新型コロナウィルスが引き起こす「引きこもり芸術鑑賞」
中国をはじめ、各国で猛威を奮っている新型コロナウィルス。感染拡大を防ぐために、不要不急の外出を控える傾向が強まっています。けれど! 外出したい! 美術館に行きたい! でも行けない! という状況の中で生まれた苦肉の策をご紹介していきましょう。
臨時休館にまで追い込まれる美術館・博物館業界
中国をはじめ、各国で猛威を奮っている新型コロナウィルス。新型コロナウイルス感染症の対策として、風邪症状や発熱などの症状がない人にも出来る限り対面での接触を控えるようにという「お願い」が厚生労働省から発表されました。
この1~2週間の動向が、国内で急速に感染が拡大するかどうかの瀬戸際であると考えています。そのため、我々市民がそれぞれできることを実践していかねばなりません。
特に、風邪や発熱などの軽い症状が出た場合には、外出をせず、自宅で療養してください。(中略)また、症状のない人も、それぞれが一日の行動パターンを見直し、対面で人と人との距離が近い接触(互いに手を伸ばしたら届く距離)が、会話などで一定時間以上続き、多くの人々との間で交わされるような環境に行くことをできる限り、回避して下さい。
厚生労働省HPより「新型コロナウイルス感染症対策の基本方針の具体化に向けた見解」
このような状況の中で、美術館や博物館では展覧会イベントやギャラリートークを軒並み中止。国立博物館をはじめ、休館を選択する施設も出てきています。
休館とまでは行かなくても、館内にアルコール消毒液を設置したり、来館者対応をするスタッフはマスクを着用したりと、感染防止に努める施設がほとんど。
新型コロナウィルスに対して切羽詰まった雰囲気がある中で、美術館や博物館といった施設には気軽に行けなくなるのはなんとも悲しいです……。
なにより、「どこかに出かけたい!」「1日中家の中にいるなんて、クサクサしてしまうぅ!」というアウトドア派からすると、元気はあるのに外出できないなんて、最早軟禁。だからといって無闇に出かける訳にも行かないので、こうなれば全力で引きこもって美術鑑賞することにしたのです。
1人でじっくりねっとり美術鑑賞
美術館や博物館に行きたい欲を満たすなら、インターネット上で楽しめるヴァーチャルミュージアムが手っ取り早い鑑賞術です。美術鑑賞はやっぱり本物を見るのが一番でしょという保守派のワタシですが、バーチャルミュージアム上の作品は高精細なので、作品をつぶさに見ることができます。
実際の美術館だと人が多くてよく見れなかったり、作品に近寄り過ぎると注意されることもありますが、バーチャルは心ゆくまで鑑賞できるのが強み。本物を見たことがある作品なら、それを観た時の雰囲気も感じられるので、好きな作品から探してみるのがオススメです。
その名の通りGoogleが展開する、美術作品や文化に触れることができるサービス。「MoMA美術館」(アメリカ)や、「オルセー美術館」(フランス)、「ロンドンナショギャラリー」(イギリス)といった有名美術館をはじめ、「ゴッホ美術館」(オランダ)や「ムンク美術館」(ノルウェー)など巨匠の美術館も参加しており、有名な作品はほとんど見れるといっても過言ではありません。
日本からも「国立西洋美術館」(東京都)や大原美術館(岡山県)、「砂の美術館」(鳥取県)など多くの施設が参加。アーティストや所蔵元だけでなく、時代や芸術運動といったカテゴリでも検索可能。そのため、1つ見始めると、「あっ、この人の絵も好きかも」「この絵も良いなと」芋づる式に気になる作品に出会えます。
「HASARD(アザー)」は“誰でも・いつでも・無料で”アートを楽しめる事をコンセプトにしているオンライン美術館。超高解像度の画像が使用されているとともに、展示会形式で見ることができるので、本物に近い感覚で作品を鑑賞できます。 現在進行形で活躍する作家はもちろん、浮世絵師の川瀬 巴水や、フィンセント・ファン・ゴッホ、アルフォンス・ミュシャといった巨匠作品も展示。
