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鈴木桂一郎アナウンス事務所

1月2日(木)「寿初春大歌舞伎昼の部、義経腰越状、五斗三番叟。連獅子。鰯賣戀曳網。

2020.01.02 06:58

毎年恒例の初芝居に行く。着物姿が正月らしく、何時もより多く、特に男性の着物姿も目立った。初春大歌舞伎の夜の部を見に行った。演目は、義経腰越状、五斗三番叟。連獅子。鰯賣戀曳網。の三本。

義経腰越状は、明和7年1770年に初演された人形浄瑠璃で、その三段目の口に当たる五斗三番叟が今日の最初の演目と言われている。タイトルに義経とついているが、義経記とは関係なく、大坂夏の陣を描いた舞台だ。頼朝を家康、義経を秀頼に見立て、主役の五斗兵衛は、武将の後藤又兵衛である。五斗兵衛は大酒呑みと言う設定で、苗字が五斗というのだから洒落ている。

又兵衛の出る前、三段目の初めに雀踊りを相手に、派手な立ち回りを見せる亀井を猿之助が演じた。猿之助の所作ダテは、きっぱりとして、形が良く、綺麗だ。紫ちりめんの頬かぶり、りりしい、むき身の隈で、目の朱も映えて綺麗に決まり、儲け役。重成を模しているから美形の侍に化け、雀踊りの奴との立ち回りも猿之助は素晴らしい、まさに儲け役。

五斗兵衛は白鷗が初役で挑んだ。仕官を求める五斗兵衛に酒を飲ませ、酔っ払わせて、挙句に三番叟を躍らせるのが、この芝居の眼目だ。

五斗兵衛は、刀の目貫師にやつして登場、義経の忠臣泉三郎が軍師として迎え入れようとしています。兵衛は秀頼に仕えようと挨拶に来るのですが、佞臣たちが酒を飲ませ、就職を失敗させようと企みます。まずは、佞臣達に酒を勧められ、当初は断るのだが、酒好きなので断り切れず、つい一口酒を飲むと止まらなくなり、酒を飲み続けてしまいます。ドンドン酒を注がれ、飲み始めたら止まらない。この深酒の過程と、酔いっぷりを楽しむのが眼目。

五斗兵衛を白鷗が初役で勤めたが、断固として酒を断るあたりから、酒を進められ、断り切れず、酒を飲み進め、酔っ払っていく過程が、素直に面白かった。酒に酔う芝居と言うと、魚屋宗五郎を思い出すが、そちらは町人、こちらは、目貫師にやつしてはいても侍である。どう酒に酔っていくか楽しみに見た。白鷗が演じた宗五郎は、何度か見たが、白鷗は時代物の役者なので、まるで魚売りの町人には見えず、酔う過程が、計算され過ぎて、酒乱になる雰囲気に欠けると思っていたが、今回は、軍師を任されるほどの武士が、酒に酔う芝居である。堅物のイメージで出るが、酒を呑むと当初の固さが次第に緩み、調子に乗り、大酒のみらしく、豪快に酒を飲んでいくあたりが、可笑しみを合わせ、自然に見えて、楽しかった。

後半は酔っぱらった五斗兵衛に三番叟を躍らせるのが眼目となる。江戸時代に流行した見立てと言う、しゃれっ気を見せないといけないのだが、煙草入れを剣先烏帽子に見たてたり、肩衣が素襖になり、奴を馬にして、角樽を馬の顔に見立てた演出だが、面白かった。酔っ払って三番叟を舞う所も、酔っ払いが踊るようで楽しかった。滝呑み、が出てきたが、大杯に両側から酒を滝のように注ぎ込み、その酒をどんどん呑んでいくのだが、本当に滝呑みなんてあるかどうかは知らないが、こんな呑み方も豪傑には相応しいと思った。

連獅子は、猿之助と團子、叔父と甥が連獅子を踊る。全体的にきっぱりとしていて、躍動感あふれる連獅子だった。猿之助の子獅子は、何度も見たが、親獅子は初の舞台。でも、親子の情愛、特に子を崖に突き落とした後、中々上ってこないので心配しているあたりの親子の情愛をうまく出していた。團子は大きくなったな、とまず思った。背は猿之助を超えた。成長期にあるエネルギーを体一杯に漲らせて、気持ち良く舞っているように思えた。猿之助と言う役者は、様々な引出しを持っていて、どの引き出しを取り出しても、きっちりと見せてくれる。猿之助は、現在一番安定感のある中堅役者で、近い将来、必ず歌舞伎界をリードしていく役者になると思う。

鰯賣戀曳網は、三島由紀夫が作った歌舞伎演目で、度々演じられるが、目に焼き付いているのが、十八代勘三郎と、玉三郎の舞台だ。今回は鰯売猿源氏を勘九郎、傾城蛍火を七之助が演じた。勘九郎の台詞術が、父勘三郎に生き写しで、懐かしくて涙が出た。暫らく目を瞑り、台詞を聞いていると、舞台に十八代勘三郎が入るようだった。勘九郎を、涙で潤んだ目で見ていると、台詞だけでなく、舞台上の動き、所作までが、勘三郎に似ていて、舞台で勘三郎が演じている錯覚に陥った。

鰯賣戀曳網は、中村屋の勘九郎、七之助の二人の兄弟が、この先、引き続き演じて行くのだろう。勘九郎にとっては、お父さんそっくりと言われるのは、不本意かもしれないが、舞台に心を残して早世した勘三郎を思い出す舞台を、このまま続けて欲しいと願った。