#三橋貴明 シェアエコという搾取・無責任ビジネス
三橋貴明氏「シェアリングエコノミーという搾取・無責任ビジネス」の 前編、後編をまとめました。
「三橋貴明 Ameba オフィシャルブログ」様よりシェア、掲載。ありがとうございます。感謝です。
シェアエコという搾取・無責任ビジネス(前編)
ドライバーを従業員ではなく「個人事業主」として扱い、会社の利益を最大化する。
あるいは、顧客と個人を結びつけるプラットフォームのみを提供し、チャリンチャリンとカネを稼ぐ。
総称して「シェアリング・エコノミー」と呼ぶことに致しますが、この種の搾取ビジネスについては、三橋TVで室伏先生が解説して下さいました。
三橋TV第124回【新・貧困ビジネス「シェアリング・エコノミー」】
すでに、日本でもアマゾンフレックス、ウーバーイーツという形で始まっています。この種のモデルは、搾取ビジネスであり、「全ての責任を労働者(及び顧客)に押し付ける」無責任ビジネスでもあります。
今年3月、パソナ取締役会長の竹中平蔵大先生らが巣くう未来投資会議が、白タク解禁を議論しました。白タクが解禁になると、
〇 ウーバーがぼろ儲け(チャリンチャリン)
〇 既存のタクシー会社が潰れるか、さらなる低価格競争。ドライバーは失業か、貧困化(すでに貧困化していますが)
〇 ウーバーのドライバーは例により「自己責任」。何の保障もなく、労働力を買い叩かれる
〇 顧客は身元不明なドライバーのタクシーに乗らざるを得ない。
という状況になるわけですが、すでにウーバービジネスが進んだ各国では、上記モデルが問題視され、規制が始まっています。
11月26日、イギリスのロンドン交通局は、ウーバーに対し、ロンドンでの営業認可を新たに与えない方針を明らかにしました。理由は「安全面の問題」とのことです。
具体的には、個人タクシー免許のない人物が、ドライバー登録できている、免許を取り消されたドライバーも、普通に登録できている。などなどですが、要するに無管理状態のようです。
ウーバー側は、
「過去2カ月にわたってすべてのドライバーを監査しており、手続きも強化している」
と反論していますが、いずれにせよドライバーは「従業員ではない」のです。どこまで管理できるのか、疑問です。
そもそも、ドライバーを従業員ではなく、個人事業主として扱い、管理しないことで利益を膨らませるのがウーバーを初めとするシェアリング・エコノミーの肝です。危ないドライバーの車を停めてしまい、犯罪にあっても、
「そりゃあ、顧客の自己責任」」
でございますよ、ハイ。
『ウーバーの性的暴行被害、2年間で5981件
サンフランシスコ(CNN Business) 米配車サービス大手のウーバーが5日に公表した安全性に関する報告書で、2017~18年にかけて報告された性的暴行被害が5981件に上っていたことを明らかにした。
このうち464件はレイプ被害だった。
ウーバーをめぐっては、CNNの調査報道で昨年、それまでの4年間で米国内の運転手少なくとも103人が、乗客に対する性的暴行などの罪に問われていたことが判明した。運転手は逮捕されたり警察に指名手配されたり、民事訴訟を起こされたりしている。(後略)』
シェアリング・エコノミーが「本当に怖い」と思うのは、人間(労働者)の「雇用や所得を安定させたいという欲求」を無視する点です。
マズローの欲求5段解説では、下から「生理的欲求」「安全欲求」「社会的欲求」「承認欲求」「自己実現欲求」となっていますが、人間が生きる上で基盤となる「安全欲求」を「満たさない」モデルなのです。
安全欲求とは、経済的に安定したい、健康状態でありたい、危険から身を守りたいといった欲求になります。
通常のタクシードライバーの犯罪が、なぜ少ないのか。それは、ドライバーが「会社の従業員」として「雇用の安定」を手に入れているためです。犯罪に手を染めた日には、基盤的欲求である「安全欲求」が満たされない状況になるわけですね。
