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乾 雅人 テレビの仕事、食の事、趣味の事。

カワハギ地獄の一丁目。

2020.02.15 05:26

「カワハギ地獄」をご存知か?

魚釣りを趣味にしている方なら「カワハギって釣るの難しいんでしょ?」と会話したことがある思う。

海底付近でヘリコプターの如くホバリングしながら、針に付けたエサのアサリを啄ばみ、知らないうちにエサを平らげ…

釣り師を悩ますおちょぼ口の愛嬌ある魚、人呼んで「エサ取り名人」

カワハギといえば、代名詞でもある「肝」

大きく肥えた釣りたての肝は、上品な白身と相まって格別の味。

高級魚と呼ばれる所以はこの肝にある。

秋口、冬を前にその肝を肥やす為にエサを荒喰いする。

このタイミングでカワハギ釣りを始めると初めての海釣り、女性アングラー、子供達でも簡単に釣れる。

平たく、大きくても30cm超という魚体だが、釣れた時、その引きは驚くほど強い。

最盛期、12月。

カトパンならぬ肝パンに膨らむ頃、水深10m〜50m程の岩礁帯に群れを作る。

そして、比較的簡単に釣れていた秋のカワハギがこの時期を境に突如「エサ取り名人」と化す。

そして、この「エサ取り名人」を釣らんと悩むカワハギ師は…もっと魚信を、もっと釣果をと…数万円の専用高級釣り具を購入し、東京湾・駿河湾へ足しげく通うこととなる。

海釣りの魚種、アレコレあれど「トーナメント」と呼ばれる競技会が開催される対象魚は淡水は別として、船釣りのカワハギと磯釣りにおけるメジナくらいだろう。

偶然、たくさん釣れたという「まぐれ」が頻繁にある魚種ではトーナメントにはならない。

2000年代初頭、釣具メーカー主催のカワハギトーナメントが始まった。

こういった大会は釣り方の技術、専用の道具、戦略が系統立てられ、理論が確立されている魚種に限られている。

カワハギとはそういう魚だ。

ヒラメや真鯛といった高級な魚を狙って外房辺りで釣行をご一緒していた友人を今年、駿河湾のカワハギ釣りに誘った。

その友人は以前、カワハギ釣宿の東のメッカ、浦安から出船して釣果ゼロだったという。

東京湾・駿河湾といっても、釣り場となる岩礁帯・潮の当たり方によってカワハギの性質が異なる為、一概に王道のセオリーが通用しないのがこの釣りの面白いところなのだが…

釣果ゼロで「やっぱりカワハギ釣りは難しくてダメだ」となっては勿体ない。

僕が常宿としている茅ヶ崎の船宿でご一緒することに。

2015年、初めてカワハギ釣りに行って以来

秋から冬にかけて茅ヶ崎に通って

2017年などは週に3〜4回の釣行。午後から会議というスケジュールにしていた 笑

おかげで船長さんともさすがに顔馴染みになった。

カワハギには専用竿があり、高級なものだと1m80cmほどのカーボン製の竿で自重が70g以下という超軽量、

リールも140gと、合わせても210gを切る。

初めてのカワハギ釣りでは船宿のレンタルだったので一般的な専用竿とリール(合わせて400g程)でやってみたのだが

この釣りはいわゆる「エサを海に入れて、あとはじーっと待つ」釣りではなく

朝7時から午後2時までずーっと手持ちで竿を動かし続け、揺れる船で立ちっぱなし(座る人もいる)

