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日本ブドウ・ワイン学会(ASEV JAPAN)2019 山梨大会参加報告

2020.02.07 17:01

大変報告が遅くなってしまいましたが、日本ブドウ・ワイン学会(ASEV JAPAN)※12019 甲府大会に参加しましたのでレポートします。

会期は2019年 11月29日(金曜)-30日(土曜)、会場は山梨大学甲府キャンパスにて行われました。大学、研究所の研究者、行政機関の担当者、ワイナリーの醸造担当者が参加者の大半でした。二日間の日程ですが活発な議論が行われて日本のブドウ・ワイン研究の最先端、熱気を感じました。さて、今回愛好家目線で特に気になった発表を紹介します。

山梨県における圃場の標高が‘シャルドネ’および‘メルロー’の生育 および果実成分に及ぼす影響  井上絵梨(山梨大学 ワイン科学研究センター)

山梨県内には甲府盆地を中心に250mから750m付近に多くの圃場が分布している。標高の高低によるシャルドネ、メルローの果実成分の含有量などへの影響をみた研究。

結果は標高が高くなるにつれて開花、ヴェレーゾンが遅くなる傾向がみられたこと、収穫日は標高が高い圃場では遅い時期になったこと(標高によって最大で6週間の差)、pHは標高との負の相関(標高が上がるほどpHが下がる)がみられたこと、リンゴ酸は標高との相関がみられたこと(特にシャルドネ)、メルローのアントシアニン量は標高と正の相関がみられたことがわかった。

(私見)温暖化の影響により、ブドウ畑の北上化、また長野県を始めブドウ畑の高地化を耳にします。山梨県でも標高によるブドウの質の差が報告されたことにより、今後の圃場の高地化の必要性が予見されます。

オークチップを使用した甲州ワインの成分変化およびワイン特性 小松正和 (山梨県産業技術センター)

2018年4月の酒税法の改正により日本でもオークチップの使用が可能になり、甲州ワインへのオークチップの添加についての研究報告。アメリカ、オーストラリアでは90年代から使用可能、EUでは2006年から使用できる。

方法は甲州に14℃37日間、それぞれ9種類のオークチップを浸漬した。オークチップはトーストの程度によって溶出される成分が異なった。トーストが強いチップほどバニリン酸、バニリン、シリンガアルデヒドの濃度が高く、逆にウイスキーラクトンオークラクトンとも言うが報告のママ)は低かった。トーストが軽度だとウイスキーラクトン量は保たれる傾向が示された。今回の研究では軽いトーストのオークチップを利用した方が現行の樽使用ワインの香気成分組成に近いことが示された。

(私見)フレンチオークはフェノール系成分が多く、アメリカンオークはバニリンが多いと言われています。甲州は酒質が柔らかい品種であるため、官能的にどのようなオークチップであれば甲州と良いバランスをもたらすのか今後の研究が期待されます。

栽培様式の違いがシラーの樹勢および果実品質に与える影響(第1報)佐々木文平(メルシャン(株 シャトー・メルシャン)

日本においても生産量が増えてきたシラーについての研究。シャトー・メルシャン椀子ヴィンヤードでは2004年より栽培を始めている。栽培の中でギュイヨ・シングル仕立てでは着花の難しさ、花ふるいのリスクがあり、新たな仕立て法としてコルドン仕立てとの比較を行った。

結果として満開期から収穫期にかけての生育はほぼ同等でったが、ギュイヨでは新梢成長にばらつきがあったのに対しコルドンではばらつきが少なく、着房率、平均房重、収穫量、総アントシアニン量共にコルドンの方が多く差がみられた。

※コルドン式とギュイヨ式の比較において、一般的にはギュイヨ式の方が収穫量が少なく、その分濃縮した果汁が獲れるとされ高級ワイン向きとされています。

(私見)フランス ローヌ地方ではシラーの仕立てはギュイヨであるそうですが、日本ではコルドンの方が好ましい成果が出た興味深い研究。新たなチャレンジが見出した日本ならではの知見だと感じました。

醸しの視点で見た系統が異なる甲州ブドウ・ワインの特徴 清道大輝(キリンホールディングス(株)

甲州はSur lie製法、3MHなどチオール系化合物を生み出す製法が活用されているが、最近ではグリブドウである甲州がもつ芳醇なフェノール成分を十分に生かすことを目的とした醸しスタイルの甲州が造られている。

本研究では昨年本学会で報告された山梨果樹試験場からの優良選抜された甲州3種を21日間醸し発酵させ、その結果を見た。特にタンニンの中心的な味わいになるプロアントシアニジンを測定した。

KW01はプロアントシアニジンが少なく軽やかなスタイル(樹の生育や果実品質は平均的だが柑橘系の香り、生き生きとしたフレッシュな味わいが特徴的)

KW02:中程度のプロアントシアニジンを含み上品なスタイル(収量が多く樹の生育が旺盛な高収量)、

KW05:赤色が強くプロアントシアニジンが豊富でリッチなスタイル(糖度が高く熟期が早く、力強く凝縮感がある)

どの系統の甲州もマセレーションを行うとプロアントシアニジンは減少した。しかしKW01に比べ、KW02、KW05は高い濃度を保ち、特にKW05は醸し期間を通じてアントシアニンの濃度も高く醸し醸造に向いていることが考えられる。

(私見)醸し甲州は多くの生産者が取り組んでいる甲州の新しいスタイルです。今回の選抜3系統は2018年の本学会で発表されましたので、どのような味わいの甲州が造られるのか本当に楽しみです。

(学会参加に関して)

日本ブドウ・ワイン学会は一般の方に関して「ブドウまたはワイン産業に関係した技術者あるいは研究者、並びにこれらに関心が高い者。」と規定して門戸を開いています。学会会員の入会に関しては以下のページに定めています。年会費4,000円です。

http://www.asevjpn.wine.yamanashi.ac.jp/index.html

次回の大会は2020年12月5日-6日に、愛知県名古屋市の名城大学で行われます。

さて、大会への参加についてですが、研究を行っていない愛好家は、「研究の議論の妨げはしない、あくまで聴講することに徹する」ことをスタンスとした方が良いと思われます。プログラムを終了後は多くの研究者、醸造家と交流するのは大変良い機会でしょう。愛好家の意見を好意的に受け止めてくれます。懇親会等で多くの研究者や醸造家の方々と交流できたのは私にとっては素晴らしい機会でした。私は来年も参加したいと考えています。

※1日本ブドウ・ワイン学会は、アメリカ合衆国デイビス市に本部のあるAmerican Society for Enology and Viticulture(ASEV、アメリカブドウ・ワイン学会)の日本支部として1984年に設立されました。活動の目的は、ブドウ及びワインに関する研究を奨励し,活気づけ,後援すること。日本におけるブドウ及びワインに関する学術研究発表、セミナー及び学会誌発行等を積極的に推進すること。ブドウ栽培学及びワイン醸造学の教育を促進させ、また情報の収集及び共有を図ることと定義しています。

山梨大学のキャンパス。甲府駅から徒歩10分強なので便利です。

特別講演のJ.Lohr VineyardsのKristen Barnhiseさんによるシャルドネについての講義。

初日の懇親会。

協賛企業のワインを頂きます。

二日目のポスター会場。中盤くらいからワインを飲みながらになるのが楽しいところです(笑)