露骨な書き方をすると、安定を失う恐怖が、犯罪への欲望を上回るのです。(※タクシードライバーが、特に犯罪傾向があると言いたいわけではありません。人間全般の話です)
それでは、雇用や所得の安定が全く認められていないドライバーの場合は・・・・? そりゃあ、確率的に犯罪に手を染めるケースが増えるでしょう。何しろ、「安定を失う恐怖」がないわけですから。
また、労働者側に「雇用・所得の安定」がないということは、これは露骨なデフレ化政策になります。MMTのJGP(雇用保障プログラム)の逆ですね。
労働者の雇用や所得が不安定で、消費が増えず、デフレから脱却できない。デフレで失業者が増える。すると、雇用や所得が不安定な労働者が増える。ウーバーがますます儲かる、というわけですね。
日本では、経済産業省までもが頭がおかしくなっているようで、フリーランス(個人事業主)を「多様で柔軟な働き方」と礼賛し、兼業・副業も進めている有様です。確実に、ウーバー的なビジネスが「儲かる」方向に規制が改革されていくでしょう。
アマゾンフレックスにせよ、ウーバーイーツにせよ、登録した個人事業主は、「好きな時間に働ける」という建前になっており、それを「餌」としてアピールしていますが、実は話は逆で、
「企業側が必要とするときのみ、仕事がある」
というのが現実なのです。何しろ、そもそもが企業サイドの「コスト削減」が目的で始まったビジネスモデルです。
企業のビジネスの都合で、普通に「仕事がない」状況は起きえます。安定した所得など、望むべくもありません。各種の保険(年金や医療保険など)も、自己負担。
しかも、運送手段(軽トラックやバイク、自転車など)は「個人事業主」が自ら用意せねばならず、その上、何かあっても「自己責任」です。
自転車でウーバーイーツの宅配に従事していたとして、熱中症で倒れたとしても、ウーバーや飲食店側は何の責任も負いません。すべては、自己責任。
以前、サムスン電子サービスの契約社員だったチェ・ジョンボム氏が、32歳の若さで自殺した事件がありましたが、氏がサムスンという世界的大企業の関連会社の社員でありながら、「時給制」(出来高制)で働いていたことを知り、ショックを受けたことがあります(覚えていますか?)。
つまりは、仕事があるときにのみ働き、ないときには働けない(=給料をもらえない)。チェ・ジョンボム氏は、労組に入った結果、「仕事を与えない」形で圧力を受けます。わたくしと同じく、乳児の娘がいた氏は、
「腹が減っては暮らせない」
という言葉を残し、自殺。悲しい事件でした。
この種の「ビジネス」が繁栄する社会は「間違っている」と、声を大にして言いたいのです。
シェアエコという搾取・無責任ビジネス(後編)
日本でもすでにアマゾンフレックスやウーバーイーツなど、搾取・無責任ビジネスが広がりつつあります。
ちなみに、わたくしはAmazonの当日配送等、高度なサービスを否定するわけではありません。とはいえ、
「高い品質のサービスを提供するならば、フィー(料金)を取るべき」
と、主張しているわけです。顧客から高く代金を頂き、運送業、現場でラストワンマイルを運ぶ「生産者」に貢献するべきでしょう。
十分なフィーが取れるならば、ヤマト運輸や佐川急便などの大手が引き受けるでしょう。ペイしないようなフィーしか払わないのでは、大手は「従業員」を守るためにAmazonの荷は受けません。
というか、受けた場合はヤマトや佐川が「搾取」型になってしまいます。
適正フィーを払うのは嫌、でも大量の荷をさばいて儲けたいという、実にエゴイスティックな理由で、Amazonは「個人事業主と契約し、リスクは全部事業主側に押し付ける」形でアマゾンフレックスを始めたわけです。搾取・無責任型といわれても仕方がないでしょう。
