片付けと縄跳びと糸作り
わたしは小学校入学と同時に引っ越した
幼稚園で遊んでいた友達はひとりも居ない
上の兄弟もいない
ひとりだった
毎日嫌々登校するわたしを見て
父は近くの同じくらいの小学生に「一緒に学校に行っちゃってくれん?」と頼んでいた
しかし引っ込み思案なわたしは中々溶け込めず
出来上がった仲良しグループに自ら入る事が苦手で
早く学校が終わりますように
早く学校が終わりますように
と唱えて過ごしていた記憶がある
両親はその頃、立ち上げた会社をやりくりする事に一生懸命になっていて
入学と同時だったと思うけど、世に言う鍵っ子だった
低学年は授業も早々に終わり
親が帰るまでの何時間かを家でひとりで過ごしていたと思う
わたしは毎日やることがとにかく無くて退屈だった
そんな日々も小学2年の頃、
自分の机の上がぐちゃぐちゃで何となく片付けて遊んでいた
夕方、帰ってきた母に「ひとりで片付けした」と見せると
「すごいやん!きれいになっとる!」と驚いて喜んでくれた事を今でも良く覚えている
次の日、また昨日とは違う風に片付けた
夕方、帰ってきた母に「またひとりで片付けした」と見せた
「また出来たん!すごい!この本も数字の順番に並べてみたら?」と驚きと課題もくれた
次の日は本も並べ替えて片付けた
その次の日も、次の日も片付けまくった
次第に
はいはい、分かった分かった
と、ちゃんと見てくれなくなったので
引き出しの中も、色鉛筆の中も全部をきれいに整えた
それから喜ばれずとも片付けるのは習慣になった
どう遊んでも散らからないようになっていた
片付け足らずに小学6年の頃、遂に部屋の模様替えをした
この時は久しぶりに母の驚く姿を見た
「え!!自分でやったん?すごいやん!びっくりした!」と褒められて
本当に得意になったのを覚えている
やる事がなかったから 片付け はわたしの好きな事になった
中学校に入っても部活を早々に辞め
相変わらずさっさと家に帰る日々をおくっていた
ティーン雑誌を読み込んでいるとデコラーやシノラーの特集に目が留まった
わたしもカラフルでへんてこりんなブレスレットやネックレスが欲しかった
近くのスーパーやモールにも売ってなくて
みんなどこで買ってるんだろうと不思議に思っていた
田舎ってつまんないのと思っていた
ある日の体育の縄跳びの授業中、
わたしは閃いた
わたしの縄跳びは半透明にカラフルなラメ入りで
これを切ったら雑誌に載っていたブレスレットになると思ったのだ
その夕方、母の買い物について行きアルミ部品をせがんだ
短く切った縄跳びの端と端を
短く切ったアルミ部品に入れ込みペンチで潰して縄跳びを留める
出来た!
嬉しくて嬉しくて、いくつも作っては腕に着けて遊んだ
友達にも欲しいと頼まれ
それがとびきり嬉しくて!喜んで夜通し量産した
日に日に器用になっていき
いろんなブレスレットを作った
当時はネットもない、手芸屋もないのに
中学生がよくあんなに作ったよなと今では感心する
やる事がなかったから 手作り はわたしの好きな事になった
27歳の時
10年住んでた関西から下関に戻った
趣味の手作りは、
関西にいる間に作ったモノを委託してお小遣い稼ぎになっていた
下関で続けたくてもその材料を買うお店がなかった
ヴィンテージ のフランスビーズが売ってないのだ
可愛いアンティークのレースが売っていない
普通の手芸屋で買い揃えて作った
普通のハンドメイド作品
わたしには退屈に思えた
大体作っていて楽しくない
楽しくない作品が出来ていく
縄跳びのブレスレット程の衝撃がない
その時に気がついたけど
ヴィンテージ のフランスビーズで作ったモノとか
アンティークのレースで作ったモノも
縄跳びのブレスレット程の気持ちの高揚は無かったのだ
退屈続きのある日、
手織りのおもちゃを見かけた
買って遊んでみると
見る見るうちにわたしの布が出来ていく!
たて糸に何でも挟んで遊び嬉しくなっていた
毛糸なら手芸屋にたくさんある
気に入った糸を買い集め、布を作って遊んだ
縞々にしたり、もじゃもじゃにして織った
しかし近所の手芸屋の毛糸に見飽きてしまう
もっと素敵な糸が売ってればなあ とつまんなく思っていた
何日も考えた
それで、毛糸は自分で作れるのでは?というところにたどり着いた
持ち前の実行力で近所の手芸屋には無かったスピンドル(糸紡ぎの道具)まで自作して準備した
羊毛はニードルフェルト用を買い
糸を作ってみた
出来ないけど、出来るまで辞めなかった
何日かして指先がコツを掴んだのか糸が凸凹と出来ていく
その時日本ではアートヤーンを作る人は今ほど居なくて
海外サイトや洋書を頼りに、何日も夜通し糸を作った
寝るのが惜しかった
縄跳びのブレスレットを量産した時と同じ感覚が嬉しくてたまらない
何とか出来た糸をクボタに見せた
「え!?自分で糸を作ったん?え?!」と瓦そば屋で大きな声で驚いていた
久しぶりに自分がしたことで大切な人が驚いているのを見た
糸と布作り はわたしの好きな事になった
これからも大切にしたい
片付け続けて身につけた根気と
縄跳びのブレスレットを作ったあの湧いてくる感覚を
それが出来る様、頭の中も体も心も健やかにして