詩誌 馬 創刊号
今までは、当店では新刊を扱うことは今まであまりなかったのですが、昨日に引き続きこちらも新刊の紹介です。
「詩誌 馬 創刊号」限定50部
リソグラフで印刷された、まるで戦前の機関紙のような雰囲気の漂う詩の同人誌です。
大正から昭和初期にかけて作品を残した農民詩人、猪狩満直の詩四篇と、詩誌馬の同人ГЕによる木版画作品からなる12ページの詩の冊子。
驚くべきは、そのテキストの印刷です。既存の活字を使っているのではなく、一字一字、版画に掘り起こしたものを使用しているとのこと。
このデジタルの時代に逆行するような、圧倒的な、手の仕事への指向性。
表紙の馬の赤色。それはやはり、革命の「赤」を想起させ、馬というこの生き物も、農民の労働の象徴として見て取ることも出来ます。
発行人の方はロシア文学を専攻されていると聞きましたが、この詩誌を形作る一つ一つを見ていくと、それも腑に落ちますね。
木版の素朴な感触がありながらも、デザイン性をその奥に感じるのは、ロシア構成主義からの遠い響きなのでしょうか。プロレタリア美術、村山知義/マヴォ、などなど、様々な文脈も感じることが出来ます。
当店は洋書絵本の中心のお店なので、当店で扱う作家で言うとやはり木版で作品を作った、アントニオ・フラスコーニ、Klaus Winter/Helmut Bischoff、マーシャ・ブラウンなども思いだしますね。
掲載されている猪狩満直の詩を少し引用させてください。
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「君の宣言に就いて」
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「おれは芋作りになる!」
真正面からぶちつけられた君の宣言
君が芋作りになると言ふことは
君が百姓になるといふことだ
君が百姓になるといふことは
君が自らの面に汗してパンを喰ふということだ
人間にとって
これ程自然で
これ程あたりまへで
これ程なんでもないことが
どうしてからも根強く僕の心を打つのだろう
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<中略>
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僕は君の宣言の上に
新しき君の生活転向の上に
力のかぎりブラボーをおくる。
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宮澤賢治を思い出しもするでしょうか。素朴で力強い、日々のための詩と版画です。
この冊子は、無名の詩人に光を当てた、小さな小さな、無名の詩誌かも知れません。
ですが、ここには人間の生活と思想があり、それが肉付けされる紛れもない身体性/物質性があります。
2020年に、本と言うものは、本を出すということは、かくあるべきだった、そう思い出させてくれる一冊です。
50部という極小部数での発行ですので、気になる方はお早めにどうぞ。
「詩誌馬/創刊号」