また、個人的にアマゾンフレックス以上に問題だと思うのが、ウーバーイーツ。
Amazonはまだしも「自分のビジネスの荷」を個人事業主に運ばせているわけですが、ウーバーは違います。ウーバーは、飲食店と顧客の間をつないでいる、本格的なシェアエコになります。
先日、ウーバーイーツの報酬体系見直しを受け、ウーバーイーツの労働組合ウーバーイーツユニオンが、渋谷のウーバー・テクノロジーズを訪れ、団体交渉を求める申し入れ書を提出。連合の神津会長も同席しました。
『ウーバーイーツの労働組合、報酬下げの説明要求
ウーバーイーツの配達員らがつくる労働組合「ウーバーイーツユニオン」は5日午前、米ウーバー・テクノロジーズの日本法人(東京・渋谷)を訪れ、団体交渉を求める申し入れ書を手渡した。ウーバー側が一部地域で報酬体系を見直しており「一方的な切り下げ」として説明を求めている。(中略)
ウーバーイーツユニオンに参加する6人は、ウーバー日本法人で、団体交渉を求めたもののオフィスへの立ち入りを断られ、5日午後に会見を開いた。執行委員長の前葉富雄氏は「合理的な説明もない報酬引き下げに強く抗議し、違法な団交拒否を止めるよう求める」とした抗議声明を出した。ユニオンの弁護団は20年1~2月にも労使紛争の解決機関である労働委員会に申し立てる方針を示した。
また、同日の会見には連合の神津里季生会長も出席。ウーバーイーツの配達員について「労働者性をもった働き方で、本来団交拒否というのはありえないと思っている。連合としてもいろんな場で協力していきたい」と話した。(後略)』
ウーバー・テクノロジー側は、ウーバーイーツの配達員について、
「労働組合法上の『労働者』に該当しない」
と、団交を拒否する姿勢を見せています。
法的に見た場合、個人的にはウーバー・テクノロジー側が正しいように思えます。ウーバー・テクノロジーは配達員と「業務委託契約」をしているわけで、いわば外注です。外注先の「労働者」にまで責任を持てといわれても、普通は無理です。
とはいえ、実体として配達員たちはウーバー・テクノロジーの「従業員」も同然でしょう。神津連合会長の言う通り、「労働者性をもった働き方」です、間違いなく。
要は、この種のグレーゾーンを活用し、真面目に働く生産者を搾取し、自己利益最大化を狙うというモデルなのです。そもそも、ウーバー的な雇用形態を認めない、という方向に世論を動かす必要があります。
ちなみに、ウーバーイーツ的な働き方を「ギグワーカー」といいます。ギグワーカーとは、
「インターネットを通して単発の仕事を受注する労働者」
という意味なのですが、要するに不安定雇用・不安定所得を「いい感じ」に言い直しているだけです。ギグワーカーの経済をギグエコノミーと呼びますが、マスコミでは例により、
「ギグエコノミーにコミットしよう」
というアホ丸出しの煽りがなされているため、今後も広がっていく可能性が濃厚です。
結果、日本の労働者がひたすら搾取され、顧客も不便(あるいは危険)な状況になっていくのですが、加えてギグワーカーとやらは、派遣社員以上に「生産性の向上」が見込めないでしょう。何しろ、仕事そのものが不安定で、その上、企業へのノウハウ蓄積が前提になっていないのです。
わたくしは、「人材」の生産性を高める最大の手段は、経験によるノウハウの蓄積だと確信しています。その機会を、奪うのがシェアエコというわけです。
シェアエコならぬ「搾取・無責任型の外注」が流行っていくと、結局は日本企業のコア・コンピタンス(中核的能力)が痛めつけられ、真ん中で「抜く」プラットフォーマーのみがひたすらカネを儲ける「経済」になっていくのだと思います。
シェアエコでもギグエコでも何でも構いませんが、この種の「国民を搾取し、経済力を落とす」搾取・無責任型ビジネスの拡大を食い止めなければなりません。