「ハマスホイ」や「マネ」などのオンライン展示会は実際に東京都美術館、愛知県美術館で開催中の展覧会とも作品が数点被っているので、実際の展覧会に行けなくなったという人は「HASARD」で見ておくという手も。
2020年1月24日(金)~4月20日(月)
2020年1月21日(火)~3月26日(木)
2019年9月5日(木)~2020年4月5日(日)
2020年1月3日(金)~3月15日(日)
広島県立美術館の公式HPでは、バーチャルツアーやバーチャルギャラリーなど、VRの技術を使った鑑賞法が提案されています。広島県立美術館に実際訪れているかのように、館内を散策したり、広島県立美術館が所蔵する作品を鑑賞。
VR用のヘッドセットを一緒に使えば、よりリアルな鑑賞ができます。
動画で気軽に芸術鑑賞
自宅で楽しめるエンターテイメントの代表といえば動画。アートに関する見識を簡単に手に入れられるので、引きこもり中に気になった作品やアーティストに関する見識を深めておくと、その後の鑑賞に何かと役立ちます。
テレビ番組編
王道はやはり、テレビ番組。山田五郎の博識さと、何年経っても素人新鮮な目線で鑑賞するおぎやはぎとの掛け合いが楽しませてくれる「ぶらぶら美術・博物館」(BS日テレ)や、40年を超える長寿番組の「日曜美術館」 「日曜美術館アートシーン」(NHK)など、アートに特化した番組が定番です。
同じNHKでもEテレで放送されている「びじゅチューン」は、世界の“びじゅつ”を歌とアニメで紹介する番組。むずかしい説明は一切なし。というか、作品を全く関係ない角度で解釈しているので、アートというジャンルへのハードルが一気に下がります。
個人的にお気に入りなのは、《ヘルスチェックインザヘル》。平安時代の絵巻《地獄草紙》が発想の源で、見終わった後に思わず口ずさみたくなるキャッチーさが魅力です。公式サイトではこれまでの作品が全て見れるので、お子さんがいる方はぜひ一緒に。
YouTube編
番組録画の習慣がない人には、Youtubeにも美術館やアート番組の公式チャンネルもあります。ただ、公式チャンネルは動画投稿がゆったりな傾向にあるので、最新版を見たい人にとっては物足りなりですね。
現代アートを得意とする、東京・六本木の「森美術館」公式チャンネル。展覧会のトレーラーや関連プログラムが中心。森美術館がどんな美術館かを簡単に知ることができます。
東京・丸の内の「三菱一号館美術館」公式チャンネル。プレス内覧会の動画がアップされているので、主催側の意図などを知ることができます。方向感覚の鈍さに自信がある方は、美術館への行き方動画も必見。
現代美術を中心とした作品を収集・保管・展示する、大阪・中之島の「国立国際美術館」公式チャンネル。インタビュー動画が充実しています。原美術館で開催の「森村泰昌:エゴオブスクラ東京2020―さまよえるニッポンの私」(2020年1月25日‐4月12日)のアーティスト・森村泰昌のインタビュー動画もあるので、併せて見ても。
時間がたっぷりあるなら、映画や書籍で暇を埋める
まとまった時間がある時は、映画やドラマ、本などある程度時間がかかるもので引きこもるに限ります。優れた映画や本はたくさんありますが、既に多くの人が素晴らしい紹介を発表されています。そのため、ここではライター・あっちんぶぅの独断と偏見のもと選ばれた作品を紹介します。
映画編
- 《ダ・ヴィンチ・コード》2006
- 《天使と悪魔》2009
- 《インフェルノ》2016
ダン・ブラウンによる小説を基にしたミステリースリラー映画。トム・ハンクス演じる宗教象徴学者「ロバート・ラングドン」が自身の知識を駆使しながら謎に迫るヒット映画シリーズです。映画は《ダ・ヴィンチ・コード》が先ですが、小説では《天使と悪魔》が先に出版。
「自分が研究している内容がこんな風に人類を救う事になるとは…」という漫画にありそうなオーソドックスなストーリーが、文化系の中でも文化系のアートジャンルに溶け込んでいます。
