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ダンス評.com

横浜ダンスコレクション2020「コンペティションI」ファイナリスト全作品の鑑賞リポートと受賞結果

2020.02.10 13:49

今年で25年目を迎えた、コンテンポラリーダンスのフェスティバル「横浜ダンスコレクション」。


横浜ダンスコレクションの「コンペティションI」「コンペティションII」の概要

2020年の「コンペティションI」では、38カ国187組の応募から、映像・書類審査により選ばれた5カ国10組のファイナリストが、作品上演により最終審査に臨んだ。

上演は、2020年2月8日(土)15:00~17:15ごろ、2月9日(土)15:00~17:15ごろの2日間、5組ずつ、横浜赤レンガ倉庫1号館3Fホールで行われた(各日、休憩15分を含む上演時間)。

なお、「コンペティションI」の応募資格は、「1. 振付家として公演実績があること(応募者の単独公演でなくても可)」「2. 『横浜ダンスコレクション』において受賞歴がないこと」。

表彰式は、2月9日(日)18:20ごろ~19:15ごろ開催。同時に、「コンペティションII(新人振付家部門)」の表彰も行われた。

「コンペティションII」は、25歳以下の新人アーティスト39名から、映像・書類審査により選ばれたファイナリスト11名による作品上演が、2月6日(木)19:00~、2月7日(金)19:00~の両日、横浜にぎわい座 のげシャーレで行われていた。



「コンペティションI」受賞結果

・審査員賞/Jury Prize:横山彰乃(『水溶媒音』)

※翌年以降における「横浜ダンスコレクション」での上演および賞金40万円


・奨励賞:ラウル・エル・ラキティコ・ジュニア(『Transacting Comfort』)/Von・noズ(『不在をうめる』)


・ポロサス寄付基金賞(Camping):横山彰乃(『水溶媒音』)

※Camping(ダンスのワークショップなどのイベント)への参加の権利


・若手振付家のための在日フランス大使館賞/French Embassy Prize for Young Choreographer:敷地 理(『happy ice-cream』)

※フランスでの約3か月間のレジデンスプログラム


・MASDANZA賞/MASDANZA Prize:リン・チュンウユ(『A Pillow Song』)

※インターナショナル・コンテンポラリーダンス・フェスティバルMASDANZA(スペイン)への出場の権利


・シビウ国際演劇祭賞/FITS Prize:ソン・ユンジュ(『Pillar of Mind』)

※2021年ル0マニアで開催する第28回シビウ国際演劇祭での作品上演


<「コンペティションI」審査員(五十音順)>

岡見さえ(舞踊評論家)

北村明子(振付家、ダンサー、信州大学人文学部 准教授)

近藤良平(コンドルズ主宰・振付家・ダンサー)

多田淳之介(東京デスロック主宰)

浜野文雄(新書館「ダンスマガジン」編集委員)

サンソン・シルヴァン(在日フランス大使館文化担当官)

グザヴィエ・ぺルソン(アンスティチュ・フランセ横浜 館長)

エマール・クロニエ(フランス国立ダンスセンター 副ディレクター)

※その他、海外のフェスティバル等から提供される各賞の審査員は、各国のダンス専門家が務めた。


「コンペティションII」受賞結果

・最優秀新人賞:橋本ロマンス(『サイクロン・クロニクル』)

・奨励賞:山下恵実(『互いに交わることのない、いくつかの』)

・ベストダンサー賞:ヤマグチ リオ(『Little love』)/NISHIMURA KAIYA

(『NO ONE KNOWS ME』)


<「コンペティションII」審査員>

伊藤千枝子 (振付家・演出家・ダンサー)

加藤弓奈(急な坂スタジオ ディレクター)

ヴィヴィアン佐藤 (美術家)

浜野文雄 (新書館「ダンスマガジン」編集委員)


