棒高跳の助走におけるストライド調整
こんにちは!
中京大学大学院の榎です。
前回の「棒高跳の記録と関連する要因はなんだろうか?」とういう記事を読んでいただけたでしょうか?
内容が少し難しめのため、ラジオでも解説しているので時間があるときに聞いてもらえると理解が深まるかなと思います!半分くらい雑談ですが(笑)
前回に引き続き、今回も論文の紹介になります。
前回一緒に紹介するとさらに難しくなると思い、個別で取り上げました。
今回取り上げる論文は、福岡大学の田村先生が執筆している
「棒高跳びの助走におけるストライド調整様式:ストライド調整開始位置に着目して」
です。
論文の原文が読みたい方は以下のURLから取得できます。
では行ってみましょう!
【ざっくり説明すると】
まず、棒高跳の助走に関する研究は少ないです。
国内だと僕の知る限りだと2本です。
「助走の踏切に向けたストライドの調整の仕方が記録の高い人と低い人で違うんじゃないの?それが記録とかと関係しているんじゃないの?」
という疑問からこの研究が始まります。
結論を言うと、記録の高い選手は低い選手と比べて助走前半から踏切のためのストライド調整を行っていると考えられます。
ではどうやってそれを明らかにしたのか、その他の結果について詳細な内容を紹介していきます。
【方法】
対象:室内棒高跳競技会に出場した男子棒高跳選手10名
記録上位群:5名(自己ベスト5m20以上)
記録下位群:5名(自己ベスト4m80以下)
各対象者の試合中の試技全てを対象にしています。
試技の助走をスタートから踏切までビデオカメラで撮影し、動作分析を行っています。
助走中に足が接地した位置を分析し、そのばらつき(SDTB)を算出しています。
【結果】
踏切位置のばらつきの大きさについて、記録が高い人(7cm)と低い人(9cm)で有意な差がありませんでした。
しかし、助走中の接地位置のばらつきが最大となる地点(SDTBmax)について、記録の高い選手は踏切の5歩前から14歩前(平均:23.45m)であったのに対して、低い選手は1歩前から5歩前(平均:8.25m)でした。
つまり、記録の高い選手は助走の前半から踏切に向けてストライドの調整を始めており、記録の低い選手は踏切に近い地点で踏切に向けたストライド調整を行っていると考えられます。
さらに、助走の中で接地位置のばらつきが最大となる地点(SDTBmax)は自己最高記録と踏切速度のどちらとも有意な相関関係が報告されています。
自己最高記録や踏切速度が高い選手は、助走のより前半で接地位置のばらつきが最大となる(SDTBmax)傾向があるようです。
助走前半の加速局面は、加速することが1番の目的であり、接地位置のばらつきを少なくすることが難しいです。
そのため、選手は助走中に接地位置のばらつきを感知し、助走の中盤から後半部分においてストライド調整を行っていると推察されています。
【まとめ】
今回紹介した研究の結果からは、記録の高い選手はより早い段階で踏切位置に向けてのストライド調整を行っており、より減速を抑えて踏切が行えているようです。
また反対に記録の低い選手はストライド調整を、助走の後半である踏切の直前に「あ、やべっ!」となりながら急に調整するため、大きく踏切速度を減少させていることが考えられます。
踏切の速度を減少させずに踏切れるように、早くから意識的にストライド調整ができると良いかもしれません。
そのためには、助走の練習、また適切な中間マークの設置とチェックを欠かさずに行いましょう!