なぜキューバ代表がここまで勝てないか?徹底して考えた~後編~
前編に続き、なぜキューバ代表が勝てないか?後編です。
キューバ国内リーグSerie Nacional de Beisbol(以下SNB)で打撃成績上位に入る超ベテランの2人、フレデリック・セペダ(OF/サンクティ・スピリトゥス(元・読売))とヨルダニス・サモン(1B/ラス・トゥナス)。キューバ国内での活躍の一方で、海外での試合では明暗がはっきり分かれており、プレミア12まで好調を維持したサモンと、最後までぱっとしなかったセペダ。この違いはどこから来るのか?
『四球』のセペダと『安打』のサモン
2人の打撃スタッツを見れば、その明らかなスタイルの違いにすぐ気づくと思います。国内でのセペダのBB%は29%で、四球の多さはリーグ1位。ヒットで塁に出る回数よりも歩く回数の方が多いのです。しかも打率は.349と、ヒットもかなり打っている上でそれを上回る四球を選んでいるのです。一方でサモンはBB%が8%。出塁率と打率の差を示す『IsoD』は僅か.047と、出塁のほとんどがヒットによるものです。結果、SNBでの出塁率はセペダの方が上回っています。
これが海外遠征や国際試合になると、それぞれの打撃スタイルの傾向は同じなのですが出塁率が逆転します。セペダの出塁率は.268に対し、サモンは.365。相変わらずヒットによる出塁がほとんどを占めるサモンですが、その一方でセペダの方は国内では圧倒的だったBB%が29%➡16%とほぼ半減となっています。
ちょっと別の見方もしてみましょう。日本でもすっかりお馴染みとなった『OPS』。出塁率(OBP)と長打率(SLG)を足して計算される打撃指標ですが、OPSはこのように式を変えることも出来ます。
OPS=出塁率 + 長打率
=(打率+IsoD)+(打率+IsoP)
=打率×2 + IsoD + IsoP
『IsoP』は長打率から打率を引いて計算される”長打力”を示す指標です。セペダとサモンのOPSをグラフにするとこうなります。
2人のSNBにおけるOPSはほぼ同じで、長打力を示すIsoPもほぼ同じでしたが、セペダが四球を選ぶ分、サモンはヒットを打っていることが分かります。一方、海外遠征や国際大会では、セペダが打率/IsoD/IsoP 全ての指標が落ちているのに対し、サモンの打撃成績も落ちてはいるのですがセペダほどではありませんでした。
国内ではセペダなら四球にするような外れたボールも、サモンはバットに当ててヒットにしている。要はサモンがバッドボールヒッターなのでしょうが、ここにセペダとは対照的にサモンが海外で奏功しているヒントがあるのではないか、と考えました。
キューバリーグの四球は当てにならない
以前メジャーリーグに渡り活躍したキューバ人選手で、SNB時代の成績とメジャー移籍後の成績を比べてみたことがありました。
・キューバ国内で三振が少ない選手は、メジャーに行っても三振は少ない傾向にある。
・しかしキューバで四球が多い選手が、メジャーでも多くの四球を獲得できるとは限らない。
このことはメジャー以外の舞台でも同じことが言えるのではないかと思います。前編で仮説として、『キューバ国内では投手の制球力が低いため、打者の選球眼以上に四球が多くなってしまっている。』と書きました。逆にキューバ国外となると、国内では見極められた球を見逃してしまったり手が出てしまったりで、通用しない選手が出てくるのでしょう。セペダの場合、際どいコースにボールが来ると、手を出さないとストライクを取られるが、逆に手を出したら出したで普段あまり振らないコースなのでヒットになり難い。サモンの場合は、際どいコースだとしても普段から手を出しているコースなので、いつも通りスウィングしそれがヒットになる。そんなことが予想されます。その仮説が正しいか正しくないかは分かりませんが、少なくとも数値から言えることは『キューバ国内のBB%は信用できない』ということです。
常識破りなキューバ版セイバー指標
では、キューバ国内での成績を使って、海外でも打てる打者とそうでない打者をどのように見極めたら良いのか?当サイトでは様々な指標を検討した結果、こちらの指標を見つけました。
安打÷(三振+四死球)
この値が高い選手ほど、国際試合や海外での試合で比較的成績を残せるだろう、という訳です。一般的なセイバーメトリクスの指標では、”三振は少ない方が良い。”、”四死球は多い方が良い”と扱われますが、この指標は四死球が多い程数値が下がります。
ただし、分母にある”三振”と”四死球”では若干目的が異なります。”三振”の方は、キューバ国内で三振が多い打者は海外でも多い傾向なので、だったら三振が少ない選手の方がいいでしょう、という訳です。これは理解できると思います。一方で”四死球”の方は、キューバ国内で四死球が多くても海外でも多いとは限らないので、だったら不確定要素である四死球の割合が少ない打者の方が海外でも計算がしやすいだろう、という狙いなのです。もちろん、国内でも海外でも四死球が多い打者は存在するのですが、どうなるか分からないくらいなら、そういった選手を避けてしまおうという考え方です。この指標(=名前がないので”サモン率”とでもしましょう。)を使って、昨年のキューバ代表選手たちの成績をプロットするとこのようになります。
と言うことで、『サモン率』が高い打者ほど海外でも打率が高い、という傾向を表しています。ラウル・ゴンザレス(IF/シエゴ・デ・アビラ)のように例外もいますが、この例外を除除くとさらに傾向がはっきりします。
ただし、これは短期決戦用だと思ってください。デスパイネやグラシアルなど、シーズンを通して海外で試合をしているような選手なら、そのリーグに段々と適用していくと思いますので本来のスタイルに近づくはずです(まぁ、生き残っていればですが・・・)。
誰に期待できるか?
では、キューバ代表の中で誰が打てそうか?東京オリンピックのアメリカ予選のキューバ代表候補選手のバッターに全員に対し『サモン率』を計算してみました。
サモンを上回る選手が2人いました。ヨルダニス・アラルコン(1B/インドゥストリアレス)とダヤン・ガルシア(IF/アルテミサ)です。2人ともベテランですが、アメリカ大陸予選で、セペダやデスパイネの調子が悪いようならば、躊躇なくこの2人とサモンの打順をくっつけて起用してもらいたいものです。もちろん、この3人も調子が悪そうなら、サモン率が良かろうが悪かろうが兎に角調子の良い選手の打順を上げる。最終的にはコンディションに尽きると思います。
さぁ、果たしてどのような結果になるか?アメリカ大陸予選は3月22日から開催です。
~以上~