【一口コンロで食べて書く】母とジョーズと自炊と ーサメの煮物ー
よく「そこまで作って食べることにこだわるのはなぜですか? 」
と質問されることがあるのですが、
それは間違いなく母が作ってくれた料理の影響だ。
我が家の食卓はおかずが基本的に2-3品、
お味噌汁と炊きたてのご飯がデフォルト。
我が家は当時としてはまだ珍しかった共働きの家庭だったけれど、 どんなに忙しくても食卓に
「出来合いのお惣菜」が並ぶことはなかった。(だから幼い私にとっては、デパ地下のお惣菜が憧れ。)
そんな母が作ってくれる料理の中でも大好きなおかずがいくつかあって、
そのひとつが魚の煮物。
料理というのは不思議なもので、「母の味」は覚えているのに同じ味にならない。
同じ調味料を使って、作り方も知っているのに、同じ様にしてもその人と同じ味にはならない。
私が好きなギタリストもそういえば同じ様なことを言っていた。
その人が使っているギターを借りてみて、同じコードを弾いても決して同じメロディは奏でられないとか。料理もそんな感じ、だろうと思っている。
一人暮らしを始めて2年が経ち、狭いキッチンであの日の母を見習い、
どんなに忙しくても「出来合いのお惣菜」に頼らずなるべく自炊派の私。
一口コンロを駆使して作る料理のお手本はもちろん母の味。けれども、どんなに数を作っても”同じ味”が生まれたことは今だにない。
昨晩はそんなことを考えながらおもむろにキッチンに立ち、スーパーで安かったサメを使い、母がよく作ってくれた「サメの煮物」を作った。(どうやら世間ではあまりポピュラーではないらしいが、我が家の食卓にはサメの煮物がよく並んでいた。)
幼心に、映画「ジョーズ」で見た無敵の魚を食べたのは、なんだかサメに勝った気分だった。
サメだって人の胃袋に入ってしまえば、ちょろいもんだって。
大根と一緒にコトコト煮て、味がじっくり染みた今朝、
ご飯・お味噌汁と一緒に私の胃袋へ。
柔らかく煮えて、味が染みたサメ。
そうそう、このふっくら感とさっぱりした味はブリにもマグロにも出せないんだよね、なんて思ったり。出来具合はいい感じ、でもやっぱり母と同じ味にはならなかった。全然ちょろくなかった。
けれどもなんだか懐かしくて、朝ごはんなのに、あの頃の夕ご飯を思い出させてくれた。
私が食べる理由はこれなんだろう。