香りのこと
和の香りというと、どんな香りを思い浮かべますか?
京都の店先や、料亭、旅館で、ふわっと香るあの甘やかな香りを感じられる方が多いのではないでしょうか。
西洋の香りと違って、柔らかな優しい香りは、きくだけでホッとします。
ところが、最近自分でお香を調合するようになり、街中の「和の香り」が強く感じるようになってしまいました。
市販の香りには、合成香料が含まれることが多々あります。
当然市販の和の香りにも広く用いられています。「白檀」「桜」「ムスク」など、様々な和の香りが、合成香料を用いてプロの調香師によって生み出されているのです。
お教室では、伝統的な調合で、天然の香原料を使用して和の香りを作っていますが、人によっては、イメージと違うと思われる方もいらっしゃいます。というのも、例えば、「白檀」で思い浮かばれるのが、合成香料で作られた香りだったりするからです。
私たちは知らず知らずのうちに、人工的な香りに慣れてしまい、それが和の香りの原体験となっているようです。
合成香料が含まれた香りは、強く、華やかに、長く香ります。
一方、天然の香りは、特に和の香りの場合、草木をそのまま刻んだり、粉末状にしたものなので、とても穏やかです。中には丁子など強く香るものもありますが、時間とともに香りは弱まります。
私はこれが1番大事なのではないかと思います。香りは脳を刺激すると言われますが、同じところをずっと刺激されると、だんだん疲れてしまいます。
「無常」ではないですが、時とともに弱く、消えていくのが自然なように感じます。
最近は全てに香りがつけられてしまっているせいか、一つ一つの香りも強くなっているように思います。
そのせいで、(私も含め)全体的に鼻が麻痺してしまっているように思えるのは私だけでしょうか…。
ただし、合成香料が全て悪い!というわけではありません。
天然の和の香原料は、希少で高価なものが多く、種の保存に努めなければならないものも多々あります。
大手の香舗の方々は、天然の香りを知り尽くしているからこそ、環境に配慮しつつ、伝統的な香りを追究されているわけです。
せっかくご自分で調香するのなら、一度天然の香りに立ち戻り、そこから合成香料も含めた、自分だけのお気に入りの香りを作られてみてはいかがでしょう。