▼2019年9月、「ダンサロンvol. 7」で上演された、橋本ロマンス氏の作品「イヴ」について


「コンペティションI」上演作品レビュー

■リン・ティンシュイ/Lin Ting-Syu/林廷緒『Deluge』

台湾のほか、2019年にスペインのMASDANZA、福岡ダンスフリンジフェスティバルvol. 12でも上演経験のある振付家。

本作は、2009年の台風8号(=モーラコット)が台湾の高雄山間部の集落に壊滅的な被害をもたらした大規模な洪水(八八水害)を題材にしているという。

振付家は出演せず、3人のダンサーによって踊られた。2人の演奏家による生演奏に迫力があり、ダンサーたちが連なって背中を丸めた姿勢で速足で歩くシーンなどが印象的。

青っぽい(?)照明も相まって、不穏な自然のエネルギーと生き延びようとする人間たちの底力のようなものを感じさせる、力強い舞台だった。もっと作品を見てみたい。

出演:Wen Yun-Chu/文韻筑、Tu Li-Wei/凃立葦、Chen Hsin-Yu


■イム・ソンウン、アン・ヒョンミン/Lim Sungeun, Ahn Hynmin『Nuisance』

コンテンポラリー・ダンス・カンパニー「ゴブリン・パーティー/GOBLIN PARTY」所属の振付家・ダンサーによる2人の作品。

舞台セットはなく、2人の関係性が際立つ舞台。バリバリ踊るのではなく、転がったり、絡まったりすることで、展開していく。

プログラムによると、テーマは「内気なことを気にするのはもうやめた」とのことだが、作品を見ていて、そのテーマをあまり感じることはできなかった。

最後は2人で舞台前面に進み出て、1人が「ありがとう~」、もう1人が「ございます~」と日本語でいって、お辞儀。これがあってもなくても、全体的に好ましい雰囲気ではあった。


■下島礼紗/Shimojima Reisa『オムツを脱いだサル/The Monkey Without a Diaper』

ダンスカンパニー「ケダゴロ」主宰。ソロ作品『オムツをはいたサル/Monkey in a Diaper』は、横浜ダンスコレクション「コンペティションII」で「最優秀新人賞」などを受賞し、国内外10カ所のフェスティバルで上演されてきた。本作『オムツを脱いだサル』はその続編のような位置付か?

本作は、栗本慎一郎 著『パンツをはいたサル』の記述「ヒトは、サルが余分にパンツをはいた生き物だ」から着想を得たらしい。

「ダーウィンの進化論はもう古い、パンツ・オムツを脱いだら立派になれる」というようなナレーションが日本語と英語で流れ、舞台奥には、進化論の図としてよく見る、サルからヒトへの変化を表す影が映写されている。

振付家自身によるソロで、オムツをはいている以外は裸、胸を両手で隠して登場。胸を押さえたまま、手を使わずにオムツを脱ごうと奮闘する。

這っていたところから脚を動かし、立ち上がれるようになり、と次第に体全体を自由に使えるように「進化」していくさまを、確かなテクニックで表現する。

ついにはハサミや電気コードといった「道具」を使ってオムツを脱ごうとするが、うまくいかない。「手を使いなさい/Use your hands.」という「天の声」が聞こえ、決心して胸から手を離すと、胸には手形の黒い模様が貼って(?)ある(胸を押さえていたときから、黒っぽいものが少し見えていた)。

それでようやくオムツを脱ぎ捨てる。その後は、正面を向かないように踊る。しかし、脱ぎ捨てて、どうなったのか?という点がやや不明瞭だったように感じた。あえてそうしているのかもしれないが。

ユーモラスで思わず笑ってしまうが、シュールでもあるので、笑っていいのかどうか戸惑う、という、心をざわつかせる作品。


■ブルー・カウィング/Blue Ka Wing/藍嘉穎『Experimental Relationships』

香港に拠点を置き、作品は福岡ダンスフリンジフェスティバルVol. 10や韓国でも上演。

振付家は出演せず、研究者風の白衣を着たり、それを脱いだりする女性ダンサー2人が踊った(冒頭には男性2人も少し登場)。本物のスイカを切って(切れ味がすごく良い中華包丁を使っていたので、難なく切り込みを入れていた)、中に手を突っ込んで中身を取り出すなど、性的な要素がいろいろ入っていたように思う。