美術作品をモチーフにした謎解き要素が強いので、図像学の入り口としても。
- 《永遠の門 ゴッホの見た未来》2018
情熱の画家として有名なヴィンセント・ヴァン・ゴッホ。彼に関する映画は数多くあります。その中でも《永遠の門 ゴッホの見た未来》は比較的新しい映画作品。37歳で他界した主人公のゴッホを演じるのは、67歳のウィレム・デフォー。しかし不思議と違和感はなく、顔に刻まれた皺までも画家人生の厳しさを物語る演出のようです。画面に映る色の対比がゴッホ作品を彷彿とさせますが、作品全体に常に不穏な空気が漂っていて、ゴッホが終始不憫に思えてなりません。
- 《エボリューション》2015
少年と少女しかいない島を舞台とした、ダークファンタジー映画。特にアートと関係ある映画ではありませんが、光を讃える海の描写、前述したデンマーク画家・ハマスホイを彷彿とさせる質素な室内、言葉数少なで語れる人々の陰鬱な様子が、まるで絵画を見ているかのように美しく展開されます。ジョルジョ・デ・キリコの《通りの神秘と憂鬱》に通じる既視感と不気味さで、心にザワザワと波打つような感覚に。芸人で実は映画好きのゴー☆ジャスの決めセリフ「レボリューション」と似ていますが、中身は全く持って正反対です。
ドラマ編
- 《水曜どうでしょう ヨーロッパ・リベンジ》
大泉洋を一躍有名タレントに押し上げた「水曜どうでしょう」のヨーロッパ周遊シリーズ。ヨーロッパ完全制覇のリベンジを目指すこの旅では、北欧を中心に旅をします。途中に立ち寄るムンク美術館で購入したムンクさん(中年女性設定)の道ならぬ恋。そして、永遠に続くかと思われる北欧の地味素朴な風景に精神を蝕まれる大泉洋の姿。大泉洋の「母さぁーん 僕は今 北極圏にいまぁす」と鬼気迫る様子、エドヴァルト・ムンクの叫びに、重なるような重ならないような。
書籍編
- 《フランス人がときめいた日本の美術館》2016
日本美術をこよなく愛するフランス人美術史家・ソフィー・リチャードが“本当に訪ねる価値のある”と感じた美術館のガイドブック。大小問わず扱われており、美術館に行きたい欲が掻き立てられます。BS11で番組化された際には、渋俳優の代表とも言える椎名桔平が語りを務め、余計に美術館に行きたくなりました。
- 《すっきりわかる! 超訳「芸術用語」事典》2014
ルネサンスやロココ、印象派など、ひと口に美術と言っても色々なジャンルがありますが、そのどれもが曖昧でイマイチ分かりにくい。そんな芸術の分かりにくさを助長する名称を、分かりやすく解説した芸術用語本です。例えば、「アヴァンギャルド」は美術の先頭の戦闘的な人々、「エコール・ド・パリ」はパリにいた芸術家のタマゴの外国人など、言葉が意味するものをぼやぁっと解説。キッチリカッチリした説明ではない分、肩の力を抜いて読めます。
- 《醜の歴史》
著者は現代の「知の巨人」と称される、ウンベルト・エーコ。海外や彫刻、映画、文学といった諸芸術における暗黒・怪奇・魔物・逸脱・異形といった、ぞっとするようなものが満載の分厚い本です。エーコによる《美の歴史》と同様の手法を用いて、「醜」の多様性と傾向が研究されており、ヒエロニムス・ボス、フェリシアン・ロップス、サルヴァドール・ダリなど、古代から現在まで様々な作品が登場。かなり分厚い本なので、持ち運びには適さず、途中で何度も挫折しそうになるので、引きこもり中に最適な美術本です。人によっては不快な気分になることを覚悟しなければならないので、不安な方は同じく分厚い《美の歴史》をどうぞ。
引きこもっている今のうちに知識吸収
新型コロナウイルスの影響で外出できないのは誠に残念ですが、感染拡大を防ぐためにも、なるべく外出は避けたいところ。自宅でできる美術鑑賞で、引きこもり中をどうにかやり過ごしましょう。
それでは……ウォンチュー、君のハートにレボリューション!