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HEAVENLY TWINS 「やさしい叫び」

2020.02.17 13:31


 からだ全身が生あたたかく、りんかくを薄くぼかされたようだった。

外は灰色。いつもどおりの 空、停滞した。


 ここにきてどれくらい経つだろうと思い浮かべるけれど、ふしぎなことにまったく検討がつかない。それもそうで、きっとここは夢のなかだから。


 つながれた細い幼虫のようなチューブはわたしのからだすみずみまでゆきわたり

葉脈のように。違和感はなかった。

けれどヒュー、ヒューというほそい呼吸の音だけが、やけにリアルで


 そろりとめだまをうごかす。咳をしてもひとり、という正岡子規の句を思いだす。

ここにはなにもない。



 「ないてる?」


うずくまるわたしの前に、あいつはいる。

まるで存在しないかのように、うっすらとした白で。純潔。そしておそろしい、白で。

やめて

ほんとうに。やめて。わたしの前に立つのは、やめて……


「らびこちゃん!」

「……」


瞳がぶつかり すいこまれ、衝突して

そしてまた

離れる。

ただわたしに似ているというだけでなく、

このいきものには、あらがえないなにかが確かに存在していた。


校庭の桜 

ゆれる崖 ドーナツ上にならぶ家

さざんかのプール、網膜に焼きついたリボン、南京錠、時計台 崖 崖 崖

「崖」


なにいってるの。声が落ちて、ほんとにじぶんでも、そうおもった。

とめられない衝動は、どう安心させてあげればよかったの。

スフレ、わたしは そうゆう方法が、なにひとつ なにひとつだって、わからないのよ。

枯れた花がからりとおちる。名前は、考えたこともなかった。



 どうやら指だけはうごくみたいで、そっと ほかの部分がこわれないように うごめいた。

ところでここにいるせいの高い男の人や、ハンカチをもったふくよかな女の人は誰だろう。まるでドラマみたいね、とぼんやり眺める。


「スフレさん、具合のほうは」


つめたそうな聴診器をさげた黒ひげがいう。

具合もなにも……。うごけない、しゃべれないんじゃどうしようもないわよね。

ひだり手の小指をカクりと動かしてみる。

途端 ふくよかな女の人は甲高い狂喜のこえをあげてたちあがった。


ながれるやさしい歌も ことりの声も

ねぇ、わたしが病気だからあるのよ


うすくほほえむこともできないの。

医者はそのままわたしのあたまをそうっと、壊れものみたいになでて  わらった。



 「らびこちゃん、わたし、らびこちゃんがどんな姿になっても 大好きな自信があるのよ」

「なによいきなり」


そうねぇたとえば貝でも、ピアノでも、枯れたみずうみでも なんでもよ。

スモーキーピンクの空だ。明るさや陰りはしていなく、ただたんたんとすぎるはずの時間が、永遠に閉じこめられたようだった。

らびこは目をふとおろしたあと、またついと見る。


「たとえば、月でも?」

「ずるいな〜」


月は唯一、スフレのだいきらいなもので、わたしと対極にある存在で、そしてわたしの大好きなものだった。

神さまどうか このいきものを遠くへやってください。おいだしてください。

追い出した後はどうか わたしの記憶からも消し去って、えいえんに、うつらないようにしてください。



 機械音。

あげくのはてに、わたしはこんなところへきてしまった。

らびこちゃん


「涙って、しらなかったけど音があるのよ」


目がもえるようにあつくなるでしょう。

そうしてじわりにじんで、つぅと伝ったかとおもえば、

どおんと鳴るの。まるで慟哭。みずうみの雄叫びみたいに。

どぉんと鳴って、そうして、なんにもなくなるの。

わたしみたいに。