享受
我が子が自死(自殺)で先立ってから、楽しめないどころか苦痛になった日常の二大娯楽が、音楽鑑賞と映画鑑賞でした。
食欲は無くてもなんとか食事はできる、泣き疲れ果てた末であれ睡眠も一応とれる、そんな自分でしたが音楽鑑賞と映画鑑賞は暫くの間できませんでした。
我が子との思い出の詰まった曲はもちろん聴けない、聴きたくない。
新譜の楽曲にも興味が湧かないし、聴く気力も無い。
カーステレオに流れる曲には、ほぼ全曲、全アルバムに亡き子との思い出が詰まっていますから、聴きながら運転するなど……恐ろしいことです(事実、何度も車を小なりぶつけました)
そうかと思えば、無音の室内に居るのも耐えられないので、テレビは垂れ流してはいるけれど見もしない。
CM時の大きめの音に神経質にビクビクしたり、今考えるとやはりそれ以前の状態ではなかったようです。
大好きだった映画鑑賞(もしくはドラマ)は、ストーリーを追う行為がそもそもできない、集中力も気力も無い。
見ていたとして、いちいちストーリー上のエピソードに亡き子との思い出が繋がってしまうと、途端に奈落の底に突き落とされるような悲しみの襲撃に遭います。
もはや映画館に足を運ぶことなど考えられない。
あの暗がりの中に閉じ込められるような状態で、爆音量のストーリーをわくわくしながら追い、エンジョイ(享受)できるような精神状態ではなかったんでしょうね。
それが、亡き子の(生きていれば)15歳の誕生日が近づいた頃、遺された家族皆で映画館に足を運ぶことになりました。
ありえないほどの悲しい死別後、初めて映画館で鑑賞した映画は、なんとギャグコメディー(人情モノ)。
少年ジャンプで人気を博したあの漫画原作、亡き子も含め家族全員がハマっていたコミック、初の実写版です(^_^;)。
『銀魂』……小栗旬、菅田将暉他出演。
家族みんなで楽しめるはずだった映画をチョイスしたのは、うちの家族なりの供養の一つだったのだと、今では思います。
普段、そんなに大騒ぎするような子ではなかったのですが、ツボに入ったときの笑い声が突拍子もない爆音で、ゲラゲラとのけぞって『笑い転げる』、そんな子でした。
その笑い声が近所中に響きわたってくると、まだ姿は見えなくとも、そろそろ玄関の戸を開けるかな。。と、気づくほど。
数人の友だちと、どんな会話で盛り上がっているのやら、元気にふざけた笑い声を聞くと、『マンモス中学校だし、入学当初は心配していたけれど、中学生ライフもなかなか良い感じで進んでいるな』と、微笑ましく我が子の成長を眺めていたものでした。
家の中でも時々(6つ年上の)お姉ちゃんと何かふざけて、ビックリ箱を開けたときのようなけたたましい笑い声を上げるので、私は飲んでいたコーヒーカップをひっくり返すほどに驚かされていたっけ。
なのに、周囲にはそれほどまでに悩んでいた素振りも見せずに自死……。
亡き子に対し、家族それぞれが様々な想いを胸に抱きつつ、久しぶりに連れ立って映画館の大スクリーンを前にした私は、なんとのっけから噴きまくり、大笑いしました。
そして、ゲラゲラ笑いながら涙も流していました。
――あの笑い声が愛しい。
自分の隣の席に亡き子が座って、スクリーンを笑転げながら見ている様子を想像して、胸が締め付けられますが、良い具合に『銀魂-実写版』は容赦なく笑わせてくれるので本当に助かりました。
涙を堂々と拭っても、まわりの人たちには『笑い過ぎによる涙』にしか見えませんから(^_^;)。
『娯楽』…… ゴ たのしむ、なぐさみをしてたのしむ、とも言うらしいですね。
一緒に笑い合って楽しめた映画も漫画もドラマもコンサートも、まだまだたくさんあったのになぁと、悔しくてなりません。
遺書の最後のほうには、こんなことが書いてあったのを思い出しました。
『もし私がユウレイになったら、また4人でどこかへ行こうね』
…………。
たとえユウレイになっていたとしても、霊感とは無縁の我々家族には、なんにも見えないんですけどね。
悲しい遺書もツッコミどころ満載の一文で締める、まるですっとんきょうな子でした。
📷亡き子は生前『おそ松さん』というその昔の『おそ松くん』のリメイクアニメ成人バージョンを崇めていたので、当時家に届いたばかりの小さな仏壇のナカミが揃うまで、おそ松さんのイラストポストカードを飾っていた我々家族。
考えてみれば亡き子に負けず、すっとんきょうですが(・_・;)、映画『銀魂-実写版』をきっかけに、我が家なりの『亡き子への供養の形』が、出来上がっていったように思います。
一緒に楽しみたかったことを無理なくエンジョイしてみよう。。
それも供養の一つだと。
* * *
娯楽のひとつ、映画鑑賞は現在復活し、2020’米国アカデミー賞が発表される前日に、話題作だった韓国映画『パラサイト』を観に行ってきました。
なんとも救いようのない内容の映画でしたが、アカデミー賞4冠獲得で作品自体は大きく救われましたね!
我が子の自死に遭うという私の救われない人生も、こんなふうに救われることがあればな~
あるかな……あるとすれば(;´Д`)きっと……(遠い目)。