最低5分に一回、早ければ3分に一回、エサのアサリを食べられてしまうので回収、新しいエサを付け直して投入を繰り返す為にヘトヘト。

その初カワハギ釣行の際、高級な道具をたまたま持たせてもらったらレンタルとは雲泥の差。

重さの感覚でいうならボウリング球とピンポン玉くらいの差に感じた。


で、初級者に最適だろうと思われるカワハギ専用竿を購入したが、

もっと魚信を捉えたい

もっと感度が欲しい

と欲が出て、この5年の間、数万円の出費を厭わず数本を購入していった。


しかし、これは竿とリールだけの話。

カワハギ地獄の一丁目まで辿り着いてもいない。

本当のカワハギ地獄はこれとは別だ。


カワハギとは実に面白い魚で

ある形の釣針では全く釣れず、別の形状の針を使用している釣り人のみに釣れたり…

使用するアサリに着色した人のみが釣れる…

ある色のオモリを付けた人のみが釣れる…

針を結んでいる糸の長さが他より3cm長い人のみが釣れる…

釣竿の先端が柔らかい人のみが釣れる…

キラキラしたシールを針の近くに貼った人のみが釣れる…

ピカピカと点滅する小さなライトを付け、しかもその色が青色だった人のみが釣れる…


ほんまかいな?と思うが、数多く釣行を重ねているとそういう場面を実際に見る。


この為、あれこれ試す必要に迫られ、道具類がどんどん増える。


更に

カワハギは海底近くで貝類、イソメ等の虫類を捕食する為、釣り方も海底にオモリやエサのアサリを置いて釣る。


自ずと捕食体勢は口を下に向け、ホバリングしながら、となる。

釣り方もこの口を下に向けさせて針ごとエサを吸い込ませて釣るのが一般的だ。

秋、まだ水温が高い時期は海底付近から1〜2mまで釣針に付いたエサのアサリを追いかけて浮く為に、海底にオモリを付けた釣り方とは違う「宙の釣り」というテクニックが必要になる。

ただエサを1〜2m持ち上げるだけではカワハギがホバリングしてエサを平らげてしまい、全く針がかりしないので

海底付近から一旦カワハギを浮かせ、今度は竿先を下げて捕食体勢を取らせると針がかりする。

この竿先を下げるスピードが釣果を分け、ある日には20尾以上の差になることがある。

この釣り方に向いた竿先が硬く、感度が良い竿がもちろん必要だ。


冬。

水温が下がり、底付近から浮いて来ない時期は海底中心に釣る。

今度は海底付近でどうエサをアピールするかが釣果を分ける。

今度は竿先が柔らかく、カワハギがエサを吸い込んだ時に違和感を感じない竿が必要になる。


ただ、季節に関係なく、上記のパターンに当てはまらない事もある為に「どちらも持参」ということになる。


そして、どういった釣り方が自分の得意パターンなのかを突き詰めると、そのパターンに合った究極の感度を追い求めることになり、7万円などというカワハギ専用竿を購入するに至る。


「川越カワハギ研究所」というカワハギ釣りのブログを書いている方が釣具メーカーSHIMANOのステファーノという高級竿に関してこう記している

『道糸を伝わって来るニュアンスの良さは、ステファーノならではの特徴です。海底の性状は勿論、魚種の違いなども区別が容易です。糸ズレや、海を漂うゴミが道糸に当たる感触までも手に伝わるのには驚きます。』

参照 http://kawagoekk.blog.fc2.com/blog-entry-1.html?sp

このブログをかなり熟読させていただき、竿を選択する際の参考とした。


釣り方も季節、水温、カワハギのその日の機嫌、潮の流れ、エサ取りとなる他魚の活性によって異なる。

これがもう引き返せない、カワハギ地獄の二丁目突入と言える。


ある日、宙の釣りでバカ釣り。

3日後、宙ではゼロ、底付近でのみ釣果。

1週間後、カワハギの集魚効果があるというピラピラ集器で仕掛けを投げて底をズル引きした人だけ良い釣果。

2週間後、針を吸わせ系にした人だけアタリが出て釣果。

1か月後、底にべったりでアタリも出ないので「1.2のさーん」で引っかかるのを待つタイミング釣り…タイミングが合った人だけ釣果。

秋に船中竿頭だったのにビリになっていく…

もうさっぱり分からなくなる 笑


「なんで俺には釣れないんだ?」


ここまで来たらカワハギ地獄の横丁を出口を探して彷徨うだけだ。


しばし余談。

僕は30歳を機に磯でメジナという魚を釣ることにハマり、20年の間足しげく伊豆半島に通った。

磯のメジナ釣りはオキアミという小型のエビを撒き餌にして魚を寄せ

針は1本だけ、小さなウキをひとつという魚釣りでも極端にシンプルな仕掛けの釣りだ。

この釣りにハマった理由はこのシンプルさと、複雑に変化する潮の流れへの対応力とマキエが集まる場所を読む力の面白さ、そして掛けた時に垂直へ突っ込んでいく爆発的な引きだ。

