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KANGE's log

映画「ミッドサマー」

2020.02.24 04:20

アリ・アスター監督の長編デビュー作「ヘレディタリー/継承」は、観る前に各所で「やたら怖い」と脅されていましたが、怖さよりもむしろ面白さの方が勝っていました。「怖い」というより「禍々しい」という感じでしょうか。

そういう意味では、本作「ミッドサマー」も「禍々しい」ですね。スリラーではありますが、もうホラーでもなくなっている、ジャンルレスな作品だと感じました。

主人公ダニーは、彼氏であるクリスチャンに強く依存しており、一方の彼はそんな彼女を疎ましくも感じていて、ギクシャクとした関係。そんな折、彼女は妹と両親を一度に亡くしてしまったが、クリスチャンは彼女を支えることもなく、大学の友人たちとスウェーデン旅行を計画中。ダニーは、彼ら4人と一緒に、夏至祭(ミッドサマー)が催される、スウェーデンの小さな村に訪れることになって…というお話。

問題は、このホルガという村の夏至祭。夏至祭そのものは、ヨーロッパ各地で催される祭りで、wikipediaには、こんな写真が載っています。

ホルガ村の夏至祭も同じようなイメージで、明るい日差しの中で、花を飾った男女が踊ったり、遊んだりしています。夏が短い北欧ですから、大切なお祭りなのでしょう。でも、何か怪しい(アリ・アスター監督の映画なので、絶対に何かが起こるだろうと思って見ているからこそ、というのもあるのですが)。

村を訪れてすぐにドラッグを勧められます。まあ、男たちはそれが目的のひとつでもあるわけですが、ダニーは気乗りしません。ここでのダニーとクリスチャンのやり取りは、2人の関係性がよく表れています。結局ダニーもマッシュルームティーを口にして、バッドトリップしてしまいます。

それでも、エキゾチックな風景に習慣、親切な村人からの歓迎を楽しんでいた5人ですが、「アッテストゥパン」という儀式を目の当たりにしたところから、どんどんおかしな方向に話が進んでいきます。それまで、ホルガの伝承を描いた絵画や、村民のセリフの端々から、これから起きるであろうことを想像させてくれていたのですが、いろいろな形で、それが現実のものとなっていきます。詳しくは省略します。

でも、これがダニーにとっては「解放」なんですよね。最後の表情がとても印象的でした。結局、精神的に不安定な彼女が、ダメ男と別れて、安住の場所を得るために、周囲を凄惨な状況に巻き込んでいったという、ド変態な映画でした(褒め言葉)。

興味深かったのは、ホルガの民たちは、共に暮らし、すべてを分け合い、共有する、原始共産制的な社会を形成しているところ。小さなコロニーでは、合理的な仕組みだと思いますが、勝者のみが全てを手にするアメリカ社会とは対極的な、福祉国家と呼ばれる北欧の社会の象徴でもあるのでしょうか。

しかも、彼らは、モノだけではなく、感情さえも共有しています。一人の悲しみはみんなの悲しみとして、一緒に嘆く。実はこれは、ダニーがクリスチャンに求めていたことでもあるんですよね。

まあ、感情だけでもなく、あの行為まで共有してしまうのですが…。

それにしても、あの状況で、クリスチャンは事を致すことができるなんて、「ホルガのドラッグの威力すげぇ」って感じです。ただ、伝承の絵に描かれていた通りのことが行われていたのだとすると、あの時期に事を致すということは、感染症リスクも高く、またその目的を果たせる確率も低いと思われるのですが、どうなんでしょう? (あの日本用の編集だけは、いただけない)

また、どうしても気になったのですが、「90年に一度の祝祭」は、どの部分だったのでしょう? アッテストゥパンの目的を果たすためには、90年に一度では足りないですよね。外からの血についても同様。何よりも、90年に1度だと、継承していくのは難しいでしょう。夏至は毎年やってくるわけです。もしかして、彼らの興味を引くための、ペレの大ウソだったりして?