「足運び」を考える
考えるシリーズも今回で3つ目だ。
殺陣を始めると、上半身に意識が向きやすい。こと私自身も最初は手の方へ意識が向いていたタイプだ。殺陣をしようとした時、足よりも手を動かさなければ、相手に合わせられないと勝手に理由をつけ、結果、足が疎かになる。
足運びがままならない方は、まだ殺陣の初級だと自覚した方がいい。
足運びは、腰を入れていないと綺麗に見えない。何度も言うが、腰が重要だ。そして重心も人によって癖があるが、正眼に構えた時に後ろ足側重心の方が割合的に多い気がする。
道場や教室によっては、重心は少し前足側、割合で言うと「前足:後足」が、「6:4」とか「7:3」と習う事が多いのではないだろうか。真意は定かでないか、おそらく後ろ足重心の方を矯正するために少し前と教えているかもしれない。ちなみに殺陣は攻守一体だ。基本的に重心は腰の中心。足の割合で言うなら「5:5」だ。
重心が片寄ってしまうと、次の動きに間に合わない可能性が出てくる。徐々に間に合わないが重なると、無理に腰を捻ったり、無駄足を踏んだりしてしまう。
さて、無駄足という言葉を出したので、これが足運びをする基本のキーワードだと思ってもらっていい。特に芯の立ち回りにおいては、この言葉を意識して動く。
立ち回りに必要最小限の歩数がベストだとして、それ以上の歩数を使う事を「無駄足を踏む」と言う。
では、無駄足を踏んだらどうなるのか。答えは、ただ足がバタバタして見えて格好悪い。次の手に間に合わなくなる可能性がでてくる。腰が安定しない。などの支障が出る程度だ。
「この程度」がプロと素人の違いくらいの差なのだ。
手付をした時に殺陣師が無駄足を踏む事は、まず無い。という事は、無駄足を踏まなければ、殺陣師の想定に限りなく近い殺陣をアウトプットできる事になる。それは絡みとの間合いであったり、タイミングであったり、カメラアングルだったりする。
「この程度」がいかに大事な事に直結しているかを頭に入れておく事だ。
言葉では説明が難しいので、動画を見てみる。この動画の手を行うとすればで、歩数を数える。
動画の歩数は10歩
本来の歩数は15歩
何と歩数が少ない!素晴らしい!・・・とは、ならない。
歩数が少ない場合、足が動いていない証拠だ。足が動いていない分、身体を捻ったりして強引に立ち回りを行なっている事になる。
歩数が減ればいいと言うわけではないのだ。
必要な歩数を踏まなければ、良く見えない。
では、これはどうか
動画の歩数は17歩くらい
本来の歩数は11歩
これは、無駄足を踏んでいる。足がバタついて、素直に格好悪い。
そして最後が
動画の歩数は10歩
本来の歩数も10歩
これが、無駄足の無い、良い足運びだ。
腰の入った状態で、攻める守るをしっかり意識して無駄なく動けば良いのだが、これが難しい。
そして「絡み」はと言うと、大立ち回りの場合、足運びよりも、芯に斬りかかるタイミングの方が圧倒的に重要だ。絶妙なタイミングでしっかり打てるように、付け回す稽古が必須だ。
しかし、1対1の場合には、足運びを意識すべきだ。
足運びを身につけたら、やっと表現力の登場だ。無駄足と言えど、全ての立ち回りにおいて意識すると、伝えたい事が伝わらない部分も当然出てくる。演技として無駄ではない無駄足があると言うことも、頭に入れておくべきだ。
だが、無駄足を踏まなく立ち回れるという事が大前提なのは言うまでもない。
振りを渡してもらう際には、手の確認とともに足運びの確認も同時に行うことだ。手が頭に入ったら、テストの際に演技も加える。そして本番となる。
ただし、足運びが決まっているからと、それが法律の如く守るものでもない。絡みが立ち位置を間違った場合、もしかしたら刀が当たってしまうかもしれない。相手をよく見てフレキシブルに反応できる足運びもまた実力のうちだ。殺陣は全員で成り立たせるものだ。助け合いながら殺し合いをして欲しい。