ブラック先生の個別指導塾日記003「宿題忘れ」
僕は、勉強が、できない。
覚えた、ことは、すぐに、忘れてしまう。うまく、話せもしない。何か、考えようとすると、頭の中が、ぎゅーってなって、何も、考えられなくなる。
授業中の、先生の、お話も、宇宙語で喋ってるみたい。よくわからない。テストも、良い点は、取れない。取れるわけない。そのうち、怒られも、しなくなった。
僕は、頭が悪いから、勉強なんて、やっても意味ないと、思った。でも、お母さんに、言われたから、仕方なく、塾へは、通い始めた。オススメの、塾が、あるらしい。
どうせ、やっても、無駄だろう。そんな風に、思ってた。
「それは能力じゃない。姿勢の問題だ」
塾に通って、2日目。初日に出された、宿題を、忘れた僕を、先生は、叱った。怒られたのに、なんでか、ちょっとだけ、嬉しかった。
「いいかい。やるかやらないかに、能力は関係ないよね」
うん、と頷いて、「ごめんなさい」と、謝った、僕の目を見て、先生は、今度は、笑顔で、言った。
「君ならできるから、安心してやってきてごらん。…と、その前に今日の授業を始めようか」
ここは、海が見える、塾。塾長は、クマみたいな、黒い先生。いつも、元気に、挨拶を、してくれる。僕の、先生は、だいぶ若めの、痩せた先生。優しそうだけど、怒ると、意外と、怖かった。ここは、家からは、ちょっと遠いけど、お母さんが、送り迎えを、してくれる。そんな、お母さんのためにも、頑張らなくちゃとは、思ってる。わかってる。
授業が、終わって、先生は、また僕の目を、見ながら言った。
「これは僕と君の約束。もう一回約束しよう。この宿題をやってきてごらん」
それは、授業中に、何度も、確認して、僕ができていたところの、やり直し。問題数も、ちょっとだけ。これはやらねば、と心に誓った。これならできそう、と僕は燃えた。
のだけれど。
1日寝て起きると、途端に、あのやる気は、消えちゃった。一体どこへ行ったんだろう。あんなに、あったのに。宿題の、ページも、ノートに書いてなくて、あれ、どこだったっけ、って感じ。
あー、やっぱり僕はだめだ。なんて、思ったことも、すっかり忘れてた、次の日の、夕方。僕は、駅で、バッタリ、塾長先生に、出会った。
「おお、こんちは。今日も陽気に生きとるか」
塾長は、相変わらず、大きな、声だった。でも、僕の、逸れた、目を、確認して、何かを、悟ったのか、ちょっと、とぼけた感じで、こんな風に、言った。
「えーと、確かプリントの13ページの右側だったよな。君の宿題は。さぁ、初の宿題攻略なるか。明日の授業、山本先生と期待して待ってるよ」
僕は、走って帰って、すぐにカバンから、プリントを引っ張り出して、ぐちゃぐちゃになってた、それを引っ張って広げて、ノートを開いて、一問目に、取り掛かった。あれだけできてたのに、すぐにはわからなかった。どうやるんだっけ、どうやるんだっけ。焦りながら、僕は、山本先生の、言葉を、思い出した。
「君ならできるから、安心してやってきてごらん」
僕は、息を吸って、吐いて、もう一度、問題を、見た。声に出して、読んでみた。そうだ。わかった。そうだ、そうだ。
途中、挨拶も返事も、しない僕を、パートから、帰ってきた、お母さんが、心配して見にきたけど、僕の後ろ姿を見て、そっとドアを閉めたのがわかった。食後に、アイスがついてた。
「乗り越えたな」
僕の宿題を、見た先生は、ニカって笑いながら、僕とグーパンチをした。少し、間違いもあったけれど、ほとんどできてた。
「小さな一歩だけど、これは大きな一歩だ」
先生が、よくわからないことを言った。でも、僕は、嬉しかった。
「さ、一歩ずつ、世界を広げていこう」
僕は、勉強ができない。
覚えたことは、すぐに忘れてしまう。でも、ポケモン150匹以上、言えることを思い出した。あれ、もしかしたら、僕にも、できることがあるかも。できる勉強が、あるのかも。
もっと広い世界に向かって、歩いてみようと、思った。
宿題忘れ
宿題とは先生との約束です。約束を破ることは人として良くないことです。ただ、その宿題に込められた意図ややる意味がわからなければ、必ず前もって確認するようにしましょう。先生たちは、あなたを苦しめたくて宿題を出すわけではありません。
本日もHOMEにお越しいただき誠にありがとうございます。
自分なりのペースでいいんだ。