はもちろん、長い期間をかけて体の内側でも感じられるようにされてきた。
挿入されただけでも気持ち良くなれる体をしていると、ルイス本人もそう自覚がある。
それなのに今は少しも気持ちが良くない。
射精したばかりでもいつもなら挿入されればすぐに反応するのに、今のルイス自身は萎えて震えているだけなのだ。
挿入されているこれはウィリアムでもアルバートでもないのだと知ってしまっているし、内側から伝わる感覚が二人ではないのだと如実に知らせてくる。
気持ちが悪くて仕方なくて、訳の分からないものに内部を犯されている感覚が怖い。
閉じた瞼からはじわりと涙が滲んできた。
「…ごめんっ、ルイス」
「すまなかった!」
その涙を見た瞬間、ウィリアムとアルバートはただの興味本位と苛立ちの解消というだけで酷いことをしてしまったのだとようやく理解した。
挿入していた玩具はすぐに抜き、恐怖で震えているルイスの体を左右から二人同時に抱きしめる。
達したばかりだからというだけではない理由でルイスの性器は萎えているし、汗ばんでいるはずなのに少しも熱を感じられないことに申し訳なさが襲っていく。
「ぅ、うぅ…う〜…」
「ごめん、ごめんねルイス…少し苛立っていて、つい興味本位で君に酷いことをしてしまった」
「すまない…一度くらい経験だと思ってしまった私も悪かった」
「に、兄さん…兄様…」
挿れられていた異物を抜かれ、ルイスはようやく強張っていた体を楽にする。
抱きしめてくれる体が温かくて、思いの外冷えていた自分の体温を思い知らされた。
閉じていた瞳を開ければつらそうに表情を歪ませるウィリアムとアルバートがいて、その顔を見てもう大丈夫なのだと、ルイスはそう判断する。
もう一度、今度は甘えるように腕を伸ばして二人の背中を抱きしめた。
「ウィリアム兄さん…アルバート兄様…」
すり、と頭を擦り付けてくる様子がたまらなく可愛らしい。
必死に甘えて恐怖を取り除こうとする弟を強く抱きしめて、ウィリアムとアルバートは己の失態を後悔していた。
顔も思い出せないような貴族すらも魅了するルイスが誇らしくも胸を騒がせており、少しばかりその苛立ちを解消したくなったのは事実だ。
アルバートとしても一度くらい良いかと、自分でもウィリアムでもないものに貫かれて身悶えるルイスを見てみたいと興味が湧いてしまった。
だが実際に自分達以外がルイスの中に挿入されている状況を目にしたときに感じたのは、ただただ冷たいものでしかない。
自分でも心を許した兄弟でもない存在に愛しい弟が犯されているという状況に、二人が得るものは何もなかった。
いつだって彼にとっての安心できる場所でありたかったのに、それとは真逆の酷いことをしてしまったのだ。
ウィリアムは浅はかだった己の考えを恥じて、抑えきれない愛おしさをその腕に乗せながらルイスの体を強く強く抱きしめる。
そうしてやっと安心したように微笑むルイスを見て、謝罪ととびきりの愛を込めたキスをその唇に落としていく。
アルバートもウィリアムに続き、うっすらと充血してしまった赤い瞳を労るように何度も何度もキスをした。
「ルイス、今度は僕が挿れてもいいかな?」
「…はい、兄さん」
その次は私で構わないかな、というアルバートにもルイスは笑みを返し、ようやく偽物ではない兄に抱いてもらえるのだと嬉しそうに瞳を緩ませた。
今後、もう二度と玩具を使用することはない。
ルイスを満足させられるのはウィリアムとアルバートだけで、彼等でしかルイスは満足に快感を得ることが出来ないのだ。
勿論その二人の兄も自分達以外に翻弄されるルイスなど、もう二度と目にしたくないと思う。
三兄弟それぞれ心に教訓を刻み込み、悪い記憶を塗り替えるように濃密で甘美な夜を過ごしていった。
(兄さん、ノーキッド家は売春婦の斡旋及び男にも同様の行為をさせて資金を得ているようです)
(あぁ。貴族にも利用者が多数いるから当家も興味があるだろうとあんなものを送りつけてきたようだな)
(全く傍迷惑なことですね…)
(それで、どうする?)
(私情は入りますが、攫われた人間のことを考えれば当然裁かれるべき存在です。僕自ら向かいましょう)
(私も付き合うとしよう。プランは任せたぞ、ウィル)
(任せてください。あのときの苛立ちと後悔、全てぶつけてしまいしょう)