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精霊の庵 - 無名の絶滅危惧昆虫

カエルキンバエ

2020.03.07 12:25

Lucilia (Bufolucilia) chini Fan, 1965 

クロバエ科 

体長・5-7mm 

分布・本州、中国大陸 

環境省レッドカテゴリ・情報不足  

全身が金緑色で、同属近縁種に比べて体が細身かつ小型。色彩には変異が多く、また近縁種も同様な色彩をしているため、ぱっと見でそれらと本種は区別できない。外見上、唯一にして確実な識別ポイントは、腹部第3節(このハエの仲間は腹部第1-2節が融合して一つに見えるため、見た目上は第2節)の背面側の後方中心寄りに、明らかに周囲のものより長大な剛毛が一対立つこと。斜め前方か後方から見ないと、この毛の生え方はよく分からないが、なぜかネット上で本種の標本画像を挙げている幾つかのサイトは、頑なにその角度からの写真を出さない所ばかり。

白い矢印で示したのが、問題の剛毛。この特徴により、少なくとも国内ではこれに外見の似た全ての同属近縁種と区別できる。

水田や湿地帯など、水がふんだんにあってカエルが多く生息するような環境に限り見出されるハエ。これまでに生息が確認されており、なおかつ今も確実に多産する場所は、全国的にもかなり限られる。成虫は春と秋の2回出現するとされ、私の観察では7月上旬に一度生息地から姿を消すようだった。成虫は水辺のキク科植物の花に訪れるほか、腐敗した動物質のものに集まる。古い文献には腐敗物に来ないと記されたものもあるが、今ではそれを否定する観察例が多い。

幼虫が野外で発見されておらず、生態が不明。海外に住む同じ亜属の種は、幼虫期に生きたカエルに取り付き食い殺す習性が知られている。そのため、本種もこれに準ずる生態を持つと長らく考えられていたが、近年になって人工的に飼育が試みられ、メスは生きたカエルには産卵せず腐肉に産卵すること、孵化した幼虫は腐肉で問題なく成虫まで育つことが判明した。

ただし、本種の幼虫が野外でもこれと同じ経過をたどって成虫になるかは、きわめて疑わしい。どこにでも存在しうる腐肉を食らうハエが、湿地帯にしか生息しない希少種になるはずがないからだ。野外での幼虫発見が、今後の課題であろう。もしかしたら、怪我や病気などイレギュラーな状況に陥り、弱ったカエルを専門に襲う可能性も否定できない。

水辺環境の開発や、水田での過剰な農薬使用、さらに、もしカエルに依存するならば全国的に進むカエルの減少も、本種の生息に悪影響をなすことは想像に難くない。


※引用文献

大原賢二(2015) カエルキンバエ。環境省編 レッドデータブック2014 5。ぎょうせい、東京。pp.490.

Yoshizawa S,Tachi T (2013) Boilogical note on Lucilia chini Fan in Japan, with description of the mature  larva (Diptera: Calliphoridae). Makunagi 25: 17-22.