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鈴木桂一郎アナウンス事務所

1月24日(金)「国立劇場、通し狂言、菊一座令和仇討」

2020.01.24 07:08

国立劇場の毎年正月恒例の復活狂言、今年は、四世鶴屋南北の御国入曽我中村をアレンジした菊一座令和仇討(きくいちざれいわのあだうち)として上演された。

お正月興行だけに、華やかな舞台だった。入場すると、仮花道ができて両花道となっていて驚いた。国立劇場6年ぶりの両花道を使い、どんな芝居を見せてくれるのか、期待か高まった。

正月の芝居らしく、異なる武家の養子に入った二人の侍が、それぞれの妹と結婚して義兄弟となったが、実は本当の兄弟だったり、菊之助が演じる美貌の侍が女装に早変りしたり、妖怪が出てきて驚かせたりと、展開が早く愉しませてくれたが、両花道が有効活用されたかと言うと、疑問が残った。勿論、役者を間近に観られたし、派手な立ち回りが両花道で行なわれ、立ち回りの若い俳優の真剣なまなざし、息を弾ませる荒い呼吸も目の前で感じる事が出来たが、別に両花道にしなくても良かったと思った

四世鶴屋南北は、江戸時代の後期の作者で、四天王楓江戸粧、東海道四谷怪談,東姫東文章などの作者として有名で、旧作に工夫を加えて,新たな作品を作る、綯い交ぜと被虐的な作風で知られている。

原作の御国入曽我中村は、文政8年、1825年一月に江戸中村座の初演である。曽我兄弟の敵討ちを題材にしたものだが、芝居で有名な鈴が森の白井権八幡と隋院長兵衛が出会うシーンが出てきたり、槍の権三重帷子の笹野権三が出登場し、綯交ぜとはこういうものかと楽しませてくれた。

大南北の作品は、筋が入り組んでいて、意外どころか、驚くような、奇想天外な展開が面白いところだが、この作品は、正直言って、そうした意表をつく展開がなかった。だから大南北の作品でも、200年も再演されなかったのだと思う。話は、大江広元家お家騒騒動物と曽我兄弟の仇討ち物の合体だから、南北は、作劇に工夫を凝らしたのだろうが、令和の時代では、綯交ぜの楽しさも、半減しているのかもしれない。

鎌倉幕府の重臣大江広元家のお家騒動なのだが、大江広元自身、あまり知られた存在ではないし、お家騒動のフィクサー役源範頼も、義経に隠れてあまり有名ではなく、今の時代、興味を引く人ではないので、さほど盛り上らない。大江広元の実子の家来である笹野権三と白井権八が夫々養子で、それぞれの妹が権八と権三が好きで、荒れ寺で婚約が成立するという早い展開までは、おいおい作りすぎじゃないのと、笑うくらい、面白かったが、その後の展開で、義兄弟と成った二人が、実は本当の兄弟と分かるのだが、驚くのはここまでで、この先は、驚く様な展開はなく、見ていた少し飽きがきた。

この芝居に、両花道が必要だったのか微妙で、最後の大団円で,ワンチームと言う言葉が出てきたが、場内は、ぜんぜん沸かなかった。

舞台中に、銭湯の入り口の様子を描いた場面があったが、三助役で、裸に褌姿の役者が二人出てきたが、生身を晒すほどの体の魅力がなく、褌一本で舞台に出るなら、それなりに体を鍛えた役者か、美形の役者を使うべきと思った。

観ている間は楽しく、終ればもう筋も思いだせない。正月の芝居の夢だけ残る、いつもの国立劇場の正月興行だった。