過敏性腸症候群(IBS)の治療
過敏性腸症候群診療(IBS)診療ガイドライン
「過敏性腸症候群(IBS)に対するガイドライン」が日本消化器病学会から刊行されたのは2014年になります。
ガイドラインというのは診療指針ともいい「特定の診療状況において、適切な判断を行うため、臨床家と患者を支援する目的で系統的に作られた文章」と定義されています(米国医学研究所 1990)。
つまり、病院ごとや医療者毎に治療方針がことなると患者さんもどこに行ったら適切な検査や治療が受けられるか分からないので統一した方針を作ろうという目的のために作られています。
ただし、病気や生活、仕事といった背景事情は個人個人で異なっているため、ガイドラインに書いてあることが全ての状況、全ての人で最適とは限りません。
例えば、過敏性腸症候群で第三段階の治療としてガイドラインに挙げられている心理療法は保険が通っていません。
加えて、実施できる治療者も少ないので、治療を例え受けてみたいと希望する方が居ても必ずしも治療を受けることができません。
このように、ガイドラインは必ずしも現実にできる治療と一致しないことがある点には注意が必要です。
過敏性腸症候群(IBS)の治療
一般的な治療およびその方向性についてはガイドラインや同じく消化器病学会が出している「過敏性腸症候群(IBS)患者さんとご家族のためのガイド」に分かりやすく書いてあります。
また、本ホームページにも書いてあるのでそちらも参考にしてください。
非常に大まかに言えば過敏性腸症候群(IBS)の治療は段階を踏んで治療していくことが勧められています。
日本は保険診療のため、通常の診療で出せる薬には限りがあります。
このため、食事や生活習慣の改善、消化器内科や一般内科で処方できる消化管に対する薬物治療をしても改善しない場合は第二段階としてで心療内科や精神科での治療を追加することも考慮が必要です。
また、薬物などでの改善が難しい場合は第三段階として心理療法を追加することも推奨されています。
心療内科や精神科の受診を勧めるのはいくつかの理由があります。
一つは、本当に心理的な側面が大きな理由であればその治療を優先させる必要があり、その判断をしてもらうためです。
しかし、確かに過敏性腸症候群(IBS)において心理面は無視できない要素ですが、どんな病気でも多かれ少なかれ心理面には影響を与えます。
精神科や心療内科の受診を勧める別の理由としては日本では抗うつ薬の処方が簡易精神療法が一般内科や消化器内科ではあまり一般的に行われていない背景があります。
もちろん薬の処方や適量は決められているのでそれに従って処方することは可能です。
餅は餅屋ではありませんが、どんな薬剤も副作用や効果がでるまでにどの程度経過を見るべきかは異なります。
実は抗うつ薬は過敏性腸症候群(IBS)の症状の中でもとりわけ痛みに対しての治療効果が期待されます。
しかし、副作用で食欲不振などが出現することがあることも分かっています。
副作用が出現したときに即刻中止すべきか、ある程度の症状であれば数日で改善する可能性があるものなのかなどの判断は使い慣れていないと難しいこともあります。
また、効果が出ない場合も内服を変更すべきか容量をもう少し増やすべきかなどの判断は慣れていない内服に関してはどうしても及び腰になってしまいます。
このため、抗うつ薬や抗不安薬を処方するには、処方に慣れた先生の方が安心できるというのもあり、私は一般の内服で効果がない方で、抗うつ薬などが効果がありそうな方に対しては、一度精神科や心療内科などで診断と治療を兼ねて受診していただくのを勧めています。
加えて一般の外来で「じっくり話を聞いて」というのはなかなか難しいものがあります。
しかし、話を聞いて整理していくと実は生活習慣に問題があったり、不安に対する感受性が強かったりとそれぞれ病状を悪化させる原因が分かってくることもあり、話すことで病態を整理するのは非常に有効な治療です。
全ての病院や医院ではありませんが、精神科や心療内科には臨床心理士や公認心理師などは話を聞き、整理を手伝ってくれるプロがいるところもあります。
残念ながら過敏性腸症候群(IBS)のような慢性疾患に関して、話をじっくり聞いて、さらに病態を整理する手伝いをする時間を一般の診療の間でとることは今の日本の診療体制では非常に困難となっています。
このため、「話を聞いてもらう」プロの手を借りることができるかどうかについても精神科や心療内科で相談するのも一つの治療だと考えられています。
生活習慣の中でも睡眠や食事に関してはまた別の項に書かせていただきます。
素材
写真AC クリエイター:シルバーブレットさん
図 IBS診療ガイドラインを参考にパワーポイントで菊池が作成
リンク
「過敏性腸症候群(IBS)患者さんとご家族のためのガイド(https://www.jsge.or.jp/guideline/disease/ibs.html)」