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中小企業の中南米進出を支援するビジネスコラム

本邦企業が中南米との貿易でTPP11をどのように活かすか(その2)

2020.03.07 01:54

 前号では世界を取り巻く貿易協定を概観してきました。貿易協定にはいろいろな呼称がありますが、二国間の「FTA/EPA」と近年の大きなトレンド「メガFTA」の新旧二種類に大別できるといった話です。今号では、メガFTAの一つであるTPP11でどのようなメリットがあるのかを見ていきます。


1. TPP11でどのようなメリットがあるのか


 TPPの協定内容は米国の主張の多くを参加国が受け入れ、その見返りに米国の巨大市場へのアクセスを向上させることが大きな目的といえましたが、ご存知のとおりトランプ政権の保護貿易によるTPP離脱で大きな波乱が生じました。米国を含むTPP12は宙に浮いた形ですが、日本政府が強力な調整力を発揮してTPP11の発効にまで至ったのは、トランプ政権の想定外のことだったかもしれないと言われています1)。この点については、「いいぞ、日本!」って感じしませんか。様々な利点を持つTPP11ですが、その大きなものとしては、①既存のFTA/EPAより更に関税が下がる、②参加国の間で「海外から海外(Out-Out」の自由貿易が実現する(本邦企業が東南アジアで製造した製品を中南米へ直接輸出するなど)、③サービス貿易の規制が多く緩和される(これにより、政府調達の巨大な市場の門戸が開かれるなど、多様な機会が得られます)、などです。


2. TPP11による二国間FTA/EPAを上回る関税の撤廃と削減


 中南米ではメキシコ、ペルー、チリがTPP11に参加していますが、日本は既にこれらの国々と二国間FTA/EPAを発効させ、多くの品目で関税が撤廃、削減されています。しかし、TPP11が発効されれば、更に多くの品目が関税撤廃・削減の対象となります。例えば、ペルーでは、二国間FTA/EPAでの特恵関税率2)の適用品目数が88%ですが、TPP11では97%までが対象となります。さらに二国間FTA/EPAには含まれない冷凍食品、農産加工品などのペルーから日本への輸出では発効の即時に、関税が撤廃されます3)。同輸出のケースでは、加工食品以外に果物などでも関税メリットが発生します4)。例えば、ブドウでは2018年の二国間FTA/EPAでの関税率は2.1~8.5%となっていましたが、それは発効後に即時撤廃されます。オレンジでは発効後6年目に関税が16~32%であるものが9%にまで削減されます。

 もっとも、その発効のためにはペルー国政府内での手続きが必要なのですが、未だその作業を完了していません5)。ただし、余談ながら日本とペルーとの間の租税条約が2019年11月18日に署名され、これにより二重課税や脱税が回避され、両国間の投資・経済交流を一層促進することが期待されています6)

 今号も最後まで読んでいただきましてありがとうございました。2017年9月1日に掲載を始めた本コラムは、今号で50号となりました。これまで多くの方々に読んでいただき感謝しております。今後もどうぞよろしくお願い致します。



1) 「稼げるFTA大全」羽生田慶介、日経BP社、2018年7月16日.

2) 特恵関税制度は、開発途上国又は地域を原産地とする特定の輸入品について、一般の関税率よりも低い税率を適用して、開発途上国又は地域の輸出所得の増大、工業化の促進を図り、経済発展を支援しようとするもの。日本の特恵関税制度は、1971年8月から実施されており、法令(関税暫定措置法及び関税暫定措置法施行令)により適用を受けることができる国及び地域、対象品目並びに関税率を定めている。特恵関税を適用する品目及びその関税率は、農水産品と鉱工業品に分けて定めている。農水産品については、一部の品目を対象としており、その関税率は品目ごとに異なる。鉱工業品については、一部の例外を除く全ての品目を対象としており、その関税率は原則として無税だが、一部有税のものがある。「1501 特恵関税制度の概要(カスタムスアンサー)」税関、https://www.customs.go.jp/tetsuzuki/c-answer/imtsukan/1501_jr.htm

3) 「輸出市場の多角化を期待するも、国内課題が山積(ペルー)、TPP11発効に対する見方」JETRO地域・分析レポート、2019年1月7日.

4) 「FTA先進国チリとペルーのCPTPP活用法」JETRO地域・分析レポート、2018年6月22日.

5) 「土屋定之駐ペルー大使講演会-ペルー共和国の情勢-」(一社)ラテンアメリカ協会講演会、2019年10月15日.

6) 「報道発表 日・ペルー租税条約の署名」外務省、2019年11月19日.