あまりまとまりがなく、全体として訴え掛けてくるものが少なかったように感じた。

ただ、ミュージカル映画『サウンド・オブ・ミュージック』の歌「Sixteen Going on Seventeen」が流れて、歌詞がフェミニズム的に完全にアウトだと気付いたり、スイカをミキサーにかけて、断続的にスイッチオンにする音に合わせて、腕をなびかせるように動かしたりするところなど、シニカルで面白い場面もあった。

出演:Yuet Ling Chan、KT Yau Ka Hei


■Von・noズ(上村有紀/Kamimura Yuki、久保佳絵/Kubo Kae)『不在をうめる/Vacant Seat』

★「奨励賞」受賞

「ダンスがみたい!新人シリーズ17」(2019年)で「新人賞」を受賞した作品。

空っぽの椅子が何脚か置いてある中で、2人が帽子などの小道具も巧みに用いながら、不在/存在のテーマをコンセプチュアルに表現していく作品。最後は、舞台奥のセンターにあるドアから消えていった(のだと思う)。

巧妙に緻密に構築された作品だと思うのだが、眠気が強いときに見るのは危険で、うとうとしてしまった・・・。本来、緊張感のある作品だと思うのだが、不覚。

▼「Nextream21 2018 優秀賞受賞記念公演」で上演された、Von・noズ「前菜×黄金色になるまで」について


▼「吉祥寺ダンスリライト vol.1」で上演された、Von・noズ「ペレックー春の祭典 四重奏ー」について


■横山彰乃/Yokoyama Ayano『水溶媒音/Suiyoubaion』

★「審査員賞」「ポロサス寄付基金賞(Camping)」受賞

ダンスカンパニー「la banshees」主宰。楽曲制作と美術デザインも行う。

本作は2019年にこまばアゴラ劇場で見ていた作品だったのだが、もう一度見たいと思っていた。振付家自身によるソロ。

舞台の背景に、糸でつるしたたくさんのペットボトル。照明が刻々と変わり、宮沢賢治のような物語を感じさせて、秀逸な短編映画のよう。「水」とのたわむれや恐れ、冒険心などが浮かび上がってくる。

音楽もとても良く、最後のノスタルジックなシーンではやはり涙ぐんでしまった。成長するにつれてどこかに置き忘れてきてしまった大切な感情を思い出させてくれる。

音の取り方も巧みで、ロボットのようなメリハリのある動きや、反対に滑らかな動きなど、自由自在。身体の動きをずっと見ていたいと思わせるくらい魅力的。

完成度の高い作品だが、感傷的でかわいらしくもあり、少し小粒な印象なのかなとも思ったが、見事に「審査員賞」と「ポロサス寄付基金賞(Camping)」の2冠を達成。やはり力量が高い振付家・ダンサーなのだろう。さらなる活躍が見たい。

作品名の英語は、ローマ字でいいのか?というのは気に掛かる・・・。

▼2019年にこまばアゴラ劇場で上演された、『水溶媒音(Suiyoubaion)』について


■リン・チュンウユ/Lin Chun-Yu/林俊余『A Pillow Song』

★「MASDANZA賞」受賞

台湾生まれで、カリフォルニア芸術大学で学士号、国立台北芸術大学で修士号を取得、各地のフェスティバルで上演。

振付家自身と、もう1人の女性ダンサーによって踊られた。パンフレットによると、「メタファーとしての夜を扱った別れのデュエット」とのこと。

2人の女性が互いをはねつけたり、くっついたり、流れるようなシークエンスが続き、美しくもどこか怪しく、静謐で謎めいた夜を現出させている。

綿密に作品作りをしていそう。もっと作品を見てみたい振付家。

2人とも柔らかそうな素材のスカートをはいていて、転がったりするときにスカートがめくれあがって脚が丸見え(スパッツなどははいていない)になっていて、ダンサーも少し気にしているそぶりを見せているようなしぐさもあったが、あれは意図的だったのかどうか?と、どうでもいいことが少し気になった・・・。