前述したようにこのメジナ釣りもトーナメントが開催されている通り

非常にメソッドがしっかりしている為、

「大きさは運、枚数は腕」

が顕著になる。

リールはレバーブレーキ付きが必要だが、それ以外の道具が取り立てて高価という訳でもない。

むしろ中通しウキのバリエーションとなるべく高性能のモノを揃えるくらい。

過去、西伊豆小下田の低く小さな沖磯、ベタ凪の日にしか上がれない「鯛島」に渡礁。

沖向きに流してもエサ取りだらけで釣りにならず…更に沖を通ったタンカーの起こした遅れ波が足元に…撒き餌のバッカンが倒れた拍子に昼前に80%の撒き餌が流されてしまった。

流れ出た大量の撒き餌で海はピンク色に染まり、そこにエサ取りが大集合 笑

その後、払い出す潮に乗って魚も沖に行ってしまった 笑

同行した友人にもそんな状況を生んでしまい、迷惑をかけてしまった。

「よければ僕の撒き餌を分けますよ」

と言われたが、それではエサ取り対策が更に厳しい状況になるので断った。

沖上がりまでの3時間を残り少ない撒き餌で釣ることになり、なるべくエサ取りが居なくて…付けエサが残ってくる省エネ撒き餌ができる流れはないだろうかとあちこち向きを変えて探る。

ふと、陸向かいを見ると磯のえぐれたところに潜り込む流れがあり、壁に当たった流れが鏡のように盛り上がっては下がる場所。

磯際に撒いた撒き餌が沖ではなく下へ潜っていく流れだな、残り少ないマキエでも勝負できるかも。

特に水道という訳でもなく、一般的に言えば陸向かいの流れがないダメな場所。

仕掛けを入れてみる…回収すると付けエサが残って来た。

エサ取りが居ないか、大型の魚がいるか、だ。

波にさらわれ、海水が入ってビシャビシャになったスープ状の撒き餌を柄杓で掬って蒔く。

新しいオキアミを針に付けてスープ撒き餌を入れたところに仕掛けを投入 笑

数秒後、ウキが一瞬で5m消し込まれた。

合わせると竿が立たない。

レバーブレーキで糸を出しながら数分のやりとりで魚が顔を出す。

見たこと無いくらいの大きさのメジナだ。

無事、タモ入れ。

53cmのクチブトメジナを釣り上げ、沖上がりの迎えに来た船長から「小下田にもまだこんなデカイのいるんやなぁ」と。

更に某有名フィールドテスターに「クチブトの50オーバーは一生の記念だよ」とお言葉を頂戴した。

鏡状になった海面からウキが消し込まれていく映像は今だに夢に見るほど衝撃の映像として脳裏に焼き付いている。


結局、打開策を見出せるか諦めるか。


沖向かいのベストポイントから良い潮に乗せてマキエワークをきちんとやりながら仕掛けを流すのがもちろん一番だ。

しかし、状況が許さないとき…

スープ撒き餌をほんの少し、陸向かいの流れが無いポイントでも気になったら試す。

不利な状況でも諦めず、とにかくセオリーを無視してダメ元でもやってみる勇気。

海は広い。360度仕掛けを入れられるなら糸を垂らして攻めてみる。

そこに一生の魚と出会える機会が生まれることがある。


さて、僕がカワハギ釣りの面白さに取り憑かれたのはやはり、この「戦略性」だ。

船釣りなので座席の有利不利はある。

船長が流す場所の有利不利もある。

潮上に上手い人が座れば自分のところに魚は回って来ない。

自分でなんとかできる範囲は限られているのは間違いない。


購入したDaiwaの名人、宮澤幸則さんの

「カワハギ地獄100の戦術」にあった「胴の間の法則」はためになった。

不利な釣り座でもできる戦略…テクニックで補えることもある。


今年誘った釣り仲間は、まんまとカワハギ釣りにハマり。

他の釣りには無い「戦略性」を気に入ってくれた。

僕は今、カワハギ地獄の横丁辺りをあるのか分からない出口を探して彷徨っている。


誘った釣り仲間は地獄の一丁目に立った。


地獄の果てにあるのは一生の魚か…