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KANGE's log

映画「AI崩壊」

2020.02.12 14:21

医療AI「のぞみ」がさまざまなサービスやデバイスとつながってインフラ化した10年後の日本。突然「のぞみ」が暴走を始め、その犯人だと疑われた開発者の桐生は、警察の追っ手から逃げながら、のぞみの暴走を止めようとする…というお話。

邦画で、SFを織り込んだ近未来モノで、日本中をパニックに陥れるようなスケールの大きい話って、どうしても、ちゃちい感じになりがちなのですが、相当健闘していると思います。しかも、オリジナル脚本で、動員の保証もないのに、相当頑張っています。 

「太陽」で、あまり予算はかかっていないであろうけど、ちゃんと近未来の荒廃した日本を描いた入江監督が、大きな予算を得て、10年後の日本を描いています。「のぞみ」のサーバールームなんか、かなり大掛かりなセットです。高速道を使ったカーアクションもあったりします。「日本映画を、国内で撮影して、ここまではできる」という一つの基準になりそうです。

街中の風景では、現在から10年の間、日本で新車は発表されていないのか?と思ったりしますが、きっと格差が広がって、一部の富裕層しかクルマを買い替えることができなくなったのでしょう。そのうえで、いすゞ・ヴィークロスやフィアット・ムルティプラといった珍奇なデザインの車や電気自動車テスラで頑張って近未来感出しています(ドローンだけ、進化し過ぎのような気はしますが)。

そして、女性総理が誕生しているものの、各組織のリーダーは男性ばかりで、女性はサポート的な役割のままです。これも「10年経っても日本の組織は変わらない」という、静かな皮肉なのでしょうね。新総理の苗字もちょっと笑ってしまいます。あの一族なんでしょうね。 

アナログ代表として三浦友和演じるベテラン刑事が出てきて、AI捜査の裏で足で稼ぐ捜査をしていきますが、「AIが勝つのか、人が勝つのか」みたいな二者択一になっていないのもいいです。捜査AIを稼働させることで軽微な犯罪が山ほど発覚し、手を打つこともできました。細かく描かれてはいませんが、それはそれで大切なことです。いろいろと考えて作っているのだとは思います。

ただ、扱うテーマは、AIの暴走です。「人工知能」と呼ばれていた頃から、アシモフのロボット3原則の時代から、もう語り尽くされてきたような素材です。相当、新奇性がなければ、物足りなく感じます。そういう意味では、事件までのプロセス、引き起こされる事態、真犯人の存在、そこに至るストーリー、それほど目新しさを感じるものではありませんでした。医療という分野であること、警察側の捜査AI「百目」の名前もあって、手塚治虫感さえ感じます。だから、「頑張った」というレベルだと思います。

そして、頑張っている分、気になるところも多くて、そこが目立ってしまうのが、とても残念なのです。

ストーリーの大きな流れでいえば、かなり早い段階で、真犯人が想像できてしまいます。まあ、本格ミステリー的に推理できるわけではなく、キャスティングや演出からの想像なので、それはいいです。ただ、ほぼ捻ることもなく展開していきます。何のための豪華キャストなのかよく分かりません。いくつかミスディレクションしていますし、犯人捜しが重要な映画ではないとは思いますが、物語としては弱いと感じました。

いや、そもそも「真犯人がいる」という時点で、AIがテーマとしてはどうなのかという気はします。本当に怖いのは、人間が作ったルールに従って、それでもAIが命の選別を合理的と判断して実行することなのですから。そのときに、人間は何ができるのかが問題なのですから。そうでないと、最後の質問に対しては、極めて単純な答えしかないと思います。言い換えている場合じゃないです。

あれ? よく考えたら、犯人としては、のぞみに障害を起こさせてデータを接収して、なおかつ命の選別を始めさせれば、それでよかったわけで、わざわざ偽の犯人を仕立て上げる必要はないような気がするのですが、どうでしょう? 私ならば、のぞみ開発者の天才エンジニアを敵にまわしたくはないですけどね。シンガポールにいる間にしれっとやってしまった方が、成功の確率は高いのではないでしょうか。そこは、AIを使ってシミュレーションしなかったのかな?