■ラウル・エル・ラキティコ・ジュニア/Raul L. Raquitico Jr.『Transacting Comfort』

★「奨励賞」受賞

フィリピンを拠点とし、マレーシアや韓国でも上演。

振付家自身ともう1人の男性ダンサーが踊った。パンフレットには、「商品化された(物質的)快楽を享受することと、身体は本来自ら心地よさを得る(本能的)能力を備えているという認識の間で生じる緊張関係に迫り」とある。

伸縮させられる突っ掛け棒(?)のような小道具も駆使した、コンセプチュアルな作品。

これも、眠気が強い身にはちょっとつらかった・・・。しかし、完成度が高そうとは思った。

出演:Raul L. Raquitico Jr.、Jan Lloyd Celecio


■敷地 理/Shikichi Osamu『happy ice-cream』

★「若手振付家のための在日フランス大使館賞」受賞

振付家含め4人が出演。冒頭では、舞台中央に女性が1人、上手手前に男性(振付家と思われる)が1人。男性は、顔を舞台奥に向け、肘をついて横たわっている。頭から、アイスクリームをイメージした(?)白いねっとりしたものを垂らしていて、それが舞台にくっついている。女性は動く。

暗転し、客席の中央辺りにスポットライトが当たり、座席に座っていた出演者が、天井からぶら下がっているマイクに向かって息を吹きかける。その音を合図に、舞台で女性が踊る。

途中でもう1人女性が加わり、舞台で動く。終盤に向かって、横たわった男性が徐々に頭を持ち上げて、アイスクリーム(?)を伸ばしていく。

舞台セットにはアートのオブジェのようなものがいろいろ置いてある。

アートパフォーマンスとしても成り立ちそうな作品。

意味は分からないが、マイクに響く息、伸びていく白い物体、工事現場に迷い込んで、様子をうかがいながら遊んでいるような女性たちの動きは、なんとなく呼応しているようで、ちぐはぐなようでいて調和している。なぜかずっと見ていられる作品。

フランスの人が好きそうな作品だなと思っていたら、表彰式で「若手振付家のための在日フランス大使館賞」を授与されていたので、やっぱりと思った(笑)。

出演:敷地 理、小松奈々子、ますかわサタン怖い、村川菜乃


■ソン・ユンジュ/Song Yunjoo『Pillar of Mind』

★「シビウ国際演劇祭賞」受賞

パンフレットに、「韓国の伝統ノリ(ノリ=韓国固有の民族歌舞を演ずること)の中の鳳山仮面劇に両班家の下人として登場するマルトゥギを素材としている」とある(「両班は=朝鮮時代の上流階級」)。

振付家自身と男性ダンサーで踊った。2人とも、「下人」のイメージなのか、灰色っぽいだぼだぼの質素なシャツとズボンの衣装。

冒頭、男性が客席に下りて、3人に声を掛け、両頬とおでこにペンのようなもので線を引いてもらっていた。英語で言っていたみたいだから、欧米人の風貌の人たちに声を掛けていたかも?(となると、今回のイベントの関係者たちだったかも)

その間、舞台手前の中央に正面向きで立っていた振付家。男性が彼女のところに行き、鏡で自分の顔を見ながら、おそらく自分の顔に描かれたのと同じ模様を、彼女の顔に描く。

それから踊り出すのだが、「ノリ」という民族歌舞の動きを取り入れているのだろうか?魅惑的な、ちょっとあまり見掛けたことのない動きも入っていたように思う。

韓国語のテキストがナレーションで流れて、その抑揚に合わせるように踊る場面も大変魅力的。

いわゆる「土着性」(と言うのはよくないかもしれないが)の泥くささのようなものと、欧米的な「洗練性」(と言うのもまた問題だが・・・)を巧妙にブレンドしたようなスタイルで、かなり好みな振付のように思ったので、もっとほかの作品も見てみたい。

出演:Song Yunjoo、Choi Jongin


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